BRAVELY DEFAULT BRILLIANT LIGHTS
REPORT錬⾦ゼミ活動レポート
[第009章] 9-1
御子誕生
ルミナが閉じ込められていたランタンが目の前で割れ、破片がはじけ飛んだ。
「あんなに何をしても割れなかった、あのランタンが...」
かつてランタンを割ることに一番躍起になっていたサンディが、目の前であっさり割れる姿を見て呆然としている。
ルミナがガタガタと震えだし、身をかがめる。
寒いのかと覗き込むと、予想外の声を漏らす...。
「...産まれ...る」
私は、自分でもどこから出しているのかわからないような声をあげ、サンディは、「お湯、お湯だよ。お湯っ!!」と叫んでいる。
ルーファスとスティールなどは、2人とも(なぜか腰を落として)無言で右往左往しているだけ...。
「ブブちゃん...! お湯をとって...じゃない! 薪と鍋と水を...」
私の無茶な指示に忠実に従うブブちゃん。
薪が並べられ、鍋と水の入ったボトルが置かれ、マッチまで手渡された直後、ルミナがまばゆい光に包まれ、やがてその光が賢者の間全体を照らしだす。
***
光の中で、ルミナが何かを抱いている...。
金色に輝く卵のような、涙の粒を湾曲させたような...なんとも形容しにくい形をしたもの...。
「これが...、クリスタル...?」
目を見張る私たちに、少しやつれて見えるルミナがかぶりを振る。
「いいえ、この子はまだ『クリスタルの御子(みこ)』...」
御子とは、私たちの世界でいう幼生とか、赤ん坊とかそういったものらしく、やがてクリスタルの繭となり、その繭が孵るとようやくクリスタルが誕生するのだという。
「...今、はっきりと思い出したわ」
ルミナは遥か昔に起きた出来事を完全に思いだしたようだった。
古の大錬金術師は、このまま原初のクリスタルの創造事業を継続すると『無のクリスタル』が誕生してしまい、『無のクリスタル』は誕生と同時に暴走を始め、やがて世界を滅ぼしてしまうことを推測し、双子の弟、錬金術師カウラとともに打開策を模索した。
数か月後、古の大錬金術師が異界から力を借りることを発案し、錬金術師カウラが異世界に行き来する方法を発見した。
2人の策は共有され、異世界から力を借りて原初のクリスタルに注ぐことが決定された。しかし...
突然、原初のクリスタルの創造は中止になった。
古の大錬金術師に錬金術師カウラは激しく食い下がり、やがて逆上したカウラは古の大錬金術師を殺害し、繭の段階にまでなっていた原初のクリスタルを奪って逃げた...。
瀕死の大錬金術師は、カウラから聞いていた異世界へ行き来する魔法陣をここ賢者の間の床に刻み、クリスタルの母であるルミナをランタンの中に保護し、何があっても決して壊れぬよう結界を張ってくれたのだという。
その奪われた原初のクリスタルは今、ザレルに存在する。
クリスタルの繭の段階で盗まれて5000年は経過しているわけだが、仮に無のクリスタルと化していたら、ヴェルメリオは、昨今の荒廃程度ではとても済んでいないだろう...そういう意味で、ザレルに渡った繭は、途中で成長が止まっていたものと思われる。
そして現在、繭の成長を促すためにザレルは異世界に命脈を求めている。
四将たちは口々に「大王様を目覚めさせるため」と言っていた。
...とすると、繭を孵すことと大王を目覚めさせることが同時に行われているということなのか...?
それに関しては、ルミナにとっても知る由もなかった。
私たちは、大至急ブラスに戻ってデバコフ教授に報告することにした。
ルミナは、今の話を包み隠さず教授に話すことを承諾してくれた。
***
地下神殿を抜けて地上に出てみると、何やら空気が少し違っていた...。
西から走ってきた男の人が、「西から、西から...」と謎の言葉を残して東へと逃げてゆく...。
何のことかわからず唖然としているところにまた別の交易商らしい人が逃げてくるのが見える。
私たちの脇を駆け去ろうとする交易商をスティールが捕まえて問い質すと、
「西...西から...軍団がやってくるんだよ...! い、急いで逃げない...と...」
...そう叫ぶと交易商は、スティールが掴んだ服を振りほどくようにして東へと逃げてゆく。
軍団...?
私たちが首をかしげていると、すぐ近くをとんでもなく高速な何かが通り過ぎる...!!
「...えっ...、教授?」
通り過ぎていったのは、デバコフ教授だった。
スティールが追いかける...も、なかなか追いつかない。
大陸ペンギンの疾駆は馬よりも速いと聞いたことがあったが、これほどとは...。
豆粒のように小さくなった教授にスティールがようやく追いつき、何かを話している。
息を切らせながら私たちが2人追いつくと、教授の口からは驚くべきことが告げられた。
「西から強大な軍勢が、ブラスの街目掛けて進行中なのデス!」