BRAVELY DEFAULT BRILLIANT LIGHTS
REPORT錬⾦ゼミ活動レポート
[第004章] 4-12
街の英雄
光が晴れてゆき、靴の裏に床を感じた瞬間に、つま先に重心を移して少し前傾する...。
「戻ってこれたみたいだね」
ルーファスは、今回の着地はうまくいったような顔をしているが、だいぶ後ろにのけぞってコートの避雷用アクセサリーをジャラジャラいわせている。
「さて、いつの賢者の間に戻ってこれたのか...」
俺は、出発前に準備もしていないのに、わざと難しそうな顔をしてみせると、クレアが持つランタンが、抗議の瞬きで応じる。
(最近、ルミナの感情表現がランタンの瞬きだけでわかるようになってきた)
俺たちは賢者の間を後にした。
***
ブラスの城門をくぐり、いつものように広場で旅の荷を解いていると、俺たちを指さし何かを語り合う住民の姿が見えた。
「おうおう、錬金ゼミのご帰還じゃ...!」
「カシオタの街を救った英雄のご帰還だよ」
俺たちを囲む人々の輪が増えてゆき、そこからデバコフ教授が現れる。
「キミたちが出発して2週間ほどが経ちマス。首尾はいかがですカナ?」
俺たちは、まず出立してから2週間が経っていることに驚いたが、それを今考えても仕方がないのはわかっている。
クレアが、無事、水の息吹を手に入れたことを報告し、これから急いでカシオタの街に向かおうと思う...と答えると、教授はかすかにうなずいてみせた。
かたずを飲んで俺たちの話を聞いていたギャラリーは、思い思いに喜色を浮かべている...。
教授はまず、ゴリーニ村の支援とブラスの追加の支援で、カシオタの街の食糧難は解消されたこと。それを、ゴリーニ村に支援物資を運んだクリッシーが早馬で報せてきてくれたことを教えてくれた。
そしてもうひとつ。クリッシーからの早馬を追うように、カシオタの街を治める『カッシーオ家』から、ブラスの街に対して感謝状が送られてきたことも...。
後日、謝礼の品を積んだ馬車が、ブラスにやってくるそうだ。
「あのクランブルス四家から感謝状だなんて、末代までの名誉じゃねぇか...!」
「なんともめでたい話だねぇ~」
「さあ、今夜は俺の奢りだ...! 錬金ゼミのみんなを招待するぜ...!」
ブラスの広場に、人々の笑顔の輪が広がってゆく。
俺は、なんともくすぐったくて、すぐにこの場を離れたくて仕方がなかった...。
***
ブラスで一番大きい酒場を貸し切りにして、宴が催された。
お代は、半分を街のみんなが、半分をあのクルーンという男がもってくれたという。
我らが錬金ゼミ生たちは、フロアでそれぞれが住民の歓迎を受けては乾杯・返杯を繰り返し、なかなかに出来上がってきている。
「あれ? ルーファスは?」
早くも目が笑っているクレアにルーファスの行方を尋ねると、「なんか疲れたので先に自室に戻る」と言って帰っていったのだという。
「そうか...帰りに折詰でも持って行ってやるか...」
そんな俺のつぶやきに、クレアがニヤニヤしている...。
***
「...そこで登場しましたるは、我らが英雄、錬金術師デバコフ...!」
あの歴史好きの爺さんが、いつもの講談調におっ始めると、周囲の客は一斉に喝采の盃を上げる。
「ザレルの攻城兵器が、ブラスの城壁に3つ、4つと大穴を開ける中...!」
...かたずを飲んで話を聞く住民たちは、「それで、それで?」と先を急がせる。
「英雄デバコフは、錬金術をもって城壁の穴を瞬時のうちにすべて塞いでゆく~!」
得意になった爺さんは、酒も入ってないくせに大げさな身振り手振りで場を盛り上げる。
「英雄デバコフの体はふわりと宙に舞い、宙空でとどまり静かに印を切ると、ザレルの先陣を焼き払うほどの大炎を放ったのじゃ...!」
「危険を察知したザレルの参謀は、大王の身を守りつつ撤退していった...」
「これが、21年前のブラスの戦いの顛末なのじゃ...」
住民の熱狂は最高潮に達し、盃を空ける者、肩を組んでうなずき合う者と様々だった。
「英雄デバコフは、この街を守るため、本来使ってはいけない力を使い続けた...」
ここで爺さんは、少し声のトーンを変え、住民たちの耳目は、再び爺さんに集中する。
「錬金術とは、起こす現象と等価値の何かを失う学問だと聞く...」
「壮絶な戦いによって英雄デバコフは、人の身体を失い...、街を訪れていた旅芸人が飼っていた、大陸ペンギンに転生し...、うっうううっ...」
感極まった爺さんは涙を流し、当時を知る年かさの住民もみなうつむいてしまう...。
「はいはい、お爺さん。そろそろお家に帰りましょうね」
孫と思しき娘に連れられて爺さんが酒場を後にし、フロアに集まっていた住人たちもそれぞれに散らばり、談笑し始める。
「すごいんだな、デバコフ教授って」
「よく、わかんない。あたし、赤ん坊だったし...」
素にもどったクレアが、しみじみと盃を口にしている...。
***
俺は、カウンターでひとり酔っぱらっているクルーンを見つけ、声をかけた。
「今夜は、ご馳走になった。ありがとうよ」
ここの飲み代の半分は、商隊の荷運びで生計を立てるクルーンにとって、決してはした金ではない金額になる...。
クルーン・テノヒラー(43歳)
21年前のブラス攻防戦で肉親を亡くし、自身も足を負傷している。
「なぁ~に、あんたらはブラスの英雄なんだ。また一緒に飲みたいもんだぜ」
クルーンは、真っ赤になった顔で満足そうに盃を空けていた。
宴は、真夜中まで続いた...。
***
「...姉さんっっ!!」
旅の疲れで泥のように眠っていたルーファスは、自室で飛び起きた...。
枕元の水差しを口にして飲み干す。
夜風にでもあたろうかと部屋のドアを開けてみると、ドアノブに何か袋がかけられている。
袋には、竹の葉でくるまれた折詰と、手書きのメモが何枚か入っていた。
「うまいもんでも食って、早く元気になりやがれ」
(ふん、スティールのヤツ...)
「ファイトォ、オ~~~!」
(...これは、クレアか)
「蟹は代わりに食っておいてやったからね」
(サンディ...)
ふいにルーファスの目から何かがこぼれ落ちる。
「...姉さん、僕は異世界に来ていて、こんなにも、いいヤツらに囲まれて過ごしているんだ...」
冷たい夜風が、ルーファスの見事な金髪を揺らす...。
「姉さんに、あんなことを...。あんな酷いことをした僕が、僕だけが...」
「こんな、こんな幸せで...。くっ...」
戸口で膝をつくルーファス...。
ブラスの夜は更けていった...。