BRAVELY DEFAULT BRILLIANT LIGHTS

REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第008章] 8-9

8度目の転移

担当:ルーファス

道の真ん中に立った下役人のおじさんが、城門をくぐる人たちに気さくに声をかけている。

「やあ、元気かい?」
「商売の調子はどうだい?」
おじさんの笑顔は、ブラスの城門をいつも和やかにしていた。

ところが、スティールによると「あれは、声をかけて怪しいものかそうじゃないかを見極めてるんだぜ」...なんだそうな。
そういえば...、目が合えばにこやかなのだが、おじさんが幾人もの旅人に同時に配る視線は、どれも鋭いものだった。

その下役人のおじさんが、手放しの笑い声をあげる。

「やあ、クレアじゃないか。おかえり。今帰りかい?」

僕たちは、ブラスの街に帰ってきた。
国境の街ニーザ近郊で起きたザレル軍との遭遇戦に参加してから3日が過ぎていた。

僕たちは、まずは広場の入り口で荷解きをする。
僕たちの帰還を知った(主にスティールの知り合いの)業者が集まってきて、スティールが示した今回の旅で得た戦利品に次々と値を付けてゆく。

大よその戦利品がさばき切れた頃合いを見て、各自の荷物を自室に放り込むようにして街の共同浴場へ。

男女に分かれて旅の埃を落とし、全員がサラサラヘアな状態で酒場に集合し、祝杯をあげる...までが錬金ゼミの習慣になっていた。

***

「...ふ~~~~っ!! やっぱりブラスの地ビールは絶品だね~」
サンディが豪快に樽ジョッキを飲み干して声をあげる。

(ニーザの街でも飲んでたじゃないか)
そんな僕のつぶやきを耳にしたスティールが、ブラスの地ビールは、ニーザの地ビールよりも酸味があって喉ごしがいいことを教えてくれたけど...下戸の僕にはさっぱり理解できない醍醐味で、反論もする気もわかなかった。

「...そういや、デバコフ教授の帰りが遅いね」
教授は、まだゴリーニ湖から帰ってきていなかった。

物見遊山にしては長すぎる。
この分では、明日の賢者の間への出発は、教授の許可なしでの出発になるだろう。

少し酔ったとトローンとしているクレアに、サンディが背を貸して自室まで送っていった。

僕とスティールが酒場で、バカ話でゲラゲラ笑っている時にクレアとサンディは深刻めな話をしていたらしい...。

***

翌朝、城門で下役人のおじさんに地下遺跡の調査報告書を提出すると、僕たちは賢者の間へ向かって出発した。

血砂荒野を抜け、地下神殿に入り、襲いかかってくる魔物を一蹴した後、早めの野営をする...。

「はぁ? クレアが惨殺されるイメージ...?」

出発して最初の野営は、新鮮な食材が並ぶことが多い。
そんなご機嫌な状況での鬱な話題に、スティールも僕も目を丸くした。

サンディによると、火の巫女カーシャ様が、予知夢のような形で、赤い荒野で多くの兵に囲まれた僕たちの姿を見たのだといい、別れ際にそれを伝えられたのだという。

地に伏して動かなくなったクレアと、僕たち3人がそれを呆然とただ眺めている...そんなイメージだったらしい。

スティールが厚切り牛タンのロースト、サンディがカニ炒飯、クレアがミルフィーユカツサンドをそれぞれ頬張って、うんうんうなずいている。

(そんなもの頬張りながらする話題じゃないだろうに...)
こんな時、すぐに食欲がなくなる自分の胃がとても恨めしかった。

「...それで、最近サンディの動きが変だったのか」
牛タンローストを飲み込みきれずに真っ赤になっているスティールが、手探りでコップのお湯を探している。

スティールは、ここ最近のサンディが必要なさそうな時にまでクレアの援護に入ろうとするのを気にしてはいたらしい。

僕も薄々だけどそれを感じていていたけれど、スティールが指摘をしない以上、そういうシフト(クレアは僕たちの要だからしっかり防御する的な)に変えたのかとばかり思っていた。

「そっか...、不自然だったか...」
サンディが金属製の皿に大きめのスプーンをカランと置く。

「気にすることねぇよ。そんな予言みてぇなことを明かされたら誰だって妙な力が入っちまうもんだ」
クレアに差し出してもらったお湯を飲み干してひと心地ついたスティールが、腹をさすりながら言う。

「さて、サンディの事情はわかった。お前の重石は、俺とルーファスも抱えてやれる。あとは...」
スティールの視線を向けられたクレアは、みんなの負担にならないように気をつけるなどと言っていたけど、負担なんかでは決してない。
無駄な突出だけ控えてくれ、そう言ったスティールだったが、クレアの突出など見たこともない。

「つまり、いつも通りのクレアでいいんだよ」
珍しく僕の言葉が皆の共感を得たらしく、僕の前に牛タンロースト、カニ炒飯、ミルフィールカツサンドの小皿が次々と並ぶ...。

(だから、そんなに食えないんだってば...)
焚火がパチっと音を立てた...。

***

賢者の間に到着すると、さっそくルミナが僕たちを魔法陣の上にいざなった。
「...見える、見えるわ...! 父の使いを済ませ、故郷の町へと雪原を行くひとりの娘の姿が...」

「さあ、旅立ちましょう...! 人の弱さと醜さ、罪深さが渦巻き、己の安寧のために他者を谷底に追い落とそうとする弱き者たちが集う雪の要害へ!!」

いつにも増して不穏そうな文言が並び、僕はその意味を辿るように噛みしめていると、光と音にかき消される妙な言葉が聞こえた。

「そして...、この子らの...」

(え? 今何を言ったの? ねぇ、ルミナ...)
僕たちは、光の中に消えていった...。