BRAVELY DEFAULT BRILLIANT LIGHTS

REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第010章] 10-6

予期せぬ訪問者

担当:ルーファス

「...そうでスカ。イヴァール君も、この街を離れまスカ...」

「はい。祖父をはじめ、一族を避難させねばなりませんから...」

「化学ゼミの方は...?」

「もう誰も残っていません。皆、ゴリーニや西海岸の方へ避難していきました」

最初は残念そうにしていたデバコフ教授も、イヴァールの決心が堅いことを知ってやがて仕方なさそうに頷いたものだった。

教授に一礼したイヴァールが、クレアに語りかける...。

「やあ、クレア。キミともいろいろあったけど、今日でお別れのようだ」

「一族をね、ひとまずはゴリーニまで引率していかなきゃいけないんだ」

クレアは、イヴァールの親戚がクランブルスの東海岸にいたことは聞いていた。
ブラスに住まう祖父母や親戚一同を、イヴァールが引率してゆくのだという。
先日は、クリッシーが故郷のイトロプタへと帰っていったばかりだった。

此度のザレルの宣戦布告に対し、クランブルス共和国への帰順を望んでいたイトロプタの街は、ガーマ王国領ながらブラスの避難民の受け入れを表明してくれていた。

クリッシーの帰郷は、下役人のおやじさんに頼まれて、婚約者である下役人の娘さんや、その親類を疎開させる意味合いもある。

「イヴァール、言われた通り、城門に馬をつないでおいたぞ」

馬屋番をしている下役人がやってきて、イヴァールに告げた。
イヴァールは、街で一番の足の速い馬...そして2頭の副え馬を用意するよう依頼していたのだという。

副え馬とはいわゆる予備の馬のことで、1頭の馬を長い距離乗り続けるよりも副え馬と交代させながら、体力を温存させつつ進むことができ、より長距離の旅の場合に使われることがある。

しかし、ブラスからゴリーニ湖程度の距離で、しかも避難民を率いてのゆっくりとした旅に、副え馬を2頭も必要なのだろうか...?

「いったいどこまで避難するつもりなんだい?」

「戦いのない場所まで、さ...。そんな場所、あるかどうかわからないけどね」

イヴァールは、その話題を避けるように少し目を伏せた。

「じゃあ、みなさん。どうか命を大事に...。では...」

避難する住民を襲う魔物たちを排除しなければならない。
僕たちは、学搭の長い階段を急いで駆け降りた。

***

先頭の魔物を2~3匹倒すと、他の魔物たちも蜘蛛の子を散らすように去っていき、街道沿いに魔物の姿は見えなくなった。

ブラスの街へと帰る準備をしていると、先ほど街を離れていった避難民たちが逆戻りしてくる。

「たっ...、助けてくれ~~!!」

「お、王軍の残党だ~~~っ!!」

王軍の残党が、まだこの辺りにうろついているというのか...?
僕たちは、半信半疑で逃げてくる避難民の方を眺めてみたが、人波の間に見え隠れするのは、まさしくあの王軍の軍装をした数人の男たちであった。

(うん? 何か必死に避難民たちをなだめているぞ...?)

「あ、あんたは...!!」

いち早くきづいたサンディが、拍子抜けた声をあげて構えていた大剣を下ろす。

「マイヨ、お前、マイヨじゃねぇかよ。なんで王軍の甲冑なんか着てやがるんだ...?」

スティールなどは、指をさして笑っている。
それは、まさしくマイヨ兵士長...もとい、マイヨ司令官(?)だった。

あの王軍兵士の装束に身を包み、似合わない口ヒゲなどもたくわえている。

「はははっ、これが、クランブルス共和国の将官用の装束なんだそうだよ」

マイヨさんによれば、クランブルス共和国軍が将官用に新規採用した軍装が、王軍蜂起の際にすべて接収され、王軍は兵卒までもがこの将官用軍装に袖を通していたのだそうだ。

(かくいうマイヨさんも、ニーザ方面軍の司令官として、佐官ながら将官用の装束を着させられたのだという話でもあるが...)

「今日は、どうしてブラスまで?」

サンディの問いに、マイヨさんの表情から柔らかさが消えた。

「デバコフ教授に、そして、君たちに話があって...」

マイヨさんの只ならぬ雰囲気に、僕たちはただ顔を見合わせるだけであった。

街へ帰り、宿敵の姿を探してみたが、イヴァールはもう旅立った後だった...。

***

「...なント...! 10日後に、ザレルに決戦を挑むと申されルカ...!」

テロール将軍が残した騎兵3000と、ニーザの守備兵2000、それに加えて新都から5000の兵が送られてきて、多少の増減はあるものの現在マイヨさんの麾下には約1万の軍勢がいるらしい。

血砂荒野に陣を布いたザレル軍は8万で、大都から2万の兵が合流したといい、合計で10万...。

実に、10対1の兵力差ということになる。

マイヨさんは、さらなる兵員の増強を要請したものの、王軍の起こしたクーデターによって共和国の兵は半減していた。

これ以上の援兵は難しく、おまけに評議会からは、決戦を急ぐようにと矢の催促が来ているのだという。

「...で? 俺たちは、何を協力すればいい...?」

スティールの申し出にマイヨさんは大きくうなずいた。

「ふっ、話が早くて助かるよ」