BRAVELY DEFAULT BRILLIANT LIGHTS
REPORT錬⾦ゼミ活動レポート
[第009章] 9-9
市街戦
砲撃時にその反動でエリートバエルの機体が地面に埋まってゆくのを防ぐための補助脚の展開を命じたスグニユ・カペーロ指揮官は、攻略を命じられた錬金の街ブラスの学搭を見据え、腕組みをしている。
中流貴族の次男坊だったカペーロは、クランブルスの貴族制が廃された後も、これといった役目を命じられることもなく、兄で家長のイツモユ・カペーロからわずかな捨扶持を貰って細々と暮らす毎日だった。
今回の王軍の決起に際して、一族の存亡をかけて兄弟で敵味方に分かれ、兄は旧主のアルデバイド家に、そして彼は王軍に与力した。
幼い頃からの憧れで頭の上がらなかった兄は、旧主と共に戦死し、家名は王軍に与力したスグニユが継ぐことになった。
(うだつの上がらなかった俺の人生に今、追い風が吹いている...)
この追い風を逃すわけにはいかない...。
ブルース国王の下で大手柄を立て、功臣として後世に語り継がれる未来を、スグニユは夢想している。
「カペーロ指揮官、砲撃準備完了です...!」
部下の報告にゆっくりとうなずいたカペーロ指揮官は、砲撃開始を告げる右腕を大きく天に掲げ、勢いよく振り下ろした。
「撃て~~っ!!」
3機のエリートバエルの周囲に爆風が生じ、居並ぶ兵士たちの着衣をはためかせていた。
***
イヴァールは、街の人に避難をするよう説得していた。
普段は、『ブラスのディベート王』などとうそぶいて、自分に説得できぬものなどはない...と豪語していたものだが、目の前にいる街の住民の誰一人としてイヴァールの提案に首を縦に振ろうとはしていない...。
徒労感と無力感に苛まれるイヴァールの耳に、高音の何かが飛来してくるような音が聞こえ、思わずふり向いて空を仰いだ。
次いで、轟く轟音と立っていられぬほどの振動が襲う...!!
「キャ~~~ッ!」
「砲撃じゃ! 砲撃が始まってしまったのじゃっ!」
「ひぃ~~っ!!」
蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う街の人たち...。
しかし、轟音と振動こそ凄いが、ブラスの郭内が被弾している様子はない...。
見れば、城壁よりも少し上の辺り、迫りくる弾丸の軌道上に緑色の六角形の光が展開し、すべて弾き返しているようだった。
「見てください! デバコフ教授が敷設した『錬金隔壁』のおかげで、砲撃が無力化されています」
周囲にイヴァールの言葉を聞いているものなど誰一人としていない...。
イヴァールは、こみ上げる無力感を打ち消すように姿勢を正して、西の空を見ながら大きくうなずいてみせた。
(あれが...、錬金隔壁。やるじゃないか錬金学...)
***
「わわわわっ...! ほ、砲撃が始まってしまったではないか...!」
珍しく自室から出てきていた街役人ウエニオ・モネールが、デバコフ教授に叱声を浴びせている。
砲撃はすべて錬金隔壁によって無力化してあるので大丈夫だ...教授がいくら言って聞かせても、この腹の底に響いてくる轟音を前に落ち着く様子がまったくないモネール。
密かに無視を決め込んだ教授の元に、国境の街ニーザに駐屯しているテロール将軍に援軍を依頼しにいったクリッシーが復命する...。
「おお、それで? 将軍は、援軍は望めそうでスカ?」
ただ喚くだけの街役人モネールの相手をしなくて済むことを喜ぶデバコフ教授であったが、クリッシーの表情は冴えない...。
テロール将軍は、援軍に来れない...。
最近、ニーザ近郊でのザレルとの小競り合いが頻発しているらしく、援兵を送るわけにはいかない、とのこと...。
話を聞いていた街役人モネールが力なく膝をつく...。
将軍の援軍が来ないことも想定の片隅に入れていた教授は、モネールほど落胆はしていなかったが、何かが酷く気にかかった...。
(なんだ? 私のこの焦りはいったいどこカラ...?)
「しかし、凄いですね。西側城壁で、砲撃を弾き返す光の壁を見ました。あれも、錬金術なのですか?」
(うん? ニーザに行っていたクリッシーが、なぜここにイル?)
(砲撃が始まり、錬金隔壁が発動している今、どうしてここにいらレル...?)
デバコフ教授の額に、みるみる冷や汗が浮かび上がり流れ落ちる...。
「クリッシー、あなたはどこからブラスに入ってきたのでスカ?」
クリッシーは、錬金隔壁が施された西門から普通に帰ってきていた...。
砲弾は弾き返すのに、人や馬、馬車などは素通りできる錬金隔壁に、感動すら覚えている...。
「...しまッタ...」
今度は、デバコフ教授が膝をつく番だった...。
***
同じ頃、エリートバエルの砲撃がまったく効かないことにイライラしていたスグニユ・カペーロ指揮官の下に、物見からの報告があった。
「...ほう、砲弾は弾き返すというのに、西門からブラスに入っていった者がいる、と...」
どうやら敵が敷設した面妖な隔壁は、低速度の人や物には反応しないらしい...。
つまり、エリートバエルが歩行して侵入する分には妨げられることがなく、城門を越えてから城内に砲撃を加えてしまえば...!!
カペーロ指揮官は、部下が制止するのも聞かず、全軍のブラス城内突入を命じた。
***
「...敵がこの街に接近しているわ」
大講堂にやってきたニハルの表情が暗い。
街役人モネールが悲鳴を上げ、錬金隔壁があるのではなかったのか! と喚きたてる。
「隔壁は、砲弾は弾き返しまスガ、人や馬、物は通過できるのデス」
教授がまるで赤子を諭すように教えてやっていると、ひと際大きな音と振動が響いてきて、大講堂のガラスが何枚か割れ落ちた...。
分厚い鉄板が倒れる音...。
「...城門が、破られたようだねぇ」
サンディが、おろしたての大剣の握りを確認する。
(ヤツらの重火器に、俺たちの剣と魔法がどんだけ通用するか...)
確かめている余裕などない...。
学搭の階段を駆け下りる俺たちの後方で、街役人モネールの「隔壁は、隔壁は!」という悲鳴にも似た声が響いていた。