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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第009章] 9-8

錬金隔壁

担当:サンドラ・カサンドラ

王軍の砲撃によって街は蜂の巣をつついたような大騒ぎになっていた。

交易商は売りに来た荷を解くことなく次の街へ向かうことを決めたり、行くあてのない母子などは地下遺跡へ避難することを考えたり...。

それは、街役人のウエニオ・モネールなども例外ではなかった。
思考が常に新都に向いているモネールは、自身では何の判断もできない。
唯一、デバコフ教授が建築すると言っていた『錬金隔壁』とやらに一縷の期待を寄せるだけである。

***

隔壁とは、元々ある城壁の周囲に一定の距離を空けてもう一周壁を設けることで、最初は隔壁上から攻め寄せる敵を応戦して、やがて形勢が不利となったら従来の城壁内に兵を避難させてから渡してあった橋を落すという、古今東西、わりとポピュラーな籠城戦の戦法として確立されている。

ただしそれは、隔壁を建設する時間や資材の余裕がある場合に限られており、今回のブラスにはそれは当てはまらない。

デバコフ教授は、それを錬金の力で作ってしまおうというのだ...。
今回城壁の点検をしてわかったことだが、21年前の戦いで当時旅の錬金術師だった教授が、城壁が崩れた箇所を物理的に塞いだ跡(六角柱の集合体のような浅黒い物質でできた構造物)が今でも残っているが、今回はそれとは違う隔壁を敷設するという...。

クレアなどは、教授の身に何かあるのではないかと心配している。

教授曰く、隔壁と言っても西側全体に壁を作るわけではなく、砲弾などの高速移動する物体にのみ反応して小さなバリアが発生する術を、城壁の外側に錬金の力で敷設するのだという。

それに、今回ばかりは錬金ゼミ全員の力を借りるので、教授の身体のどこかが失われるなんてことはないだろうとのこと...。

「クレア以外、錬金術なんて誰も使えねぇけど...いいのかよ」

スティールの質問はもっともだった。
ルーファスなどは「僕はこの間、真鍮(豆粒大)を錬成できたけどね」などと得意げにしていたが、要はその程度の弟子たちなのである...。

「ええ、あなたたちは、術の依り代(よりしろ)になっていただきマス」
教授は、また聞き慣れない言葉を使ってウンウンうなずいている...。

***

依り代とは、神霊が依り憑(つ)く対象物という意味で、本来ならば神体や神域を指す言葉であるが、教授としては錬金術の媒体...錬金術を現実世界に媒介...両者の関係をなかだちするという意味で使っていた。

つまり、あたしたちに元々ある霊力的なものを術者である教授が利用して錬金の隔壁を錬成する、といったもの...。

まずは、あたしとスティールとルーファスの3人が、ブラスの城壁の周囲に約100歩の間隔を空けて立つ。

それぞれの間に立った術者(教授やクレア)が隔壁錬成の術を唱える...といったものである。

最初はスティールとあたしの間でクレアに見本を見せる...。

「ハァアアアアぁぁ...。フんっ!!」
術をかけるのは一瞬で終わったが、ただ立っているだけでどんどん何かが吸われてゆく感覚がするのがわかった。

次はあたしとルーファスの間で、その次はルーファスとスティールの間...と3人が代わる代わる依り代となって、ブラスの西半分に錬金隔壁を敷設するというのだ。

***

「これで半分ほど完成しまシタ」
教授とクレアが額に汗を滲ませながらうなずき合っているが、隔壁などはどこにも見えない...。
本当に隔壁ができているのか不安になる。

「サンドラ、その辺の石くれを、思いっきり城壁に向かって投げてみてくれまスカ?」
あたしは、言われたとおりその辺にあった拳大の石を思い切って振りかぶって城壁に向かってぶん投げてみる...。

すると、城壁の手前で六角形の何かが発生して石を弾き返すではないか...!!
「あのぐらいの速度からの飛翔物に反応して弾き返しまスガ、人や馬車などは素通りできる壁なのデス」

教授は、腕組みをしてうなずいている。
スティールとルーファスは、さっそく石を握りしめて投げたそうにしている。
「ふたりとも、ずいぶんと力が有り余っているのでスネ?」
教授のつぶらな瞳が妖しく輝いた...。

***

夕方を前にして、錬金隔壁は完成した...というよりも、さすがに術者の教授の体力が限界に達していたのだ。

教授を隠れ家に送っていって、あたしたちは物思いの崖に登ってブラスを眺めてみることに...。

「すげぇよな~。こうやってみても何にも見えないのに、飛来物にだけ反応する錬金の隔壁が存在するってぇんだからな~」

こうして眺めてみても何も見えない。
そして、西門には交易商や旅人などが行きかっている。
しかし、ひとたび砲撃があると、それらは弾き返すのだ...。

「なあ、ルミナ...、教授が前に言っていた『先人』について、君は何か知っているのかい...?」

ルーファスが何とはなしに聞いた質問に珍しく素直に応えるルミナ。

「先人...、錬金術が繁栄する遥か以前にこの世界を支配していた古代人のことよ」

先人の時代にも、世界の崩壊の危機があったらしく、それを打開するために、あたしたちが『巨人の矢』と呼ぶ建造物を12本も大地に降り注がせたのだという...。
それが、8000年前とも1万年前の出来事ともいわれているらしい。

ルミナが創り出された錬金の都の全盛期が約5000年前...その時には、『先人』は滅んでしまったという。

***

王軍の陣では、ヤーラ・レヤック指揮官の暴走が物議を醸していた。

軍令違反をしたレヤックを詰る者、レヤックに続けと逸る者と様々だったが、ブルース元国王はレヤックを後方に回しただけで特段何も反応を示さなかった。

あの宣教師がブルース元国王とブルースの従者にだけ聞こえる不思議な声色で先人と世界教について語る...。

『先人』の教えを色濃く残す形で成立したのが『世界教』で、約2000年前、サイローンの地で誕生した。

"世界"の概念を最初に...中世の時代、オーベック港から西へと向かった船団の生き残りがヴェルメリオとはまた別の大陸を発見する遥か以前から認識していたといい、その教義は"先人の世に回帰すること"。

先人に代わってこの世を支配した錬金学を嫌忌していた。
先人の立場からいえば、錬金学とは、先人の世を破壊して世界の崩壊をさらに加速させた愚か者の学問ということになる。

約920年前、サイローンの地で起きた宗教改革で、世界教の、時の教皇が追放されてしまう。

その放浪の教皇を庇護したのが、ブルースの先祖、群雄割拠の数十にもおよぶ小国が争いあっていた世で、一族の存亡をかけて戦い続けるクランブルス公爵になる。

民にとって新しい教え、世界教をもって民意を味方につけたクランブルス公は、破竹の勢いで周辺の諸領主との戦いに勝利して、827年前、ついにクランブルス王国を設立する。

クランブルス王国は世界教を国教とし、以降、両者は一心同体だった。
400年前の『クランブルスの大乱』が起こるまでは...。

かつて、クランブルス公と争って従属した4つの家が画策して起きたクランブルス史上最大の内乱...。

有名な童話『放浪王と四剣の物語』の題材ともなった、クランブルスに住む者なら子どもでも知っている内乱で、一度は放逐した王家を、その輿望を利用して国を壟断するためにあえて四家が手を差し伸べ美談とした。

クランブルスの大乱以降、ゆるぎない権力を有した四家は、王家に与力する世界教こそ国の病巣と断じ、徹底的に排斥するようになった。

約150年前、時のクランブルス王を暗殺したのが世界教の信徒であると工作した四家は、圧倒的な世論を背景に世界教をクランブルスから追放した。

世界教という翼を失った王家は四家を恨み、両者の溝は誰の目にも明らかなものになる。

***

クランブルスの民のほとんどが忘却の彼方に追いやっていた歴史が、ブルース元国王、宣教師、ブルースの従者によって語られる...。

そこにスグニユ・カペーロ指揮官がやってきて敬礼をした。

「ブルース国王陛下...! 第二陣の出撃準備が整いました...!!」

ブルース元国王は、あまり民を殺すな...と、曖昧な指示をしてカペーロ指揮官を送り出した...。