BRAVELY DEFAULT BRILLIANT LIGHTS
REPORT錬⾦ゼミ活動レポート
[第010章] 10-4
急襲!大神官ヅクエフ
住民の避難が始まった。
前回の王軍侵攻のこともあり、避難をする方も避難を呼びかける方も効率がよくなっている。
(これも、あのブルースのおかげってか...)
皮肉な状況に、スティールももはや笑うしかなかった。
今朝もゴリーニ村方面への避難民たちを街役人のモネールが引率して出発していった。
(いくら街の責任者という肩書が名前だけのものとはいっても...)
そんな非難する者も多いが、デバコフ教授などは、
「街に残っていても仕方のない方が、民を引率してくれるというのだからお任せしてもよいのではないでしょウカ...」
...と、ひょうひょうと(しかしながら大分辛辣に)している。
凶報は、そんなバタバタした日の昼下がりにやってきた。
***
街の北方約半日のところに、ザレル軍が接近しているという。
数は300ほど...。
ニーザを落としたザレル軍が8万だったというが、それに比べればとても小規模な部隊だといえ、いささか拍子抜けしなくもない。
偵察隊ということなのだろうか...。
300とはいえ、街に攻めてこられては、いろいろと面倒だった。
住民の避難はイヴァールに任せて、俺たちはその300の兵を迎撃することにした。
***
いつものザレル兵の中に、白い装束の術者の姿が交っていた。
クレアによれば、その白い術者は、錬金術を使っているらしい。
またひとり、白装束の術者を倒した...。
文官のくせに、決して退こうとはしない不思議なヤツらだった。
「今までのザレル兵とは勝手が違うねぇ」
サンディのつぶやきにしては声の大きな愚痴に、
「その通りだ」...と答える聞き憶えのある声...。
見れば、血砂の赤黒い砂煙の中から現れたのは、土の副将サージだった。
次いで、違う方向からも声が聞こえる。
「お前たちが倒した神官たちは、元はクランブルス王国の錬金術師だからな...」
今度は火の副将ウージ、水の副将ウガンもいる...。
(もうひとり居たはずだがな...)
俺は、風の副将サガンの奇襲を警戒したが、しばらくしてもその3人しか姿を現さない。
「今日はお前らの主将は来てないのかよ」
俺の問いに、水の将ウガンがゆっくりとうなずく。
「ああ...。その代わり、今日は俺たちの親ともいえる人が来ている...」
3人に戦意は感じられない...。
俺たちは、3人が何を言っているのかわからぬまま、少し待った。
***
物音も立てず、そいつは現れた...。
身長は3人の副将たちと同じぐらいで大柄といえたが痩せていた。
先ほどの白い神官の親玉のような姿をして、ゆったりした袖で隠しているやたらと長い腕が特徴的...。
よく見ると、左の胸郭あたりが不自然に空洞になっていて、禍々しく光る何かが浮いている。
「ほう、この者たちか...、お前たちの前に立ちはだかったというブラスの者とは」
(こいつが、ザレルの錬金術師だっていうのか...)
俺たちの黙語を聞きつけたのか、そいつはどこか懐かしげにつぶやく。
「...錬金術師、か...。そう呼ばれるのは、いったいいつ以来だろうか...」
「ワシは、ザレル・ウルスの大神官ヅクエフ...」
ヅクエフと名乗ったそいつは、元クランブルス王国の錬金術師であったという。
「私は、ブラスの錬金術師クレアです...!」
ご同業のよしみで、クレアが名乗る。
ヅクエフの後方で、ウージたちが嗤ったように感じ、イラついた俺は、
「...それと、錬金ゼミの生徒一同だ...!!」
...と、敢えて個人の名乗りを略してみたのだが、それを見た3人は、今度は小さくふきだしている...。
「錬金ゼミ...なるほど...。するとデバコフは、お前たちの師というわけか...」
大神官ヅクエフは、デバコフ教授を知っていた...。
俺たちの背に緊張が走った。
...しかし、目の前の大神官も3人の副将たちからも戦意がまったく感じられない。
「錬金ゼミの生徒たちよ。一度ブラスに戻り、デバコフをここに連れてまいれ」
ますます警戒心が高まってゆく俺たちをなだめるように、大神官が続ける。
「なに、昔話に花でも咲かせようと思うてな...どうやら、お前たちの師デバコフは、ワシの弟らしいのだ」
「な、なんだって...!!」
あまりにもの驚きで、俺は、つい叫び声をあげてしまった。
「ワシもつい最近知ったことで大変驚いておる」
大神官ヅクエフも俺に共感したらしく、大きくうなずく。
21年前『ブラスの戦い』で、ブラスの街にいた旅の錬金術師がデバコフ教授で、ザレル側にいた錬金術師が、このヅクエフ...。
どうやら、このヅクエフが、『賢者の意思』を託した教授の兄らしい。
大神官ヅクエフは、「ワシは自らの耳目から造り上げた」と妙なことをいいながら3人の副将の方を指さした。
命脈を奪わせるために異世界に向かわせた四兄弟と、息吹を手に入れるために異世界に向かった俺たちとが争った...。
「今思えば、デバコフに『賢者の意思』を持たせたあの日から、今日ここで我らが対峙することが決まっていたのやもしれぬな」
「何をわけのわからないことを...」
そう俺は叫んだが、ヅクエフが何を言っているのかは実はよくわかっていた。
ただそれを認めてしまうのが、恐ろしかったのだと思う...。
「いいでしょう。これからここに、デバコフ教授を連れてきます」
クレアの方が、腰が据わっていた...。
こうなった以上、クレアはテコでも動かない...。
意思を固めたクレアは、応変に欠けるところがある。
俺は、この状況もまた恐れていたのだが...。
似たような懸念をしていたサンディだったが、瞬時に諦めたようだった。
ツカツカと前に出て、火の副将ウージを指さす。
「よし、じゃあそこの赤いの...ウージとか言ったよね。あんた、こっちに来な」
俺たちが教授を呼びに行く間、決してブラスに攻め入ったりしないという人質のためだった。
大神官ヅクエフが、人質としての効果を疑ったが、構わず敵の中に進んでゆくサンディ。
入れ替わるようにして、ウージが俺たちの中へとやってきた。
「じゃあクレア、ここはあたしが残る。急いで教授を連れてくるんだ。それでいいね? ザレルの大神官どの...」
そう言って腕を組むサンディ。
大剣を手渡そうともしない...実に堂々とした人質だった。
***
ブラスに急行した俺たちは、さっそくデバコフ教授に事態を報告した。
教授の兄ヅクエフがザレルで大神官をしていたことに、軽い動揺を示していたが、ウージの方を見て
「そうでスカ...。ヅクエフが自らの右耳からあなたを造り上げたと...」
自分の目や耳から錬金術でこのウージら四兄弟を創り出したということだったのか...!
ここへきて、俺は初めて大神官ヅクエフや教授が言うことを理解できた。
人質のサンディが心配だと、クレアが出発を促すと、
「いや、サンドラは大丈夫でしョウ。しかし、急がねばならないのは変わりありませンネ」
...と、教授は、またよくわからないことを言った。
***
向こうからサンディがゆっくりとこちらへ歩いてくる。
そして、こちらからは火の副将ウージがあちらへと歩いてゆく...。
俺は、不意の騙し討ちも警戒していたが、人質の交換は何事もなく終わった。
「久しいな、デバコフ...」
「そうですね、ヅクエフ兄サン...」
実に20年以上ぶりの兄弟の再会のはずだったが、2人の間からは懐かしさよりも困惑の気が漂っている...。
「...というより、お互い姿が変わり果て過ギテ...」
「う、うむ...。そうだな...」
ブラスの戦いで人としての体を失い、大陸ペンギンに転生したのに対して、大神官ヅクエフは、19年前に旧王都の地下深くで"これ"と出会って...と、胸郭の中に浮遊する何かを指さした。
「『騒乱の種』を体内に宿しタト...」
確信をもって尋ねる教授に、ゆっくりとうなずく大神官。
錬金術師カウラの思念から、理性や情の部分を分離してできた純然たる野望の塊『騒乱の種』と、除外された『賢者の意思』...。
思えば、それらの秘宝を持つ兄弟が、互いに認識し合える最後の機会が、20年前のブラスの戦いであった。
「今日、あなたがこの地に到来した理由を、私は知っているつもりデス」
互いの姿かたちには違和感を拭いきれなかった兄弟ではあるが、気持ちの中では通じるものがあるらしい。
「...はじめは、ワシの宝...大王様の心をへし折った、ブラスの街を灰燼に帰すのが目的であった」
今は、違うのだという...。
「生き別れたお前が、生きていたと聞いて...ワシが造り上げた四兄弟と、お前が育て上げた生徒たちがともに異世界で戦い合ったことを知り、あの四将と似たようなことを思いついたのかもしれん...」
そう言って3人の副将の方を振り返る大神官...、
「サージ、サガン、ウージ...まずは、お前たちが、この者たちと戦うがよい。いまさらかもしれぬが、精一杯、正々堂々と、な...」
大神官の命に、歓喜の礼を示す3兄弟...。
俺は、大神官の言う"あの四将と似たようなこと"の意味がわかった気がした。
思えばこいつらは、決して俺たちとは戦おうとはせずに、自らの主を囮に使い汚れ役に徹してきた。
それは、ひとえに命脈を入手するために...。
命脈という絶対の目的がなくなった今、遠慮をする必要はなく思いっきり俺たちと戦えるというわけだ。
「みんな、気をつけな...! こいつら、強いよ」
3兄弟の周りに、とてつもない闘気が噴き上がり砂煙が舞い上がった...!!