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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第008章] 8-11

神竜

担当:クレア

急な階段をのぼり終えると汗だくになっていて、渓谷を吹き抜ける涼風が心地よいぐらいだった...最初の数秒間だけは...。

ランドルフ司祭の家は、階段をのぼりきったところに建っていた。

扉を開けると内部はとても暖かい。
小さな暖炉が目に入ったが、あの程度の暖房器具でこれほど温かくなるものだろうか...。

マルグリットさんを出迎えたランドルフ司祭は、おそらくライムダール正教の司祭服だろうものに身を包む穏やかそうな方だった。

雪原で魔物に襲われ、私たちが撃退したこと。ライムダールまで護衛をしてくれたことを聞くと、一介の旅人に過ぎない私たちに丁寧に頭を下げた。

ランドルフ司祭は、どことなく心ここにあらずといった雰囲気だった。
訳を尋ねると、神竜様の御子が行方不明になったとかで、その捜索で大わらわなのだそうだ。

神竜の御子...? 首をかしげる私たちに、ルーファスとランドルフ司祭が交互に解説してくれる...。

以前ルーファスは、エクシラント大陸では、ドラゴンは一匹しかいないと言っていた。

その一匹とは、このライムダールが神竜様と崇め奉り信仰の対象にしているドラゴンのことで、ライムダール正教のドモヴォイ最高司祭が唯一神竜様の声を聞き、人々に伝えられる存在なのだという。

御子ということは、そのドラゴンの子どもが行方不明ということになる。

ランドルフ司祭によれば、神竜様の御子は、一週間ほど前にこの町にやってきて、人間を見てもまったく恐れる様子もなく、ドモヴォイ最高司祭にいざなわれるままに大聖堂へ入っていったのだという。

ドモヴォイ最高司祭が御子の声を聞き届けると、お告げの通りに失踪した者が無事にみつかり、盗まれていた町の宝物が雪の下から発見されるという奇跡が起きたらしい。

その御子が、姿を消してしまった...。
数日前まで町の入り口にある宿屋に滞在していた魔道士の仕業に違いないと、町の噂になっているという。

先ほど出会ったヘリオ審問官や、グラディスという人も御子の捜索に当たっているらしいが手がかりが足りていないのだという。

そこまで語っていたランドルフ司祭が、何か名案でも浮かんだかのように喜色を現わす...。

「娘の危難を救ってくれたあなたたちにも、神竜様の御子を探していただきたいのですが...いかがでしょうか?」

先ほどからスティールの表情が晴れない...。
この依頼、受けるか否か判断に迷っている様子であったが、私の判断でとりあえずは受けてみることにした。

***

ランドルフ邸を出ると、再び頭がキーンとするような寒さが私たちを襲う。

「この世界に竜が一匹しかいなくて、それを神竜と崇め奉るのは理解できる...でも、御...子どもがいたんじゃ、少なくても一匹ではねぇよな」

スティールにしては理屈っぽい意見に、ルーファスが私見を交えてそのカラクリを推察する。
曰く、あくまでも仮定の話だが、一子相伝とかそういう形で継承はされるが、ドラゴンにも成竜と子竜があるのではないか、というもの...。

スティールの表情はまだ晴れない。
最高司祭が聞き出したという神竜の御子のお告げの内容が薄いというか、簡単に仕込みができそうなものだったし、国を治める宗教が神の御子と崇める存在の捜索を、娘を助けてくれたとはいえたった今で会ったばかりの旅人に任せるものだろうか...。

皆で考えても答えなどでない...。
無言のまま、階段をくだり終えた私たちは、まずは町の人から情報を収集しがてら、防寒具を調達して出発することにした。

マルグリットさんがいうには、神竜の御子がこの町に現われてから、この辺りの寒さも緩んできたらしいが、それでも私たちにとってみれば不慣れな雪国には違いがないのだ。

***

「でぇ~~~い!! お~~~りゃっ!!」
サンディの豪快な掛け声は聞こえるものの、巻き起こった雪が煙のように視界を奪って何も見えない...。

膝まで積もっている雪を先頭に立ったサンディが大剣で掻きだしながら前に進んでいる。

「ほれ、あたしが雪をかきながら進んでいるんだからそんなにヒィヒィ言ってないで、とっとと進みな!」

少し後ろでヘバっているスティールとルーファスに容赦のない檄が飛び、除雪の鬼と化したサンディが再び大剣を振りかぶったその時、とても低い位置から低めの声がかけられる...。

「お、おい!! ちょっと待つのだ!! そこの女!!」
大剣を振りかぶったまま、サンディが周囲を見回すも声の主はいない。

「下だ下っ...!! 大剣を振り下ろそうとしているお前の足元だ!」
サンディが見下ろしてみると、そこにはトカゲのようなものがいた。

子どものぬいぐるみのような大きさで、サンディに比べればとても小さいが、トカゲにしては大き過ぎる。

それが、喋っているのだ...。

私たちが口を開けて驚いているとトカゲさんは、
「またそういった手合いか...」
...と、ため息をつく。

「近頃、我が住処まで漂ってくる死の臭いを辿ってこの町の近くまで来てみれば...会うもの会うもの、やれ人語を解するトカゲだの...トカゲのくせに物言いが不遜だの言いおって」

「こやつらこそは、我をかの地に連れて行ってくれるものと思って声をかけてみたが...、どうやら我の買い被りだったようだ」

トカゲさんは、見た目の可愛らしさに似つかわしくない低い声で、それこそ似つかわしくないほど小難しい言葉を並べたてると、何処かへと去っていってしまった。

「今のは?」
「さあ、喋るトカゲってことは、あれが神竜の御子だったんじゃねぇの?」
「リザードマンって線もあるからねぇ」
「ルクセンダルクには、そんなのもいるの?」
「さあ? お目にかかったことはないけどね...」

雪原に立ち止まり、あーでもないこーでもないと話し込んでいる私たちに、今度は言葉がまったく通じそうにない魔物が襲いかかってきた。

***

襲いかかってきた魔物たちを一蹴し、再び除雪師サンディを先頭にした雪中行軍が続く...。

どれぐらい進んだ頃だろうか、サンディが振りかぶる大剣を止め、前方に何かを発見する。

あれが、神竜の御子の子なのだろうか?
御子という割には、そばにいる人間よりも大分大きい。

「や、やばい...!! お、追手だ...!! 急げよバハムート」
「バ、バハ~~...」
「早くしないと、ま、また捕まっちまうじゃないか!!」
「バハ...、バハァ...」

私たちの存在に気づいたのか、2人は必死に逃走にかかった...が、可哀そうになるぐらいにその足は遅かった。

急げ急げとカリカリしている魔道士と、その横を必死にボヘボヘと飛んで...というか、重すぎて浮遊しているぐらいにしか見えない"赤い大きなもの"が、私たちから逃れようと必死にジタバタしていた。

あっという間に追いついたサンディのつぶやきが、反撃に出ようとする魔道士の動きを止める...。

「うん...? それ、ファイアドゴンじゃ...」

その場にいる者すべてが困惑している中、後方からまた別の声がかかる。

「お手柄でしたね、旅の方々...!!」

***

声の主は、あのヘリオ審問官だった...。
何人かの教団関係者と思しき人たちを引き連れている。

「神竜様の御子は、私が確保したと、グラディスの隊に報せてやりなさい」
...と配下の人に命じた後、私たちの横を素通りして魔道士風の男の前に出る。

「まったく、神竜信仰のあるライムダールから神竜様の御子をかどわかすとは...。ふとどきにもほどがあります...。本来ならば、審理にかけてやるところですが...いや、いいでしょう。神竜様の御子を置いて、どこへでも立ち去るがよろしい!」

審理という言葉の響きに、私たちには理解が及ばない嫌な圧が込められている。

魔道士風の男は、ブツブツと何かを言っている。
隙をみて反撃しようとしているようであったが、ヘリオ審問官にそのような隙はなさそうだった。

「さあ、神竜様の御子よ、参りましょうか」
御子と呼ばれた赤い大きなものは、嫌がって魔道士風の男に何やら訴えている。

「参りましょうか!!」
ヘリオ審問官の細い目が最大に...それでも糸のような目が毛糸ぐらいになっただけだったが...見開かれ、観念した赤い大きなものがボヘボヘと連れていかれてしまった。

***

町へ引き揚げてゆくヘリオ審問官たちを眺めていたスティールが、先ほどサンディがつぶやいた『ファイアドゴン』について尋ねる。

サンディ曰く、エタルニア公国が軍事的に改良を加えた使役魔獣で、ドゴンという原種の他にファイアドゴン、アイスドゴンなどの亜種がいるのだそうだ。

さっきまでうなだれていた魔道士風の男が、はっと顔を上げる。
「お、お前たち、エタルニアを知ってるのかよ!!」

なるほど...。
たしかヘリオ審問官は、光の球の調査でも忙しいと言っていた。
この人は、光の球でルクセンダルクからやってきた来訪者なのかもしれない。

「グラープっていう砦に探索に入ってすぐ、急に目の前が明るくなって...」
グラープとは、エイゼンベルグにあるグラープ砦のことで、仲間と一緒にある呪文を探していたのだそうだ。

気がついたら雪原の真っ只中にいて、近くの町へ立ち寄ったら全く知らないライムダールで、町の偉いさんたちがバハムートを見て「神竜様の御子だ」と騒ぎだしたのだという。

バハムートというのが、あの赤い大きいの...ファイアドゴンの名前らしい。
この魔道士風の人はオミノス・クロウといって、スティールなどはブラスの街でも見かけたことがあるらしい。

(...ということは、ブラスのオミノスさんと、ここにいるオミノスさんは別人ということになるのかしら...)

初めのうちはチヤホヤしてくれたライムダールの人たちだったが、日を追うごとにオミノスさんへの待遇は悪くなってゆき、バハムートが心配になったオミノスさんは、大聖堂に忍び込み、バハムートを取り戻したのだという。

「あいつ、僕のファイアを食べて育ったから、この国の珍味やら珍魚やらを出されてたみたいだけどげっそりと痩せていたんだ」

私たちは、げっそりという表現に多少引っかかるものがありつつもオミノスさんの話を聞き続けた。

「連れ出したんじゃない、取り戻したんだ」
うつむいたオミノスさんの帽子の鍔越しに、光るものがこぼれ落ちるのが見え2人の関係が伺える気がした。

行きがかり上、私たちもオミノスさんからバハムートちゃんを引き離す手助けをしてしまったわけだが、ライムダール正教の、少なくともドモヴォイ最高司祭とヘリオ審問官あたりの上層部は、神竜の御子じゃないバハムートちゃんを御子だと言って民を欺いているのがわかった今、それにつき合い続けることはない。

私たちは、ライムダールの町へ戻り、バハムートちゃんを取り戻すことにした。