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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第010章] 10-7

奇策

担当:サンドラ・カサンドラ

マイヨ司令官の、あたしたちへの依頼とは、ザレル本陣への突入...そして後方をかく乱することにあった。

国境の街ニーザを抜き、血砂荒野まで進出したザレル軍は総勢10万。

対して、マイヨ司令官に預けられたクランブルス共和国軍が1万...。

これは、先の王軍が起こした乱によって四家が滅ぼされたことによるもので、マイヨ司令官率いる軍勢の他に軍団があるわけではなく、クランブルス全土で現在動員できる兵力が1万程度...ということになる。

実に10対1...。

孤軍に等しいマイヨ司令官としては、野戦でザレル2世を討ち取るか、四将の何名かを討つなり捕らえるなどして講和に持ち込むか...その辺りが叶ってほしい結果の部類になるが、それを期待できるような規模の兵力差ではない。

マイヨ司令官は、先の王軍との戦いで活躍した『来訪者』たちに着目し、彼らの協力を得たいのだという。

***

今から10日後、マイヨ司令官が1万の兵をザレル本陣の西へと進め、出撃してきたザレル軍(5~8万と推定)に決戦を挑む...。

その間、あたしたち錬金ゼミ生と来訪者によって編制された小部隊が、ザレル本陣の東へ突入をはかり、本陣に火をつけ、兵糧や物資をすべて焼き払い、あるいはその勢いでザレルの首都、大都を突く動きを見せる...。

此度は、大王ザレル2世の親征...。
本陣に火の手が上がり、空になった大都を突かれる気配を見せられれば、さすがのザレル軍といえど動揺をみせるだろう...。

マイヨ司令官にとっての勝機は、そこに...いや、ほぼそこにしかなかったといえる。

デバコフ教授によれば、来訪者たちは今、城外でブラスの衛兵たちに戦闘の稽古をつけてやっているのだという。

あたしたちは、城外へと向かった。

***

城門を出てすぐのところで、ナジット、ジャッカル、エインフェリア、アルテミア...が衛兵たちに住民警護の訓練をしていた。

ナジットとエインフェリアは、かの有名な『聖騎士の決起』において、混乱するエタルニアの街の治安をよく守った。

ジャッカルなどは、元は冷酷な盗賊として人々を震え上がらせていたというが、落伍者を出さない訓練をすると評判で、衛兵たちのウケがいい。
(むしろ、アルテミアの容赦のない訓練の方が、姉エインフェリアにとっての悩みの種らしい)

「...ザレルの本陣に、突っ込むだと...?」

ナジットの冷ややかなまなざしが、正気か? と無言で訊いてくる。

スティールが事細かに作戦の中身を説明しだすが、そのすべてを言い切る前にナジットはかぶりを振った。

「俺は、断る...」

あまりにも勝算が低すぎること...。
そのような無謀な戦に身を投じるほど、このブラスに義理を感じているわけではないことを挙げ、

「他の者はわからぬがな...」
...と、ジャッカルやエインフェリアの方へ視線を移す。

2人は、それぞれナジットの意見に賛同を示している...。

アルテミアが、訓練の厳しさに弱音を吐く衛兵たちをどやしていた...。

***

南西の孤立丘のふもとで、ハインケルさんたちが衛兵に奇襲の訓練をつけていた。

「俺たちだけで、敵の本陣を突くだと...?」

ハインケルさんは、あたしたちが明かした作戦の勝算が、まったくゼロではないことを知りつつも賛同はしてくれなかった。

ザレルの本陣には最低でも2万の兵が残っている。
そこに、数十人規模の小部隊が突入したとて、いったいどれほどの戦果を見込めることか...。

「俺たちは、この間のブラス防衛戦の功績で、さらなる自由を手に入れたところだ。そのような状況で、わざわざ死地に赴く者などいないと思うがな...。」

少し離れた場所で、ベアリング、オミノス、バハムートが、まるで遊んでいるかのように衛兵たちに訓練をつけている。

(こんな状況で、奇襲の訓練なんて要るのかい?)
(さあな...。奇襲をされた時の対応にはなるかもな...)

ルーファスとスティールのやり取りが聞こえたのか、ハインケルさんは腕組みをしてゆっくり頷いたが、あたしたちの申し出には賛同を示してはくれなかった。

***

その後もいくつかの集団を巡ってみたものの、誰の賛同も得られなかった。
あたしたちは、マイヨ司令官が待つ酒場へと向かった。

***

「...そうか、来訪者たちの協力は仰げない、か...」

残念な結果にもかかわらず、マイヨ司令官はあたしたちの労をねぎらうように微笑みを浮かべていた。

来訪者の協力が得られない今、ザレル本陣への突入とかく乱の作戦はより困難になった。

ブラスの衛兵に囮になってもらい、敵陣に潜入...兵糧に火をつけて回るぐらいしかできそうにない。

「...それでも、やってもらえるだけ大助かりだよ」

宿へと帰ろうとするマイヨ司令官の背中が、とても小さく見えた。

「そうだ...」

ふと足を止めたマイヨ司令官が振り返り、

「以前、君たちと一緒に食った野営飯...。美味かったな~」

...と、笑みを浮かべる。

「この戦が終わったら、もう一度...」

マイヨ司令官のそんなつぶやきを聞いたスティールが急にそれを遮った。

「マイヨ...! てめぇ、何縁起でもねぇこと言い出してんだよ...!」

突然激昂するスティールに、マイヨ司令官...いや、マイヨもルーファスもクレアもキョトンとしていたが、以前、冒険家仲間から聞いたことがあったあたしには納得いくものがあった。

ラクリーカの冒険家仲間の間では、「この戦が終わったら...」、"婚約者にプロポーズする"とか、"田舎でのんびり暮らしたい"とか、そんなことを口にする者は、死神につきまとわれて必ず命を落とすというジンクスがあった。

「よし、お前ら、これから城外で野営するぞ!」

各人が好物を持ち寄り、マイヨに腹いっぱい食わせてやって、縁起の悪いジンクスを帳消しにしてしまおうという作戦だった。

スティールは、酒場のマスターに酒樽の配達を...。
あたしたちには今自分が食いたいものを集めてくるように指示した。

「いいから、いいから。ある意味これはお祓いみたいなもんさ。おとなしくつきあって、楽しんでいきなよ」

いきなりの事態に困惑するマイヨの肩をポンと叩いて椅子に座らせたあたしは、酒場のマスターに、Wチョキのサインを送る。

マスターもまたWチョキのサインを返し、大きくうなずき返す。

(ふっふっふ、ゴリーニ泥蟹の在庫は十分らしい。)
あたしは、茹でと焼きの大皿を頼んでからふと思い直す...。

(ザレルの香酒で蒸し上げるのもいいねぇ...)

あたしは、陳さんの酒場へと急いだ。