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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第010章] 10-5

魂ぱく

担当:クレア

土の副将サージ、水の副将ウガン、火の副将ウージの猛攻に、あのサンディとスティールが圧されていた。

今まで一度も戦いらしい戦いを演じてこなかったザレルの副将たちが、これほど強かったとは!!

もし彼らが、命脈の入手を第一と厳命されていなかったら...。

各異世界で、主のために果敢に戦うことを選択していたのなら、私たちは8つの息吹を揃えることは、果たしてできたであろうか...。

大神官ヅクエフの耳目から錬金術で創られたという3人の副将たち...。

大神官ヅクエフは、いわゆる命を扱う錬金術にも精通しているということになり、同門とはいえデバコフ教授と違う流儀ということになる。

元はひとつの生命(のいち器官)から創られたとあって3副将の連携はすさまじいものがあった。

しかし、各々を思いやる様子はまったく感じられず、私たちが付け入る隙があったのはまさにそこだったように思える。

***

ダラーンと動かなくなった左腕をしばし見ていた火の副将ウージが、こちらを見てほほ笑んだ気がした...。

土の副将サージも水の副将ウガンも、もはや戦える状況にはなかった。
2人ともヅクエフの前にひざまずいている。

ウージは、よろよろと大神官ヅクエフの前まで戻り、ひざまずいた。

「も、申し訳、ございません...」

「うむ、お前たちはよくやった...。もうよい、ワシの元へ帰ってこい...」

大神官ヅクエフは、3人に向かって手のひらをかざすと、3人の姿が徐々に透き通ってゆき、光の粒となってヅクエフへと帰っていった...。

「おお...実に19年ぶりの風の音...。19年ぶりの光...」

大神官ヅクエフの元に、両耳と右眼が戻ったということか...。

先に風の副将サガンが滅し帰ってきた際には、大神官ヅクエフの左眼の視力は戻らなかった。

「デバコフのヤツめ...、本当に大陸ペンギンの姿をしておるわ...」

本当に愉快そうに笑う大神官ヅクエフ...。

スティールが、戦わずに済むかどうかを問うてみるも、やはりそれはなかった。

「いや、そろそろ陽が暮れる...。ワシには、一度引き下がる時間などないのだよ。さあ、かかってくるがいい。デバコフが育てた錬金の生徒たちよ...!」

大神官ヅクエフの眼が、妖しく輝いた...!!

***

大神官ヅクエフが、ゆっくりと頭を垂れて動かなくなり、あの息をつく暇もなかった激闘が終わりを告げた...。

「ハァ...、ハァ...、ハァ...。これ...まで...か...」

自らの半生を思い、ヅクエフが満足しかけたその時、ヅクエフの中に在った錬金術師カウラの魂が話しかけてきた。

(本当にこれまでか...?)
(お前がそのつもりなら、私はお前に今一度、力を貸そうではないか)

ヅクエフは、自身の中にほんのわずかに闘志がみなぎるのを感じた...。

「互いに間もなく消えゆく存在...。心置きなく...。共に戦ってみるのも、また一興か...」

ゆっくりと立ち上がった大神官ヅクエフから、もうひとりの何かが分身してゆく。

「あ、あれは、錬金術師カウラ...!!」
ルミナが叫んだ...。

「あいつには聞きたいことが山ほどあるわ...!!」
私たちは、ルミナが作り出した光に飲み込まれた...。

***

そこはまた、あの巨大な石柱が浮遊する空間だった...。

デバコフ教授は来ていない。
どうやらルミナが意図的に教授を外して私たちを転移させたらしい。

(ふっ...、ルミナではないか...生きておったのか)

大神官ヅクエフから分身した、黒い大神官...この人が、あの錬金術師カウラなのだという。

「"あの子"があなたに奪われて5500年...私が、どれだけ悲しみに打ち震えたことか、あなたには...、あなたには...!!」

(ふふふっ...、であるならば、喜ぶがよい。お前が産んだあいつは、立派な『闇のクリスタル』として誕生したぞ)

ルミナは声を発して、カウラは思念で語り合っている。
2人の言語の大半が古代の言葉だったが、不思議と私たちにも理解できた。

大神官ヅクエフは、瀕死のザレル2世に、カウラがルミナから奪ったクリスタルの繭をかぶせ、8つの命脈を与える形で育んだ。

8命脈が揃ったことによって、繭からは闇のクリスタルが誕生し、それはザレル2世の心臓と同化していて、ザレル2世の覚醒にもつながったのだという。
錬金術師カウラの魂は、何か急いでいるようだった。

ルミナとの対話を無駄話と決め込み、大神官ヅクエフとともに私たちに襲いかかってきた!!

***

2人の錬金術師を相手に大分苦戦を強いられたが、戦いはさほど長くは続かなかった。

大神官ヅクエフに残されていた体力も、錬金術師カウラの魂に残されていた時間も、決して多いわけではなかった。

激闘の幕が下り、目の前で大神官ヅクエフの長身がうずくまっている...。

それを見下ろす錬金術師カウラの魂は、すでにうっすらと消えかかっている。

(どうだ...? 存分に戦えたか...?)

「ああ...、デバコフが育てた子らの力を、想いを、十分に堪能した...」

(そうか、では私は消えるとしよう)

「いいのか? あのルミナという妖精に、説明をしてやらなくても...」

(私がそれをしている暇が、お前には残されておるまい。私の思念は、その『騒乱の種』に還ってゆく。次なる『騒乱の種』の所有者が、聞く耳を持つものであれば、あの時のことなどいくらでも語って聞かせてやるわ)

「そうか...。これでお別れだな...」

(お前と共にいた19年...、愉しかった...ぞ...)

あの巨大な石柱が浮遊する異世界でカウラの魂は完全に消え、立ち尽くす私たちと、うずくまる大神官ヅクエフはそのままの姿勢で元の世界へと戻されていった。

***

私たちの帰還を待っていたデバコフ教授は、大神官ヅクエフに駆け寄り、まるで体を支えるようにして言った。

「もう少しだけ、私にお付き合い願えませンカ...。この子らの他にも、兄上に見ていただきたいものがあるのデス」

教授に抱えられた大神官ヅクエフは、生き残った神官たちにザレルの本陣に帰るよう言い置いて、私たちとともにブラスの街へと向かった。

無言で立ち尽くしていた数十人の神官たちは、やがて血砂を吹き抜ける風に消えていった...。

***

「ほう、血砂荒野の中にあのように水と緑が...。まるでオアシスのようだな」
デバコフ教授と大神官ヅクエフ、そして私の3人は、"物思いの崖"の上からブラスの街を眺めていた。

スティールたちは、"たまり"で控えて、他の住人たちが昇ってきてお二人の最後を邪魔しないようにしてくれている。

「クランブルス王都の地下深く、小さな錬金工房で兄上に語った夢が、叶おうとしていマス」

デバコフ教授の言葉に、大神官ヅクエフは満足そうにうなずいた。

私には、このブラスの光景が、若き日のお二人にとっての悲願であったことが、容易に想像できた。

とある錬金術師の兄弟が、荒野のただ中に錬金の力で水と緑が豊かな街を造り上げることを夢見ていた...。

しかし王国は、錬金術師たちを半ば飼い殺しにして王都の地下深くの研究施設に押し込め、王家と反目する四家は秘宝のひとつを破壊せよと手を回してくる...。

錬金術の、そして王国の未来を憂いた兄は弟の逐電を助け、弟は兄の意思を酌んで秘宝とともに流浪の旅に出た。

21年前の遺跡の街ブラスの戦いが、お二人の運命を再び交わらせ、引き離した...。

「あとどのくらい時が残されておりましョウ...」

「そうだな...、あの夕日が沈みきるまで...」

「それでは、何も話せないではありませンカ...」

「ワシは...、もう...消える...。だが...、この『騒乱の種』は...残る...。あの...ルミナという妖精に...聞かせて...やれ...カウラの...想いを...」

大神官ヅクエフの姿がどんどん透明になってゆき、それに反するように胸郭内に浮遊する『騒乱の種』の輝きが増してゆく...。

「お前の...教え子も...なかなかだったが...ワシの...教え子...ザレル2世も、なかなか...だ...ぞ...」

大神官ヅクエフは、ほほ笑んでいるようにも思えた。
光の粒に包まれた、大神官ヅクエフが、夕日を浴びてまるで浄化するように煌めき、そして消えてゆく...。

「私には、何も残してはくれないのでスネ...」

消えゆく兄の長身を見上げていた教授が、頭をたれると数粒の涙が血砂の地に落ち、すぐに消えてゆく...。

教授が掲げる両の手の間には、『騒乱の種』が浮遊していた。

「この『騒乱の種』は、クレアが持っていなサイ」

「カウラの思念によく耳を傾け、ルミナに聞かせてやるのデス。しかし、我が兄ヅクエフのように、決して『騒乱の種』と同化しテハ...」

「決して、喰われてはなりまセン。いいでスネ...?」

私は、手渡された『騒乱の種』を押し抱いてみた...。
私の中にある『賢者の意思』が何かを語りかけて来るようだった。

***

「...そうか。ヅクエフが、逝ったのか」

ザレル2世へ復命する神官たちの姿を見て、ザレル2世はひとつため息をついた。

(バカみたいに高い天井だな...)
見上げた大幕舎の天井は、いくつかの明り取りから差し込む陽の光を除いてほぼ漆黒に見えた。

ふと視線を下ろすと、神官たちがまだ足下で平伏している。

「うん...? まだ何かあるのか...?」

神官たちは、口々に大神官ヅクエフの最後を語ろうとしたが、ザレル2世に興味はなかった。

「いや、いい。余にはわかるのだ...下がってよいぞ」

ザレル2世は、急に何もかもがつまらなくなっていた。
この戦いにも、そして、今下がっていった神官たちによる錬金術についても、大神官ヅクエフという歳の離れた友が消えた今、何もかもが色あせて見えた。

「ヅクエフ...、余は、急につまらなくなった...」

そうつぶやいてみたザレル2世であったが、誰も返事はしない。

(ふふふっ、余はいったい何を...)

笑いかけたザレル2世の胸で、ドクンッと何かが鳴った...

「そうか...。クランブルスを征し、海を渡るか...」

祖父にあたる英雄ザラールの「四海を見に征け」という遺訓を守ってきたつもりであったが、それを超えるような大きな目的を、ザレル2世は探していた。

海を渡って、他の大陸へ攻め入る...。

「それもいいかもな...。ふふふっ...、いいかも、な...」

ザレル2世の乾いた笑いが、大幕舎の中に小さく響いていた...。