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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第007章] 7-1

湖水と溶岩流

担当:ルーファス

状況は、いつものように深刻だった。

風の息吹を持ち帰って、ようやくエサカルモ火山の降灰騒動が鎮静化したと思ったのに、今度はエサカルモ火山本体の方が大噴火を起こしたという...。
いけないと思ってはいても、つい徒労感がこみ上げてくる。

ヴェルメリオで一番大きな火山、エサカルモ...。
山腹にある噴火口から流れ出した大量の溶岩がエサカルモ火山の南にあるゴリーニ湖にまで押し寄せているのだという。

エサカルモ火山の南西からゴリーニ湖西岸にかけては、クランブルス四家の『カルモ家』領になっている。

四家の中では、家格でも経済力・軍事力でも末席に位置するのも、数十年に一度大噴火を起こすエサカルモ火山のせいであるともいえる。

数千年に渡ってマグマによって作られた、いわゆる"溶岩の河"を通ってカルモ領を流れる溶岩は、村々を焼き尽くしながら南東のゴリーニ湖へと注ぎ込む。

溶岩に焼かれた村々も心配ではあるが、もっと心配なのは、ゴリーニ湖に溶岩が流れ込み、湖水が急激に蒸発すると、毒性の霧が大発生する恐れがあることにある。

毒の霧の被害は広範囲に及び、クランブルス王国847年の歴史の中で4度ほど確認されているという。

「今回は、私が現地に向かって溶岩の流入を防ぐしかなさそうでスネ...」
デバコフ教授は、相変らず読めない表情のままポツリとつぶやいた。

場合によっては、錬金の力を使う必要も出てくる...。
クレアは、珍しく気色ばんで教授を諫めた。
ゴリーニ湖水の浄化を試みた時に何を失うことになったのか...クレアと教授の間にしかわからない会話が続く...。

錬金術とは、得る成果と同じだけの対価を支払う術...。
多くは、自然界の力や物質を対価として支払うことになるのだが、それを得られなかった時、あるいは、術者の望みが支払う対価を上回った場合、術者の肉体をもって支払うことができる...いや、支払わせられるのだという。

デバコフ教授は、地下神殿の入り口で起きた落盤事故を復旧する時には瓦礫を泥に錬成して取り除き、その際左足のヒレを...。
ゴリーニ湖水を浄化しようとした時には、踵の骨の一部を。
そして、21年前のブラス攻防戦においては、人間の肉体自体が対価として支払わされてしまったのだという...。

思い起こせば飲みの席で、教授が足を引きずっているのは何故だろう? ...とスティールが首をかしげていたが、僕たちは、大陸ペンギン特有の歩き方では? ...と、特に気にしていなかったものだが、クレアは少し険しい顔をしていた。

「ちょっといいか? それじゃあ、クレアも...いや、最近俺たちがやっている錬金術の真似事みたいなことにも、その対価ってやつは支払われることになるのか?」
スティールの疑問に、クレアはかぶりを振る。
僕たちが日ごろ行う実験レベルでは、持ち寄った素材、あるいは術者が被る疲労以上の対価はそうそう求められないものらしい。

クレアがゴリーニ湖で倒れてしまったのも、術にクレアの体力が耐えられなかったから...。

「ルミナは、どう思うんだ?」
スティールは、ルミナに話しかける...。

スティールの呼びかけから数拍もおいてからようやくルミナが姿を現す。
開口一番の悪態もなく、少し...いや、だいぶ辛そうにしている。

スティールは、ルミナのために足早に経緯を伝え、これがルミナの"羽案件"かどうかだけを端的に尋ねた。

土、水、風、火にまつわることならどんなに些細なことであっても、クリスタルがもたらす調和の影響下にあるといえる。

異世界に向かい、火の息吹を入手したとしても、噴火が止められるかどうかまではわからない。
しかし、噴火が火の調和が乱れたことによるものならば、少なくとも収まる方向に向かうことだけは確かだという。

体調のせいか、ルミナのいつもの断定的な言いぐさはなりをひそめていたが、ルミナの羽模様が赤く点灯していた。

スティールとサンディが目で合図をし、クレアがそれに無言で応じていた。

***

それから僕たちは、クリッシーを呼んで今後の対応策を話し合った。

教授とクリッシーは、ゴリーニ湖へ。
僕たちは、賢者の間へと向かうことになった。