BRAVELY DEFAULT BRILLIANT LIGHTS

REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第009章] 9-13

王軍第三陣

担当:ルーファス

僕たちは、ブラスに侵入した王軍を撃退した。
街役人のモネールは、おそらくこれがブラス初の夜戦だと興奮していたが、僕たちは21年前のブラスの戦いをデバコフ教授から詳しく聞いていたのでそのような感慨はない。

教授が整理したという街の区画こそ違えども、敵の侵入をできるだけ阻もうと屋台や小屋を壊して作られたバリケードや、それに火がついて石畳を照らす様子などは、21年前のそれと変わらないのだろう...。

炎の中に浮かび上がる敵を、クレアやイヴァールはどのような気持ちで見ていたのだろうか。

***

「ほう...、ブラスの街には錬金の隔壁なるものが施されている...と?」

ブルース元国王は、復命するスグニユ・カペーロ指揮官の報告を受け、敢えて明るい表情を浮かべ驚いてみせた。

(これは...! 部下が止めるのも聞かず夜戦を仕掛けて撃退されたことをお怒りではない...。むしろ、人や物が城門を通過できる情報をもってきた私を褒めてくださっているというのか...)

ほっと胸をなでおろすカペーロ指揮官であったが、そんな彼はやはり軽率な人間だったといえよう。

ブルース元国王は、気分を害していた。
王軍の先陣たるカペーロ隊が全滅したことも、指揮官たるカペーロが部下に突入を指示しながら自分はおめおめと逃げてきたことも、何もかもが許せないでいた。

ブルース元国王がカペーロ指揮官を自ら断罪しようとガトリング砲に手をかけようとするのを、遠巻きで見ていたブルースの従者がかぶりを振って止める...。
視線を移すと、宣教師もまたかぶりを振っている...。

「よい、下がれ...」
ブルース元国王は、こすりつけた血砂で額を真っ赤にしたカペーロ指揮官を赦した。

スグニユ・カペーロの名は、軽率な指揮官という汚名となり、以後、彼の人生をずっとつきまとうことになる。
しかし、ここでスグニユが死罪を免れたおかげでカペーロの家名が断絶せずに済むのである。

このスグニユの家が、後の世に4代にわたってクランブルス評議会議長を輩出することになるとは、この場にいる者誰もが知る由もなかった...。

***

「どうなさいますか?」

ブルース元国王の怒りの所在をよく理解している従者が、その矛先自体をずらすように、今やるべきことを気づかせてくれる。

砲撃は無効化されている。
しかし、破壊した城門を兵もエリートバエルも素通りできるという。

ブルース元国王は、分厚いマントを翻らせて命じた。

「第三陣、出撃の準備をさせろ」

従者も宣教師も、すでに準備をさせておりますと言わんばかりにゆっくりと頭を下げた。

***

戦闘で起きた火災は夜明けにはすべて消火されていて、代わりに幾筋もの炊き出しの炊煙が上がっている。

残骸の撤去に、あるいは破壊された家屋の修繕に...ブラスのいたるところで槌音が響き渡っていた。

一時的に地下遺跡に避難していた子どもたちも全員戻ってきていて、復旧作業に大忙しの大人たちを手伝っている。

「おお、あんたらか...」
焼け落ちた小屋の横にいたクルーンが振り返って声をあげた。

一晩中、消火作業を手伝ってくれたらしい。
体中を煤だらけにしていた。

「...そのぐらいしか、俺にはできねぇからな」
照れくさそうに鼻をこすり、ついていた煤を横に広げるクルーン...。

市街戦では、火が一番怖いとされる。
クルーンのようなひとりひとりの力によって、ブラスの被害はこの程度で済んだともいえる。

「じゃあ、俺は向こうで少し休むとするよ」
クルーンは、21年前の戦いで負傷したという足を引きずって木陰へと向かっていった。

「さあ、大講堂へ行こうぜ」
複雑な気分でクルーンの後姿を見ていた僕をなだめるように、スティールが言った。

***

僕たちが大講堂の扉を開けると、場の雰囲気は固まりつつあるようだった。

遠方からの砲撃は錬金隔壁で無力化できるが、人やあの機甲兵器どもは難なく街に侵入できるし、城門も破壊された。

王軍は、数百名もの兵員とエリートバエルが50両...総力戦では敵いそうにない。

ニーザからの援軍がない以上、ブラスは孤立しているといって過言ではない。
古来より、孤軍が籠城戦で勝利した例は極めて少ないのだ。
しかもそれは、籠城の準備が整った城塞都市の話であって、城壁のいたるところが21年前の戦いでザレルに破られるままにしていたブラスなどは、持久戦を思い浮かべるのもはばかられる部類の防備だといえる。

「ボクは、住民の一斉退避を提案するよ」
イヴァールは、あらためて総撤退を提案した。

まだ自分たちは戦える...しかし...。
今街の復旧に汗を流す街の人や子ども、老人たちに戦えというのは無理な話...その場にいる誰もが同じ気持ちだった。

「悪いね、手伝えなくて」
僕たちの気持ちを察したイヴァールが、気遣いの言葉をかける...。

「いや、手伝ってもらうけどな」
この場にいる誰もが、諦めにも似た感情でイヴァールの総撤退論を支持しようとしかけたその時、スティールひとりがまるで逆張りするかのように流れを断ち切る。

「いいからちょっと耳を貸せ」
あの不遜な、いたずらっ子な、天邪鬼な、いじめっ子な、反抗期な...、要は、いつもの頼もしい顔つきのスティールが、実に悪そうな活き活きとした表情を浮かべている。

スティールが、僕と視察をして浮かんだというあまりにもバカバカし過ぎる手段と、それを組み込んだ策を開陳しようと口の端を歪めたとき、大講堂の扉が大きな音を立てる...!

「大変です!! 逃げ遅れた王軍兵士が、子どもを人質にとって立てこもっています!」

(そんなのは衛兵たちだけで何とかできないもんかね~?)

スティールからどんな策が打ち明けられるのかとワクワクしていた僕たちは、かなりモヤモヤしたまま敗残兵の撃退に向かった。

***

「...思えば、四家が執拗に遷都を提言してきたのは、王都の地下に眠る秘宝が目的だった」

王軍の第三陣が出撃の準備を整えている。
それを眺めながらブルース元国王は、おそらくこれまでの人生で何度も口にしてきた四家に対する恨み節をつぶやいていた。

宰相のランケード伯も四家が秘宝を狙っていたことについてはよくわかっていて、四家がしきりに提案してきた遷都案には抗い続けていた。

父王である第40代クランブルス王ドミニクは、世界教信徒に暗殺されたことになってはいたが、実際は四家が仕組んだことであるというのは、宮中ではもっぱらの噂だった。

ザレルからの宣戦布告書を握り潰し、王都が防備を堅くする前にザレルの侵攻が開始されたのもすべては四家の仕業であり、幼王ブルースの命を救うためランケード夫妻が命を落としたのも、また...。

「そういえば...」
ブルース元国王と従者の話を聞いていて、宣教師が今思い出したかのように
声をあげる。

「ブラスの街にランケード伯の忘れ形見がいるらしいですぞ」
驚き、目を見張るブルース元国王...。

「たしか、伯には小さな男の子がいたはずだ。あの凄惨な逃走劇で生きていたのか...」

ブルース元国王の気持ちは、「今なら使者を立てればお会いすることもできるだろう」という宣教師の言葉にだいぶ揺らぎかけたが、第三陣の指揮官ティカラ・ブソックの到来で再び現実に引き戻される。

「ティカラ・ブソック指揮官、貴様の手で錬金の街ブラスを陥落せしめよ」

ランケ―ド伯の忘れ形見も気にはなったが、ブルースの大望に比べれば些事と言ってもよい。

(運があれば、戦後に会えることもあろう...。運があれば...)

感傷を棄てたブルース元国王は、今から戦いに向かう配下にも手厳しい。

「ちなみに、第四陣も出撃準備をはじめておる。この意味は...わかるな?」

恐懼したブソック指揮官が下がってゆくのを、いたましげに見送った従者がなぜそのようにプレッシャーをおかけするのか尋ねると、

「プレッシャー? 俺は"後続がいるのだから無理をするな"と言ってやったまでだが...?」

(この王には、酷虐の相がある...)
しかし、従者にとっても宣教師にとっても賭ける玉は、ブルースしかいないのである。

「第四陣の準備を急がせろ。よいな...」

(抜け目のなさといえば聞こえはよいが、この執拗さは...)
宣教師と従者が、静かに視線を合わせ、逸らした...。

***

第三陣の総員が配置についた。
偵察隊によると、ブラスの北門から大勢の避難民が脱出しているとのこと...。

今すぐブラスを攻めるべきか、それとも...。
ブルース元国王にプレッシャーをかけられたブソック指揮官は、悩んだ末に失敗しない策を選んだ。

「もうしばらく待つのだ。住民の後には兵士たちも出てゆくやもしれん。そうすれば、我が方の兵の損耗も防げるからな...」

(これで良いのか...?)
ブソック指揮官は、何度も自問し同じ結論に行きつくことに少し安堵していた。

***

ブラスの広場では、ハインケルら来訪者たちが敵の動きを眺めていた。

ナジットの報告によれば、北門からの市民脱出が始まったらしい...。

指揮を執るのは街役人モネール...来訪者たちを居留地に押し込めようとした、いけ好かない小役人だった。

「市民と一緒にいの一番にとんずらするとは、腰抜けが」

敵陣を腕組みして眺めるハインケルの言葉は辛辣になっている。

「敵陣、まだ動きがないわ...」
城外で敵陣の様子を探っていたニハルがやってきて、ハインケルが想定していた策がひとつ崩れたことを報告した。

百戦錬磨のハインケルは、決して自分の積み上げた策に固執はしない。

「ナジット、お前は街の衛兵たちにも北門から脱出しろと伝えろ」

(弱いとはいえ戦力の衛兵を脱出させたその後は?)視線で問うナジットに、

「お前は、衛兵たちと一緒に脱出した市民を守るんだ。そっちの方が、性に合っているだろう...?」

ハインケルの指示に納得したナジットは、小さくうなずいて北門へと去ってゆく。

「では、私たちも配置に着きましょう」
「ああ...、ギッタンギタンにしてやろうぜ」
ニコライとジャンが不敵な笑みを見せて去ってゆくと、代わりにイヴァールとイデア、そしてリズが近づいてくる。

「おう、準備はできたのか...?」
ハインケルの問いに、イデアが、そしてイヴァールまでもが、ニシシシシ...と攻撃的な笑みを浮かべうなずく。

(よし、後は敵が動くのを待つだけ...。ナジット、上手くやれよ)

ハインケルのマントが風になびいた...。

***

ブソック指揮官の下に、ブラスの北門からブラスの衛兵と思しき集団までもが脱出してゆくとの報告が寄せられる。

(よし、ブラスが官民、衛兵たちまでもが脱出しようとしている。今こそ好機!)

「いいか、我らは王軍だ。誇りをもって行動せよ。略奪、市民への狼藉は許さぬ...!」

逸るブソック指揮官の声はうわずっている。

「俺もバエルに搭乗する...! 皆、遅れをとるな!!」

十数両のエリートバエルが、一斉に動き出した...。