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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第008章] 8-5

フランクリンの日記(上)

担当:スティール・フランクリン

長い間、油紙に包まれていたとはいえ洞の中にあった親方の日記は、ところどころ読めなくなっていた。

◆※※※年、晩秋。
闇の十傑に選ばれたと、使者から伝えられた。
ビリーや手下どもは、名誉なことだと大喜びしているが背負う責任の重さを考えると、そう喜んでばかりはいられない。

***

親方は、闇の十傑入りを、あまり喜んでいないようだ。

◆クラム820年、夏。
突如発生した光の球に、13歳になったばかりのビリーが触れようとして、左腕を失う。
光の球が弾けたと思うとビリーの左腕の肘から先がなくなっていて、代わりに見たこともない魔物が現われ、襲いかかってきた。
その魔物を仕留めるのに、5人の手下が命を失う。
軽はずみな行為で己は利き腕を失い、一家は5人の手練れを失った。
泣き叫ぶビリーの手当てをして馬車に乗せ、機工島ゲレスへと向かう。
将来、この子に一家を継がせてよいかどうか...。
馬車に揺られながらずいぶんと考えた...。

◆クラム823年、春。
母親に似たのか15歳になったビリーは、俺の身長を軽く抜いて大男になっている。
成長が著しいビリーのために、毎年のようにゲレスに義手を注文し、そのたび目が飛び出るような金が飛んでゆく。
実の子、そしてララの血を引くビリーのためなら...、そして、あの日、俺に贈ろうと光の球に手を出したビリーのことを思えば、こんな金など...。

***

ところどころ読めない親方の日記を前後の脈絡を追いながら読み進めていると、ちょくちょく地質調査員のドーサンが魔物に絡まれて悲鳴をあげる。

そのたびサンディが外套を脱ぎ捨てて助けに行くのだが...。
こう何度ともなると、舌打ちすら隠さなくなる。

***

◆クラム825年、冬。
滞在していた王都が突如、ザレルのものと思しき大軍に襲われる。

ザレルの第一波が去った日の夜...。
俺は、宰相ランケード伯の館に呼ばれた。
知り合い...といっても、以前、不祥事をもみ消したことがある男がランケード夫人に仕えていて、その紹介らしい。

ランケード夫人は、王都から幼王を逃がそうとなさっていて、俺にその手助けを依頼してきた。

俺としては、王都でのひと仕事を終えたばかりのフランクリン一家を戦地から退去させることの方が大事だった。
夫人には、ザレルからも大物と見られている誰かを囮を立てて幼王を逃がす策を献じ、館を去った。

数日後、王都を離れつつある俺の元に、ランケード夫人が、何両もの馬車とともに王都を去ったという一報が寄せられる...。 

夫人自らが、囮となったというのか...。
俺は、身震いする思いだった。
ランケード夫人が嫡男を連れ、莫大な財宝を積んだ車列とともに西へ...。
車列は、積み荷の重みで遅々として進まない。 

避難民や交易商から寄せられる情報がやけに詳しく、漏れたのではなく"流された情報"であるのが明白だった。

俺は、ビリーに一家を任せ、数人の配下とともに夫人の車列を追った。 
戦仕様の義手をつけたビリーは、突然一家を任されたことに驚きと興奮を覚えていたようだった。

夫人の車列を追い始めて半日...。
西からザレルの部隊が引き揚げてくるのに遭遇する。

岩陰からその部隊を眺めていると、誰もが戦利品の財宝を身に着け、卑しい笑みをたたえ緩みきった行軍だった。

夫人を襲った者たちに違いない...。
俺は、部隊が東へと去るのを確認した後、馬首を西へと向けた。

多くの足跡が刻まれる大地のところどころに拾われなかった硬貨や装飾品が落ちている。
中には王家の財宝も見受けられる。

夫人は、俺が言ったように追撃の兵に向かって財宝をぶちまけ、足止めしたらしい...。

地に伏すクランブルスの兵の骸が増えてきた。
夫人を守る軍団が、いずこから駆けつけたとでもいうのか...。

しばらく馬を走らせると、血砂の大岩に激突し横転しているクランブルス王家の馬車があった...。

近づいてみると、腰から下を大岩と馬車に押し潰されているランケード夫人がいた...。
夫人は、助け出そうとした俺たちを目で制し、横転した馬車の中を指さした。
夫人は、良人のランケード伯が先立ったことを知っているかのようだった...。「愛するオラシの元へ」...良人の名を呼び、朝焼けの中、静かに夫人は息絶えた。

夫人から子どもと形見の腕輪を預かった俺は、その子にスティールという名をつけ、引き取ることにした。

スティールの出自は、ビリーにも明かさず、いずれ成人を迎えたら手渡そうと、形見の腕輪は厳重に保管した。

***

日記には、親方が王都にいたことがあること...。
ランケード夫人に逃走の協力を求められたが断り、手引きだけをしたこと。

夫人が親方の手引き通りの行動を起こし、その悲壮な決意に打たれた親方が夫人を看取り、俺を引き取ったことなどが、親方の目線で記されていた。

思えば、俺の出自について語らなかった親方は、すべてを明かすと言っていた俺が成人する日に、この辺りの詳しいことを語るつもりだったのかもしれない。

◆クラム827年、夏。
天衝山脈の麓で、サイローンとザレルの大軍が激突したという。
無口だったスティールも、ずいぶんと一家に馴染んできたようだ。

スティールには、長剣を与えた。
スティールは、一家の中で誰も扱えぬ長剣を持て余し、「短刀の方が扱い易いのに」と不平をこぼす。

スティールは、自分だけが仲間外れにされていると思ったらしい。
一方、ビリーは、スティールだけが特別扱いされていると不満そうだった...。

***

俺に長剣を持たせた親方なりの考えが、文字になって残っていることが嬉しかった。

思えばこの親方の配慮が、俺とビルの確執を呼んだともいえなくはないが、それでも...。

このくだりが記された日記をビルの野郎はどんな気持ちで保管していたのだろう?

***

遠くでカラスが鳴く声が聞こえた気がした...。

そういや、晩飯の当番だったな...。
俺がそう思って親方の日記を閉じると、気を使ったクレアとルーファスが焚火を熾していた。

サンディが積雪を切り出したブロックを積み上げて、焚火の北側に風よけの壁を作ってくれている。

「もうすぐ出来上がるから、スティールは親方の日記を読んでなよ」
ルーファスが、また鍋に過剰に香草を入れようとしている...。

(いや、ここに辿り着けたお前らと一緒に、読み進めてぇからな...)

柄にもないことを口走りそうになるのをぐっと堪え、ルの字から香草の束をもぎとって鍋の前にどっかりと腰をかける。

「フランクリン一家直伝のこの煮込みだけは、誰にも任せらんねぇんだわ。わり~な」
もぎとった香草は、サラダにいれることにしてクレアに手渡す。

「美味しそうな匂いですね~」
魔物に追われていないドーサンが、焚火の方へと歩いてきた。