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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第7章] 7-4

遠き日の夢

担当:クレア

暗闇の中に、2つの特徴的な声が聞こえている...。

希望に満ち溢れた快闊(かいかつ)な声と、人生の大半を誰からも認められずに過ごしてきた陰鬱な声。

快闊な声が感嘆の声をあげる。
「...これが錬金術か...、余は初めて見たぞ! もっと見たい! 案内せい!」
陰鬱な声の主が、まぶし気に快闊な声の主を見上げ、戸惑う。
「降将の私をこれほど厚遇しては、大王に長年仕えてきた方も面白くありますまい」

快闊な声の主は、構わず笑っている。
「余の太傅(たいふ)がいいかな? いや、それとも司徒(しと)がよいか、いやいや、司空(しくう)か?」

太傅とは、ザラール王国が併合した大国の官職で、天子を助け導き国政に参与する職のことで、地位は三公(大司馬、大司徒、大司空)よりも上であったとされた。
司徒(しと)とは、耕作地や財貨、教育などを司る官職で、司空(しくう)とは、囚人や獄の管理や、治水や土木工事を掌握する官職のことをいい、快闊な声の主が、陰鬱な声の主に対して破格の出世で応えようとしているのがよくわかる。

陰鬱な声の主が恐縮して固辞するのに対して、快闊な声の主は、その欲のない姿にますます好感を抱くのであった。

「なんだ、錬金の徒は、欲がないのだな。 ハハハハッ...!」

***

大神官は、そこで初めて自分が夢を見ていたことに気づいた。

何度も自分の名を呼んだのだろうか、少し安堵したような神官の声が聞こえてくる。

「万戸公(ばんこ-こう)王嵐(おうらん)様のご息女...、王麗(おうれい)殿が大神官様への御目通りを願っておりまする」

万戸公とは、国家に大功ある者に大王自ら大邑(だいゆう=大きな都市)を授けたことに由来する位階のことで、形骸化しているとはいえ相当な名誉であるといえる。

大神官は、王麗が目通りを請うて来ているのは知っていた。かれこれ4日ほど待たせていたのだ。

大神官は、王麗を参内させるよう、神官に命じた。

***

王麗は、最初の挨拶こそ名門の息女らしく優雅なものであったが、すぐにその仮面を脱ぎ捨てていた。

「...幼き頃より父王嵐から行政学を叩きこまれ、ザネル、ザール、ザナと3つの兄弟国へ赴任して外交と軍略を身に着けた私をこのように待たせるとはどういうご了見か!」

(なるほど、まさしく王嵐の娘じゃな...。実にうるさい...)

「そもそも大神官殿は、誇り高き戦闘民族ザレルの実質的指導者でありながら、ここ大都に貝のように閉じこもり周辺諸国と戦おうともしない!」

「そして、ザレルに住まう千万の民のためにはるばる大都まで上洛した私を、何日にもわたって無視し続けるとは、あまりにも礼を欠く仕打ち!!」

(戦いを勧めながら、礼を説くとは...。こやつもザレルの娘よな...しかし、あの王嵐の娘ということは、この激昂もまた仮の姿やもしれぬな...)

大神官は、王麗の舌鋒を正面から受けようとはせずに、参内の目的を聞いた。
「聞けば大神官殿は、優れた将をお求めとか...」
ザレル四将の座は、あとひとつ残っていた。
将すなわち、大王様の妃候補になるが? ...とカマをかけてみるも、王麗は将に任命せよと引かない。

「ふん、かつてワシと争って失脚した王嵐の娘が、このワシに、妃候補の位を無心しに参ったというわけか」
大神官は、敢えて王麗を激させようとしてみたが、それを見越していた王麗は、涼しい顔をしている。

「勘違いしないでほしいですわね...!」
「私は、己の栄達や自家の隆盛のために大王様の妃になろうというのではありません。すべては、ザレルの臣民のため! そこのところ、お忘れなきよう...!」

王麗は、暗に"安い挑発などするな"とも言っているようであった。
命脈集めもそろそろ大詰め...。
あの王嵐の娘というのが気にはなったが、将としての気構えは、これまでの中で群を抜いている。
(そして、大王様の妃候補としても...)

大神官は、王麗を火の将に任ずることを決めた。
神官たちに例の指輪を持ってくることと、ウージを呼ぶように命じた。

***

一方その頃、私たちは、地下神殿を抜け、賢者の間の魔法陣に足を踏み入れた。

ウィズワルド、エタルニア、フロウエル、サヴァロン、ハルシオニア、ラクリーカ...これまで計6度の異世界への転移をしている。

はじめ、ルミナが言った息吹の数は全部で8つ。
順調にいけばあと2回ですべての息吹が揃うことになる。

それぞれが物思いにふける中、ルミナが念じはじめ、魔法陣が輝きだす...。

「...見える、見えるわ...!」

「大切な書状を懐に、荒涼とした大地をひた走る男の姿が...」

「さあ、旅立ちましょう...! 内戦で数多の命が失われる中、戦を拡大させたい者と収束させたい者とがせめぎ合うマグマに沈みゆく神殿へと...!」

私たちは、光に包まれた...。