BRAVELY DEFAULT BRILLIANT LIGHTS
REPORT錬⾦ゼミ活動レポート
[第010章] 10-8
突入
結局のところ、昨夜はブラスの城外での大野営大会になった。
最初は、俺たち錬金ゼミ生と、マイヨ、そしてマイヨの配下10名で始まった野営飯大会...4つの焚火を囲んでのものだった。
少し遅れてデバコフ教授、エリンやカーンのおっさん、あの不愛想な冒険家、地図工房の親方なども合流し、それぞれの野営飯を披露するためにどんどん焚火が増えてゆき、最終的にはブラスの衛兵50数人が加わって30を超える焚火を囲んでの大野営となった。
野営飯だけでも食いに来たらいいのに、昼間俺たちの要請を断った来訪者は誰一人として参加していなかった。
楽しそうに飲み食いしている俺たちを遠巻きで見ていたバハムートとビスマルクには、内緒でお裾分けしてやったが、ナードは手をつけなかった。
宿敵のイヴァールがいない酒の席では、下戸のルの字がずいぶんと手持ち無沙汰にしていたようで、エリンやカーンのおっさんたちと話し込む機会があったとのこと。
彼らはブラスの街に残るそうで、「そういう使命でこの世界に来た」とか、よくわからないことを一様に話していたそうだ。
エリンやカーンのおっさんは、「この世界にやってきた」と言っていたのに対して、冒険家だけは「流されてきた」と言っていたのが印象的だったらしい。
***
「ところで、我らブラスの衛兵だけでザレルの本陣に攻めかかるとは、本当なのか...?」
ブラスの衛兵長が、言い出し難そうに声をあげる。
(昨夜はこのおっさんも野営飯を大いに楽しんでいたから、切り出し難かったのだろう)
衛兵長は、ブラスの衛兵は全部で50人と少ししかおらず、恥ずかしながらサソリ団にすら後れをとるという体たらく...と卑下してみせ、ザレルの本陣に攻めかかることに対して逡巡をみせていた。
気分を害するだろうから言いはしなかったが、ブラスの衛兵は、端から戦力としてはあてにはしていなかった。
「あんたらは、敵陣に近づいて鬨(とき)の声を上げるだけでいい。敵の守備隊が、あんたらを迎撃に出たら、とっとと逃げてくれ」
その隙に、俺たちはザレルの本陣に紛れ込む...。
むしろ、衛兵隊には一目散に逃げてほしかった。
下手に粘って戦闘でケガなどされると、衛兵隊に援護しなくてはならなくなるからだ。
俺は、返事を躊躇っている衛兵長の顔を見据えて言った。
「出発は4日後だ。隊長さんは、出撃の準備を進めてくれ」
無言でうなずいた衛兵長が、肩を落として大講堂から出ていった。
***
デバコフ教授は、この街に残るらしい。
俺たちが失敗した時の後始末をするために。
この街の顔役として、責任をとるために...。
こんなつまらない戦で危険な目にあわないでほしいと言い置いて、
「無茶をするのはいいですが、決して、無理をしてはいけませンヨ」
...と、わかったようなよくわからないような、少しだけ心に響く言葉をくれた。
俺たちは、出撃の準備のために大講堂を後にした。
カーンのおっさんに武具の整備を頼み、10日分の食料、燃料や火薬の調達も必要だった。
街の住民がほとんど避難してしまっている今、物資の調達が一番難しそうだった。
***
ブラスの街を出発して5日が経った。
俺たちは今、ザレル軍の陣地へ1日という距離を保ちながら、東へ東へと移動している。
幸いこの辺りには、身を隠すにはうってつけの孤立丘がいくつもあって、まだ一度もザレルの哨戒網には引っかかっていなかったのだが...。
西の地平線に、一騎見えたと思ったらすぐに見えなくなり、しばらくしてからそれが3騎に増えた...。
(発見は...、まだされていないようだが...)
俺は、急いで孤立丘を駆け下りて、ふもとで休んでいたクレアたちに移動することを告げた。
少し前にサンディが偵察から帰ってきたところだったが、それと、さっきの偵察兵とに関係はなさそうだった。
サンディによれば、ザレルの本陣から大軍が西に向かったとのこと。
その数約8万...マイヨの予想通りだった。
俺は、焚火を砂に埋め、あらかじめ用意していた、半月以上前に消された焚き木を並べ、その場を後にした。
今の今まで俺たちがここにいたという形跡を隠す小細工...偵察兵の中でマヌケなヤツが引っかかるだけでも御の字のものだった。
***
見るからにザレルの商人風の男が数人、西から東へと向かうのが見えた。
俺は、害意がないことを示しながら彼らに近づき、それとなく探りを入れた。
彼らは新都からやってきたザレルの商人で、ちょうど1日前、クランブルス共和国軍とザレル軍が衝突したのを目撃したという。
商人たちは、戦に巻き込まれぬよう『北の大地溝』沿いをだいぶ迂回してこの地まで来たらしい。
戦況は、共和国軍がやや西に押されているようだと商人たちは言っていたが、マイヨが俺たちの本陣潜入を援護するために、主軍8万を引き付けてくれているに違いなかった。
ブラスの衛兵たちが、ザレル本陣の前で鬨の声をあげる刻限が近づいてきている。
俺は、クレアにいつものアレをするよう促す。
いつものように戸惑うクレアと、ニヤニヤと逃がそうとしないルの字とサンディ...。
時間がないんだと急かすと、観念したようにひとつ咳をして、喉の調子を整えるクレア...。
「私たち錬金ゼミは、これより、ザレルの本陣へ突っ込みますっ!! それじゃあ、みんな...!」
一度大きく息を吸ったクレアが、両手をグーにして叫ぶ...!
「お、おっ始めましょうかね...!!」
俺たちは、西へ...ザレルの本陣に向かって歩き出した。