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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第7章] 7-5

才蔵

担当:サンドラ・カサンドラ

踏みしめようとした地面が揺れ、体勢が崩れた。

大剣を地面に突き立てて何とか堪えたあたしの横で、ルーファスは派手に尻もちをつき、クレアはカバンを提げている方にたたらを踏む。

ひとりだけ何もなかったかのように涼しい顔で手を差し出すスティールに腹を立てたルーファスが、放っておいてくれとばかりにその手を振り払うも、2度目の揺れで再び尻もちをつく羽目に...。

「異世界にきてまで噴火かよ...!!」
遠くに巨大な噴煙が立ち昇っているのが見えた。

見覚えがある風景だった。
ルクセンダルク、エイゼン大陸...あの噴煙はカッカ火山から上がっているもの...とすると、ここはエイゼン高原、シュタルクフォートの南といったところか...。

断続的に響く地鳴の中に、人の声が聞こえた気がしてそちらを向くと、スティールはもう走り出していた。

「くっ、よ、寄るなっ...!!」

赤黒い大きな岩をぬって声のする方に向かうと、ひとりの男がバルトラの群れに囲まれている...!

「拙者には、この書状を届ける責務があるのだ!!」
男は、太刀と呼ばれる曲刀を空に斬ってみせるも、バルトラたちは慄く気配もみせず、男との距離を縮めてゆく...。

スティールが投げた礫が男の背後を襲おうとしたバルトラの目を打ち、バルトラたちがそれに気を取られた隙に、大剣を振りかぶったあたしが包囲を断ち割る。

「そ、そなたらは...!?」
男が持つ太刀はところどころ刃が欠け、柄は血でぬめっている...。

あたしたちは、男の介抱をクレアに任せ、唸り声をあげるバルトラの群れに斬り込んでいった...!!

***

バルトラたちを撃退した場所からしばらく西へ歩いたところで、あたしたちは休息をとることにした。

血の匂いに誘われた獣との戦いを避けるため、バルトラたちの死骸から離れてしまいたかったが、しかし、男の傷がそれを許しそうになかった。

「危ないところを、か、かたじけなく...」
男の意識ははっきりしていたが、どうみても血を失い過ぎている。

***

男は、焚火から少し離れた岩場で、クレアが処方した薬の力で眠っていた。
今夜が山かもしれない...そうつぶやくクレアに、誰も異論を挟まない。

男の体には、魔物に襲われた傷の他にもたくさんの刀傷や銃創まであった。
まるで戦場を駆け抜けてきたようだ...スティールのつぶやきは的を射ている。

***

あの男...才蔵(さいぞう)が眠りに落ちる前、あたしに話してくれた情報によれば、今は、公国暦13年...。
エタルニア公国が、世界中に軍団を派遣しだした年になる。

第二師団のマヌマット・ボリトリィ商会がラクリーカへ。
第三師団のブラッドローズ特務隊がフロウエルに...。

一方、クリスタル正教の方では、有力貴族ゼネオルシア家の当主が逝去したり、火の巫女が殺害されたりと目も当てられない年となる。

火の巫女の死によってマグマが荒れ狂い、火の神殿が地中に沈み、この国エイゼンベルグの内戦も泥沼化してゆく...。

あたしたちがいるエイゼンベルクは、『盾派』と『剣派』の2つの派閥による内戦の真っただ中にある。

『盾派』と『剣派』...。
元は火の巫女を守る盾と巫女の敵を倒す剣という位置づけで発足した2派であったが、長い年月の間で盾派が政権を掌握し、剣派は少数派に追いやられ、クリスタルへの信仰も棄てた。

約1年前、盾派による政(まつりごと)に不満を抱く剣派が、エタルニア公国と組んでクーデターを引き起こした...そう言いかけたあたしを才蔵が遮った。
「サンドラ殿といったか、それは...、それは違うのだ...。世間の見方はどうであれ、実際は違うのだ...」

「ほう、まるで実際ってやつを知っている口ぶりだな」
無理にでも寝かしつけようとするクレアを、スティールが制止した。

(このまま寝かしつけても、この男の命はもつまい...)
あたしたちは、才蔵に思いのたけを話すよう、促した。

才蔵は、エタルニア公国軍第一師団、『黒鉄之刃(くろがねのやいば)』であると名乗った。

エイゼンベルグにて、太刀を佩く剣士...まさかとは思ったが、この男が、『剣派』と組んでエイゼンベルグを内戦の泥沼に陥れた『黒鉄之刃』だったとは...。

才蔵は、"組んだ"という響きに大いに落胆していた。
どうやら、実際にはそうではないらしい。

先年、『剣派』の当主ショクニア・ブレルが、嫡子のユメイヤー・ブレルに弑逆されるという事件が起きた。

新たな剣派当主となったユメイヤーは、国を統治する盾派への反発心...ただそれだけの理由で、アンチ・クリスタリズムを提唱するエタルニア公国にすり寄った。

剣派の思惑はどうであれ、思想に共鳴しすがりついてきた者を公国は捨て置くわけにもいかず、当時公国の第一師団であった黒鉄之刃がエイゼンベルグに派遣されることとなった。

「我々は、剣派に嵌められたのだ...!!」
才蔵は、傷の痛みからか悔しさからかうめき声をあげた。

才蔵は、懐から油紙に包まれた書状を取り出して言った。
「拙者は、今まさに火の神殿を攻撃せんとする、剣派と黒鉄之刃の合同部隊に対し、この剣聖カミイズミの書状を届けるためにここまで参ったのだが...」

それは、火の巫女がまだ殺害されておらず、火の神殿も地中に没していないことを表していた。

「しかし...、我が命は...そろそろ...尽きようとしている...らしい...」

あたしは、その書状を受け取って、誰に届ければよいかを尋ねる。

「部隊を率いる黒鉄之刃、女忍者キキョウ・コノエに...」
才蔵は、そう言い切ると同時に膝をつき、静かに地に伏した...。

***

エイゼンの岩だらけの地面を深く掘り、才蔵を埋葬した。
墓標のひとつでも立ててやりたかったが...才蔵に託された書状を大至急届けないといけない。

黙礼して開封することわりを入れ書状を開くと、剣聖カミイズミによる、火の神殿への突入を堅く禁じている文面がしたためられていた。

「重ね重ね」、「くれぐれも」...文中には、部隊の中に、神殿に突入したがっている者が少なからずいること...ぐずぐずしている余裕などないことを物語っている。

あたしたちは、カッカ火山洞へ、そして火の神殿を囲む部隊の元へ急ぐべく、エイゼンの赤黒い土を蹴った。