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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第008章] 8-7

ひび割れ

担当:クレア

スティールが作ってあげた『スタミナあつもの』のおかげか、ルミナの具合も少しよくなってきたらしい。
私もみんなも味見させてもらったけれど、特に辛くも赤くもない、豆や種子、植物の根の部分などがたくさん入ったスープだった。

時々目を覚ましたルミナに様子を尋ねると、最近同じような夢を何度も見るらしい。

何かがひび割れるイメージ...。

ルミナが遥か昔に感じた何かのイメージなのか、これから直面する予知夢的なものかはわからないけれど、何かを暗示しているように思えるのだという。

このランタンが割れて、ルミナが自由になるという兆しかも...私の楽観をルミナは無理やり受け入れて再びランタンの中で眠りにつく...。

そして、そのルミナの耳に聞き覚えのある声がこだまするのだ...。

「...そんなこと、私は絶対に赦さない...!!」

***

暗闇の中、2人の人物がもめている。

「...そなたは...、カ、カウラ...!! な、なぜ...?」
ひとり目の人がうめき声をあげると同時に、ぼたぼたと何かが垂れる音。

「あなたがいけないのです...! あれほど順調にいっていた研究を中止するだなんて...!」
カウラと呼ばれた人物が、ひとり目の人物に何か体当たりをしたらしいが、カウラと呼ばれた人物の方が狼狽しているようだった。

「...リスタル...は、......が...、.........のです...それを...あ...たは、...ぐっ...
カウラと呼ばれる人物が体当たりするたびに、ぼたぼたと何かが垂れる音が増えてゆく。

「...あなたが見捨てたこのクリスタルの繭は、私がもらい受けます!!」

巨大な力で、壁面から何かが引き剥がされるような音と、瓦礫が落ちてくる音、おそらくひとり目の人物が地に倒れる音が響く...。

「...ま、...、待っ...」
ひとり目の人物が、地を這うようにしながら空を掴んでいる。
まるで逃げてゆくカウラをつなぎとめようとするかのように...。

***

繭の玉座で、大神官は目を覚ました。

またうたた寝をして、あの夢をみていたらしい。

いくら大神官がクランブルス王国の錬金術師だったとはいえ、古の大錬金術師とその高弟カウラがなぜ夢の中に居座るのか...。

しかも、双子であり忠実な弟子でもあったカウラが古の大錬金術師を刺し殺すという、錬金の徒にとって想像することすらできぬようなことが、ここ最近、何度も何度も繰り返し夢に出るのだ。

連日の激務で疲れているのか、それとも大王様の復活まであと少しという事実に興奮しているのか...。

いずれにせよ、大神官の大望は成就しようとしている。

「戒めねばならぬ、戒めねば...」
大神官が自分に言い聞かせた言葉が、玉座の間に響いて消えた。

***

王麗の幕舎で食事をともにし、四将の親睦は深まったといえよう。

幕舎を出て、風に当たる4人...。
王麗は、他の3人の将が知ることのない20年前の事情を語ってやるのだった。

大神官の名はヅクエフといい、元はクランブルス王国の錬金術師だった。

クラム825年、ザレル軍がクランブルス王都を占領した際に、名だたる降将の中にその姿があった。

ザラール帝国を祖とするザレル・ウルスも、攻め獲った国土も、人材や文化でさえ貪欲に吸収することは、侵攻された側の水の将ソーニャや風の将ナンナンにとっても理解できる。

そして、降将を蔑むことなどは決してしないものの、降伏した時のヅクエフはあまりにも身分が低く、本来ならば大王ザレル2世の目に留まることなどなかったはずである。

しかし、降伏した者たちと引見に臨んだ大王を、襲撃した者がいて、それを未然に防いだのが、末席にいた錬金術師ヅクエフだった。

ヅクエフが駆る錬金術に大変興味をもった大王は、自身の側に常にヅクエフを置くようになり、クランブルスの故事を語る伽衆(とぎしゅう)、大王が発する政令をしたためる祐筆(ゆうひつ)...、大王の教育係の傅(ふ)を経て、わずか1年の間に太傅(たいふ)にまで位階を進めることになる。

ヅクエフの異例の出世に、古参の臣下は黙っていなかった。

さすがに放っておけなくなったザレル2世は、非難の声を黙らせるために翌年、ヅクエフの指揮で『遺跡の街ブラス』への親征を決定するも、ブラス城内にいた敵の錬金術師の反撃にあって、予期せぬ大敗を喫することになる。

王麗の父、王嵐の見立てによれば、この時の敗戦で大王の心は一度折れてしまったように思え、そこに翌年、北方の大国サイローンと激突した『天衝山麓の戦い』が起きる...。

双方合わせて10万を超える軍勢が天衝山麓の平原で激突し、サイローン側では、参戦していた七将全員が討ち死に。双方ともに半数の兵が死傷するという大戦で、大王ザレル2世も、混戦の中で敵兵に囲まれたヅクエフを救うために単身突撃を敢行し、全身に傷を負うのであった。

その時の傷のせいで、ザレル2世は今も眠ったまま...。
大神官ヅクエフが、大王様の覚醒に心血を注ぐのは、こういった事情があるからである。

王麗は、父王嵐の副将として20年前の3つの戦すべてに従軍していて、これら大神官ヅクエフによって秘匿された事情を知悉していた。

ガイラ、ソーニャ、ナンナンにとって驚愕の事実であった。

***

大神官ヅクエフもまた、20年前のあの日を思い出していた...。

重傷を負った大王様が目を覚まさない...!

大神官ヅクエフは、旧王都の地下...慣れ親しんだ錬金の研究施設の中をあてどなく歩き、最深部にて秘宝『騒乱の種』と出会うのである。

『騒乱の種』は、ヅクエフの身体や思考を浸食し始め、大王様のお命をつなぐ手法を語りかけてきた。

大王様を古代からこの地に伝わる『繭』でお包みする。
8つのクリスタルの命脈を異界から手に入れ、繭に奉納すること。

大神官ヅクエフは、その先兵となる4人の男、サージ、サガン、ウガン、ウージを自身の左耳、左眼、右眼、右耳から創り出し、繭の玉座を造った。

ザレル2世に自身の心臓を捧げ、代わりに据えた『騒乱の種』がヅクエフに語りかけてきたという。

「わ...我が名は...、カウラ。悲憤の錬金術師カウラ」

***

大神官ヅクエフのうたた寝を、神官の声が打ち破った。
火の将王麗が目通りを願っているという。

大神官ヅクエフは、王麗の目通りを許した。