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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第008章] 8-6

フランクリンの日記(下)

担当:スティール・フランクリン

サンディが作ってくれた風よけの雪壁のおかげで大分寒さはしのげたけれど、やはり明け方の寒さは身に沁みた。
食料袋の中では、ただでさえ焼きしめられてカチカチだったパンが寒さでさらにカチカチになっていた。
俺は、夕べの煮込みにぶちこんでパン粥にしてみんなが起きるのを待った。

「魔物に襲われるのを気にせず眠れて、温かいものを腹に入れられただけで天国ですよ」
ドーサンはそう言って地質調査へと向かっていった。
昨晩は焚火の側で、どうすれば魔物に絡まれないか...そんなことをサンディに聞いていたが「調査をやめることだねぇ」と一蹴されて凹んでいたものだが...。

寒くて重くて動きの邪魔になって...雪は厄介なものではあったが、温めれば水をふんだんに使えるという意味では、飲み水にするにも洗い物に使うにも重宝する。

朝飯で使った食器を洗い終えると、俺は親方の日記を手に取る。
自然とクレア、ルーファス、サンディも集まってきた。

***

◆クラム832年晩、春。
スティールは、自分が俺と血のつながりがないことを、ビリーを通じて知っていたようだ。
お前が成人したら形見の品とともに出自を教えてやる...俺がそうつぶやくと、そばで聞いていたビリーの瞳に不穏な色が走ったような気がした...。

◆クラム833年、秋。
酒に酔ったビリーがしきりに闇の十傑の話をしてくる。
あまり表には出せない名を大声でがなりたてる。

◆クラム835年、冬。
ビリーは、スティールに渡そうとしていた形見の品をフランクリン一家の継承の品だと誤解しているらしい。
形見の品の在り処をしつこく聞いてきては、酒をあおって荒れる日が続く...。

◆クラム837年、夏。
一家の半分を任され、自由にできる金も増えたからか、ビリーは義手のカスタマイズに余念がない。
先日は、新機能をつけたという義手が制御できなくなり近くにいた仲間に大けがを負わせた。
俺の叱責を浴びたビリーの瞳には、明らかな憤の色と微かな悲しみの色合いが宿っていたようにも思える。

◆クラム838年、冬。
スティールの指揮の下、大きな仕事が成功に終わった。
殺さずの信条を守った堂々とした盗賊っぷりだった。
盗賊としての大成などを認めては、ランケード夫人の叱責を浴びそうだが、何にしても早晩、形見の品を渡し、スティールの出自を伝えねばなるまい。

明日、スティールに...

***

来客でもあったのだろうか、親方の日記は、不自然にここで終わっている。

何せ、9年も前のこと...。
この時何があったのか、俺も詳しく憶えているわけではなかった。

だがおそらくこの翌日...。
ビルの野郎は、親方を殺害し、俺の胸にバーナーで焙った腕輪を押しつけて奪っていった。

***

「あの~、すみません...」
がっくりと肩を落としたドーサンが雪をかき分けてやってきた。

「また魔物にかぶりつかれたのかな?」
ルーファスがからかってみせたが、その通りだったらしい。

「え、ええ...そのまさかで...。私のテントが魔物に占拠されてしまいまして...」

夕べみたいに、僕たちの焚火の近くで寝ればいいのにとぼやくルーファスだったが、ドーサン曰く、ドーサンのテントは馬車と一体化したものになっていて、多くの観測器具や記録用の書類が積まれているらしく、そこを魔物に占拠されては仕事にならないのだという。

俺は、親方の日記を閉じて、丸太に立てかけておいた長剣を手に取った。
ドーサンが歩いてきた方向にサンディが伸びをしながら向かい、ルーファスが続く。

すぐ後ろのクレアが、何かを拾ったような気がした...。

***

ドーサンのテントを占拠したという魔物を追っ払った俺たちは、焚火のところへと戻ってきた。

すると、真剣なまなざしのクレアが何かの紙の束を手渡してきた。
出発前に、親方の日記から落ちた、おそらくビルが書いたものだという。

そう言われても四つ折りにされた紙の束を、俺は開くことができなかった。

「しかも、一番最後のは、ごく最近のものよ」

ビルは、この地に通っていたというのか...?
廃村とはいえ、母親の故郷で墓まであるのだ。当たり前といえば当たり前か...。

俺は、折りたたまれた紙片をまだ開けずにいた。
クレアによれば、この紙片にはビルの側からみた情景が描かれているという。

父親に憧れ、父親のようになろうと努力した情景。
突然現れた弟に、父親を奪われたかのような気持ち、父親と似ていない自分と、父親にそっくりな養子の弟...。
無神経な周囲の声、裏目裏目に出る出来事の数々...。

"誤って"親方を殺害してしまった時のことも...。

二人の口論...激昂した両者の怒声に反応した義手が暴走し、ビリーの意思に逆らって親方の首を掴み絞め続けたこと...。

「...そんなの嘘だ...。嘘に決まってる!!」

それでもなお、紙片を開けない俺は、声を荒げることしかできなかった。
そうかもしれない...とクレアはその可能性を認めてくれた。
だが、ルーファスはゆっくりとかぶりを振ってそれを否定した。

S・ビリーが事後に自分を正当化するためにこの紙片をしたため、廃村となった村にある母親の墓石の裏に、紙片を挟んだ実父の日記の隠匿場所を記す...。
もし、S・ビリーがこの情報を世に広めたいと思っていたのなら、あまりにも迂遠で回りくどいやり方だといえる。

ビルに親方を殺害するつもりはなかった。
しかし、殺意につながる恨みめいたものは溜まりにたまっていた...。
その時、最悪の暴走が起きてしまった...。

ヤツもまた、葛藤があったというのか...。
いや、そんなはずは...!!

「この紙片は、日記とともにスティールが持っていて」
クレアは、紙片の内容を読めとは言わず、ただ親方の日記とともに持っていてと言った。

「ここで、この紙片を捨て去っちゃいけない気がするの。級長命令ですから」
クレアたちと出会う以前なら、鼻で笑っちまうような殺し文句だったが、今となってはこの命令に抗うことはどうしてもできなくなっている。

「チッ...、わかったよ」
俺は、紙片を再び親方の日記に挟み込んだ。
紙片が収まっていたところのページが、紙片の束の厚み分凹んでいて、ピタリとはまった。

(え、読まないのかい?)
そう、言いたげなルーファスの肩を、サンディがポンと叩いてかぶりを振った。
このビルの書いた紙片を読める日が来るのだろうか...俺には甚だ自信がなかった。

***

地質調査員ドーサンがまたやってきた。
また魔物に襲われたのかと思ったら、この辺りの調査をひと通り終えたので別れの挨拶に来たのだという。

平たくいえば、やはり温暖化は進行しているらしいが、その原因までは分かっておらず、これから新都に戻ってデータの解析と対応策の練り込みをしないといけないという。

そういって、ドーサンは例のテントと一体化したという馬車に乗り、新都に向かって去っていった。

***

ドーサンを乗せた馬車が小さくなる頃、クレアのランタンが光り出し、ルミナが姿を現す。

具合は、まだ良くなってはいないらしい。
曰く、...下の下の下だったのが、俺が作ってやった肉のあつもののおかげで下の下の中ぐらいには戻ったらしい。

「今度はスタミナがつくヤツを作ってやるよ」
...と言ってやると「あ、私辛いのは苦手だから...」と釘をさすルミナ

(何千年も生きてる妖精なのに、辛いものがスタミナつくものだという世間と同じような先入観を持ってんのな...)
俺は、そんなことを思っていたが、次にルミナが口にした言葉に驚かされた。

「...私の羽が、反応しているようなのよ」

よく見れば、ルミナの最後の羽模様がかすかに瞬いている。
すると、この温暖化による異常な雪解けは、火の息吹によって解決できるということなのか...?

「おそらく...」
あくまでもルミナは推定のことだと言い置きながら、それでもこれで息吹が8つ揃うことになる。

決して世界中の災厄が一気に解決されるわけではなく、それこそ下の下の下から下の下の中ぐらいの変化はありそうだった。

もともと努力がすぐに実るのを拝めるとは思っていなかった。
俺たちは、ブラスの街へ戻って、物資を調達したら賢者の間へと向かうべく、荷造りを始めた。