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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第008章] 8-10

深雪

担当:スティール・フランクリン

(雪、か...)
気がつくと足元がフカフカしていた。

サンディが周囲を見回し、エタルニアかクストラ列島かと、もしここがルクセンダルクならばどこだろう? ...と思案している。

ルーファスは、エクシラントに来たのなら...と、この見渡す限りの雪原は、ライムダールかもしれない...と、それぞれがそれぞれのテリトリー内での想像を巡らせている。

クレアがブブのヤツに、何かを頼むと、カバンから4人分の冬用のブーツが出てきた。
(ああ、エタルニアの街でエインフェリアからもらったアレか...)

俺たちは、それぞれ冬用のブーツに履き替え、これまで履いていた靴をブブに預ける。
ブブはカバンから何かを出すときよりも、何かを入れるときにご機嫌になるのが最近わかった。

「キャ~~~~~~っ!!」

ブブの喜びを遮るような悲鳴が、雪原の空気を斬り裂いた。

雪原を行く若い女性が、巨大な牛頭の魔物に襲われている。

「お、案内人の到来だぜ」
「でっかい案内料の方もやってきたみたいだよ」
「しっかりと、恩を売って差し上げましょうかねぇ」

俺たちは、まるで山賊か追い剥ぎのような言葉を交わし、走り出した。

***

「危ないところを、本当にありがとうございました」
年の頃はいくつぐらいになるのだろう?
俺やルーファスと同じぐらい? いや、クレアと同じぐらいか...。
深々とお辞儀をする娘に、ここがどこなのかを尋ねると、ライムダール雪原だとの答えを得た。
(なぜかルーファスが得意げな顔をしていやがる...)

ライムダールの町までは、ここから西へ...吹雪いてもいないので日が暮れるまでには到着できるという。

俺たちは、町までの護衛を志願するとともに、町への案内を頼んでみると、快く承諾してくれた。

娘の名は、マルグリットといい、父親はランドルフといってライムダール正教の司祭をしているのだという。

***

雪原を歩く中、サンディがあることに気づく。
「ライムダール正教ってことは、似たような教えが他にもあるのかい?」

正教...正しい教えと喧伝しているとなると、それに対抗する似たような教えが存在したはずで、元祖と銘打つ老舗店には同業者が必ずいるのとよく似ている。

ルーファスによれば、深雪の国ライムダールが、ライムダール正教という宗教が治める国だとは知っていたが、それがどんな宗教なのかは...もっといえば、宗教なるもの自体に何の興味も持たなかった彼にとっては、理解ができないのだという。

「さあ、みなさん。町が見えてきましたよ~」
マルグリットが指し示す方向に、異様な町並みが見えてきた。

***

深雪の国ライムダール。

深い谷底を抱く両岸の急峻な崖に、教団施設と思しき豪奢な施設が建ち並び、それらを結ぶ長い石段が、渓谷内や崖肌を縦横無尽に這っている。

「歩くだけでヘトヘトになりそうな町だな...」
そうつぶやいて階段をのぼろうとしたところ、いきなりズルっと足元が滑る。

雪で足元が滑りやすい上に、初めて来た者は頂上付近の建物を見ながらのぼるので余計に滑りやすいのだという。

「ドモヴォイ最高司祭様だ~!」
誰かの声を境に、町中から似たような声が次々とあがりだし、その先に長い白髪の老人が立ち、人々の歓声に手を上げて応えている。

どういった原理でなのかはわからないが、背中に金属の輪が浮遊しつつ回っている。
若い頃に相当無理な修行でもしたのか、顔の左半分に火傷のような痕があり、両の手のすべての指に包帯が巻かれている。

「おお、神竜様の声をお聞かせください...!」
「我々を、お導きくださ~い...!!」

俺が物心ついた時には、世界教などはもう廃れきっていて宗教というものには無縁で育ってきたが、どことなく危うさを感じる町の雰囲気に、拒否反応のようなものが起きかけている...。

「ドモヴォイ最高司祭様は、神竜様の声をお聞きになり、民に届け、導かれる唯一無二の存在...」
気持ちのいい娘であるのはわかっていたが、マルグリットもまたライムダール正教の信徒である以上、俺がこの町に感じている危うさの対象になる...。

「これはこれは、マルグリットさんではありませんか...」
(ちっ、登場人物が多過ぎだ。それに、振り返らなくてもわかる。こいつは決して関わりたくない部類の人間だ...)

「これは、ヘリオ審問官殿...」
ヘリオと呼ばれた長髪の男は、穏やかな口調とたたずまいで常に微笑を浮かべていたが、その細い目の中で瞳は決して笑っていない...。

審問官とは、町の住人の中から人をたぶらかす『妖精』を見つけ出し審問所で神判を執り行っているというものらしい。

クレアに、(ランタンに触れるな)と目くばせする。
微かにうなずいたクレアに近づくヘリオ審問官...。

「な、何を...」

「じっくりと観察しているのです...。この中に妖精が紛れているかどうかを...」

(クレアに圧をかけつつ周囲の俺たちの様子も観察していやがる...。ますます油断がならねぇ...)

ひと通り俺たちの様子を探ったヘリオ審問官は、
「今は町の外で起きた『光の球』の調査が先です」
...と言い捨て、お付きの部下と共に去っていった。

俺たちが小さくため息をついている意味を、おそらく理解していないマルグリットが微笑みを浮かべる。

「さあ、みなさん、父のところへ参りましょう。こちらの階段を上ります」