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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第008章] 8-8

ザレルの蠢動

担当:サンドラ・カサンドラ

あたしたちは廃村キドケイユからブラスへ帰る途中、国境の街ニーザへと立ち寄った。

キドケイユで発見したスティールの養父フランクリンの日記から得た新事実などを報告するためにテロール将軍を訪ねてみるも、あいにく留守だった。

あたしは、将軍の側近のマイヨ兵士長が残っていることに違和感を覚えたが、マイヨと話しているうちにその理由が明らかになる。

最近、ザレル軍の動きが活発になってきており、土の将ガイラ、水の将ソーニャ、風の将ナンナンあたりが兵を率いて国境付近を荒らしているという。

将軍は、それらの動きを陽動とみており、ザレルの本当の目的を測るために自身をあえて前線から外してみることにしたのだという。

そんな博打のようなことを...スティールが呆れていたが、マイヨはそれを冗談で返せるぐらいには余裕があるらしい。

であるならば...、あたしたちはブラスへの道のりを急ぐことにした。

クレアが手早く将軍への書状をしたためマイヨに手渡したその時、慌てた口調の兵士が幕舎に駆けこんでくる...!!

「ザレルだ...!! ザレルの新手が出たぞ~~!!」

新手というと、あの火の将王麗が率いた部隊ということか...。
あたしたちは、迎撃に出るマイヨに同行することにした。

***

ニーザの街から東へ半日といった近場で、ザレル軍は陣を布いていた。

四将がそれぞれ500名の兵を率いて、今日は火の将王麗が総指揮をとっている。

先日、王麗の幕舎で親交を深めた四将は、自分たちの力を測るために敢えて国境の街ニーザへ戦を仕掛ける許可を大神官に求め、渋々ながらそれを容れられた。

大神官ヅクエフは、四将はあくまでも命脈を得るために存在するものとしていて、ザレルの軍組織に組み込むつもりはなかったらしい。
土の将ガイラ、水の将ソーニャ、風の将ナンナンらに国境付近を荒らさせていたのは、あくまでも命脈入手が済んだ3将に暇つぶしをさせていたに過ぎない。

***

王麗の下に、物見の兵からニーザの街より共和国軍が出動したとの報告があった。
これまで必ず陣頭に姿を見せていた敵将テロールの姿はないという。

(病にでも伏しているのか? それともクランブルスの中で政変でも...? あるいは罠か...)

王麗の中で微かな迷いがあったが、当初の予定通り、共和国軍に一戦仕掛けてみることにした。

ザレル軍は、火の将王麗を主軍として中央に、左翼に土の将ガイラ隊、右翼に風の将ナンナン隊、後方に水の将ソーニャが布陣している。

王麗、ガイラ、ナンナンの各隊が、突出してくる共和国軍を包囲して交戦。
戦いが膠着するのをみて後方からソーニャ隊が突入するといった手筈で、あくまで敵の出方をみる陽動作戦だった。

敵が突出するそぶりを見せなかった場合や、交戦後、早々に引き揚げてしまった場合には、深追いはせずそのまま大都へ引き揚げるつもりである。

王麗は、扇を前方にかざし、隊の前進を命じた。

***

一方その頃、偵察を終えたスティールとあたしは、マイヨ兵士長に報告をした。

「やっぱりな...。どうやら、俺たちと顔なじみのヤツらしいぜ。火の将王麗...、ザレルの重臣の娘なんだそうだ」

偵察兵が新手といっていた中央の隊に棚引く赤い旗には、『王』の文字が縫い込まれていた。

(あたしたちから見て)右翼に布陣する土色の旗の隊がガイラ隊で、左翼に布陣する緑の旗の隊が風の将ナンナン隊だと思われる。

あたしは、共和国軍を2つに割り、錬金ゼミ生が先頭となった部隊が突出して王麗隊の足を止めるので、マイヨ兵士長率いる主軍は、右翼のガイラ隊へ集中するよう進言した。

(それでは、左翼の隊を野放しにしてしまう)
マイヨ兵士長の憂いはもっともだったが、この戦いの目的が敵の陽動とみたあたしは、完全な包囲が完成でもしない限り総力戦にはならないと思っていた。

そして、マイヨ兵士長に集中するよう進言した右翼の隊は、おそらく土の将ガイラの隊...。
主軍の王麗隊と、生粋のザレル軍であるガイラ隊との連携が一番スムーズに展開されるであろうからそれを警戒し、連携の一端となるガイラ隊をマイヨ兵士長率いる主軍で押さえてしまおうという作戦である。

ザレル軍の進軍の合図、太鼓の音が響き渡った。
(ちなみに、ザレル軍の戦様式では、ザール帝国時代からずっと、進軍時には太鼓、退却時は鐘が鳴らされることになっている)

「さあ、敵さんのお出ましだぜ~!!」
スティールの声が、味方の兵があげる鬨の声でかき消された...。

***

物見の兵が、共和国軍の突出を報告してくる。

「ふふふっ、敵にも猪がいるみたいね」
そうつぶやいた王麗であったが、内心では笑ってはいない。

(テロール将軍に代わる敵将はよほどの凡将とみえる...)
兵の総数で劣るのに、それを2つに割ってわざわざ包囲の輪に飛び込んでくるとは...。

智将にとって唯一恐れねばならぬのは、愚かな敵将による無軌道な戦いにつき合ってしまうことだが、その油断も王麗にはない。

「それっ、包囲して差し上げなさい!!」
王麗が左翼のガイラ隊、右翼のナンナン隊へ合図を送らせたその時、近習の兵が叫び声をあげる...!

「王麗様っ!! 突っ込んでくるのは、ブラスのヤツらです!!」
驚く王麗の目にも、あの忌々しい凸凹コンビの姿が見え始める...。

「サンドラ・カサンドラ、推参!!」

「スティール・フランクリンのお出ましだぜ~! 一べつ以来だなぁ~、火の将王麗さんよ~」

(くっ、どうしてブラスの者たちがここに...!!)
王麗は、突然の出来事に自身が狼狽していることを自覚していた。

「とっ、取り囲むのです!! ガイラ隊、ナンナン隊に合図を!!」
王麗の命令は、ガイラ隊にもナンナン隊にも届いている。
しかし、左翼のガイラ隊が敵の本隊に抑えられて包囲が完成できないでいる。
「...あんたにとっちゃ連携しやすい同胞だろう? 土の将ガイラは、邪魔させてもらってるよ」
スティールが逆手に持った長剣を腰だめに構えている。

(まずい! このままでは...)
王麗が対応を模索していると鬨の声が後方から上がる!!

「王麗様、後方のソーニャ隊が突入してきますっ!!」

(なんですって!! そんな策は命じていないはず...。いえ、これはこの状況をみてソーニャが働かせた機転だというの...!?)

前方にいる王麗、ガイラ、ナンナンの3隊による包囲が、敵の妙手によって阻まれている。
本来、最後のダメ押しとして突入するはずのソーニャ隊であったが、王麗隊の救出のために迷わず突っ込んできている。

「ソーニャ隊の合流の後、一撃離脱する!!」
王麗が近習の兵にそう命じた時、斧を頭上で旋回させながら接近するソーニャの姿が見えた。

「水の将ソーニャ、推参っ!!」
「王麗様、指輪を!!」 そう促された王麗が、指輪を掲げて叫んだ。

「指輪よ、我に無限の戦場を与えよ!!」

***

辺りは例の巨大な石柱が浮遊する情景に変わり、視界の端ではルーファスの細く美しい髪が大きく上下している...。

ルーファスは、両手を膝について腰をくの字に曲げて息を弾ませている。
クレアは、凍った地面に腰を下ろして天を仰ぎ、投げ出すようにしたカバンからブブが心配している。

2人は、火の将王麗が指輪を掲げたのを見て猛ダッシュしてきたらしい。

「ま~たこの空間かい...」
音も立てずに空中をゆっくりと回転する巨大な石柱を眺めながらあたしが口にしたのは、ボヤキにも似たものだったが、スティールは違っていた。

「まあ、この方が都合がいいってもんよ」
そうつぶやくと、向こうにいる王麗とソーニャの元へツカツカと歩を進める。

***

あのスティールという男が豪胆にも、長剣も構えずにこちらへとやってくる。

「火の将王麗、あんたにちょっと聞きたいことがある」
ソーニャが斧を握り返し、力を込めるのが横目で見える...。

「...な、なにかしら? 言ってごらんなさい」
スティールの接近を、扇を指し示して制止する王麗の手は、小刻みに震えている。
(震えず裏返らず、上手く言えてるかしら...)王麗には心許なかった。

「あんた、22年前の王都の戦いにも、翌年のブラスの戦いにも参戦しているんだったよな?」
足を止めたスティールが発した言葉の意味を、王麗が完全に理解できるまでしばし時間を要した。

「クランブルス王都にいた宰相ランケード伯の最期を知りたい!!」
スティールの言葉を、傍らのソーニャも、スティールの仲間の3人も驚いて聞いている。

「クランブルスでは、幼い王と民を棄てて自身は助かろうとした大奸臣として有名なんだか...」

(だ、大奸臣...? 何を言っているの、この目の前の男は...)

「その嫌われもんの宰相、実は俺の本当の父親らしいんだわ」

(え? だからこの子はいったい何を言っているの?)
スティールの口から次々と更新される情報の波が、王麗の明晰な頭脳を大いに惑わせていた。

「王麗殿、あまり時間をかけては、味方の戦線がもちません」
ソーニャの冷静な声が、迷子になりそうだった王麗の思考をギリギリで引き留め、王麗が制止するのもきかず、勝手に戦端を開いてしまった...!

***

辺りに血砂の匂いとともに血の匂いが漂いだしている。
どうやら、元の世界に戻ってきたらしい。

あたしは、ソーニャの鉄斧をもろに受けた大剣の刃が気になり目をやった。
折れている感覚はないが、小さな欠けは免れないだろう...。
研ぎに出して、また剣身が痩せてしまうのか...。
これでは、大剣ではなく細長剣になってしまう。

隣で王麗の火の礫を全弾避けきったスティールが息を弾ませている。

「しっかしまさか、戦闘前にあんな質問かますとはねぇ」
「王麗のヤツ、面食らってただろ?」

あたしたちのやり取りを聞いて、少し離れたところからルーファスが変な声をあげる。

「えっ、まさか敵将を動揺させるためにわざと?」
スティールは、今や豆粒のように小さくなった王麗とソーニャを見据えながらルーファスに答えてやる。

「いや、知りたかったってのは事実だよ。ひょっとしたら、クレアの両親の話なんかも聞けるかもと思ったんだけどな~」
小さく驚くクレアをブブが心配している。

スティールの弾んでいた息は、もうすっかり元通りになりつつある。

右翼から共和国軍がザレル軍を迫撃する喚声が聞こえてくる...。
主軍の王麗・ソーニャ隊、左翼のナンナン隊は退却の準備を進めているようだった。

「さあ、マイヨに報告しに行こうぜ」
騎虎の勢いといって、戦況が有利な状態になってからが引き際を選ぶことが難しくなってくる。
テロール将軍の薫陶を受けたマイヨ兵士長に限ってそんなことはないだろうが、無用な追撃を考えているようならば諌止しないといけない。

あたしらは本陣にではなく、マイヨ兵長率いる右翼の主軍へと歩を進めた。

***

想定していたよりも味方の被害が大きい...。
軽やかに戦いを挑み、華麗に敵を翻弄して引き揚げるはずだったのに...いったい何を見誤ったのだろうか。

「王麗殿、お怪我はありませんか?」
王麗が怪我などしていないのは、ソーニャにもわかっていただろう。
どちらかというと、思わぬ負け戦...そう言っても過言ではない戦況に動揺する王麗を気遣っての言葉だった。

「此度は、水の将ソーニャの機転に助けられました」
ザレル屈指の名家の令嬢が、異国の臣下となった自分に頭を下げている事実に、今度はソーニャが少なからず動揺した。

「さあ、もうすぐ日が暮れます。引き揚げましょう」
ソーニャの進言に、王麗は無言でうなずいた。

(それにしても...、あのスティールが、ランケード伯の実子だったとは...)
全軍の被害が判明するのは、明朝になりそうだった。

***

その頃、錬金の街ブラスの裏路地では、怪しいフードをかぶった2人が密談をしている。

Mr.ローズのお供と、クリッシーと一緒にブラスに来て以降行方不明になっていた世界教の宣教師である。

宣教師は、ブラス内部に潜む『隠れ世界教徒』の屋敷に匿われ、ブラス内の情報を仕入れていたらしい。

ローズのお供に首尾を尋ねられ宣教師は、
「上々です。あの厄介な教授は、ゴリーニ村に向かったまま...。錬金ゼミの生徒たちも最近は街を留守にしがちです」
...と、近況を報告する。

2人はサイローン帝国やガーマ王国の情報を共有し、四家への根回しの状況について、四家の中に根付く勤王派への根回しについてしばし話した。

宣教師が「これで920年にもわたる我らの恨みが」などと口走ると、ローズのお供は「それをいうならば我らの恨みなど5000年の恨みということになる」と張り合って不気味に笑っている。

ふと路地から出てきた母娘が、2人の姿を見て小さな悲鳴をあげた。
2人はそそくさと、裏路地の影に溶け込むように消えていった。