BRAVELY DEFAULT BRILLIANT LIGHTS

REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第010章] 10-11

ザレル本陣

担当:サンドラ・カサンドラ

あたしたちは、低い岩陰に寝そべるようにして隠れてザレルの一番東にある陣門を見張っていた。

ザレル軍の陣は、大小数百もの円陣の集合体といってもよく、中央から離れれば離れるほどその規模は小さく、簡素なものになってゆく。

前線に近い西方の防備が厚く、あたしたちが様子を窺うこの東の外れの陣の警備はとても手ぬるいものになっていた。

先ほど、輜重(しちょう=食料、武器、矢弾、被服を含む軍事物資の総称)隊の一団が陣門を通った時には大勢いた守備兵が、ひとりまたひとりと上官らしき兵士に連れられてゆく...。

どうやらブラスの衛兵隊が、うまくやってくれたらしい。
南からの陽動で、東の陣門の兵士までもが駆り出されるとは、よほどギリギリまで敵を引き付けているものと思われ、衛兵隊が無理をし過ぎてはいないか、少し心配になるほどであった。

あたしたちと一緒に、目を覆って岩陰に伏せさせていた馬(こうしてると馬は大人しくしている)を起き上がらせ、思いっきり尻を叩くと、馬は一目散に南へと逃げていった。

馬の尻尾に縛り付けておいた柴が、もうもうと赤い土煙を立て、それを発見した守備兵の残りが誰も乗せていない馬を追いかけていった。

置き去りにされた輜重隊の馬車に隠れるようにして、あたしたちはすんなりとザレルの支陣へと潜入することができた。

***

数万の幕舎が、まるで海のように立ち並ぶ先に、バカげたとしか形容し難いほどの大きさの幕舎がそびえている。

濃い紫色の地に、巨大な三つ目の紋様が縫い取られている。

大王ザレル2世の幕舎に違いない...。
あの付近で火を着けられれば、きっと大混乱を引き起こすに違いない。

イヴァールが調合してくれた強燃性の油と、大量の焚き木は、ブブに預けてクレアのカバンに入っている。

敵兵に囲まれそうになったら、ルミナがあの異空間に連れていってくれてやり過ごすことになっていたので、ランタンを持つクレアからは決して離れないようスティールから指示されたが、火の巫女カーシャ様の予言が頭から離れないあたしは、クレアから離れるつもりはこれっぽっちもなかった。

そうこうしている間にザレル兵に見つかってしまう...。
数は...それほどでもない...!!

あたしたちは、迫りくる敵兵たちを蹴散らすことにした。

***

時には物影に隠れたり、無人の幕舎の中で息を潜めたり、時にはルミナの力であの異空間に退避しながら、少しずつあの大幕舎へと近づいてゆく。

異空間に退避しても、元の世界に戻ってきたら一歩も進んでいないので、巡回してくる兵をやり過ごすには便利だが、陣と陣のつなぎ目にあたる木戸などに立つ兵の間を突破するにはまったく適していない。

そういった場合には、兵と兵が交代するタイミングを狙って通過したり、物音で誘い込んで気絶させ、無人の幕舎に放り込んだりして進むのだが...労力と溜まるストレスに比べてあまりにも稼げる距離が短く、あたしなんかはつい大暴れしたくなってスティールに窘められていた。

幾度目かの木戸を突破すると、そこは食料の備蓄基地のようになっていて、風通しのよい天蓋の下に麻袋に詰められた穀物が、うず高く積まれていた。

スティールは、大王の大幕舎まではまだ距離があるものの、脱出のことも考えてこの辺りに火をつけることにしたようだった。

クレアがブブに油と焚き木を取り出すように命じると、

「そうはさせぬぞっ!!」

...と声が聞こえた。

どこだ...?
辺りを見回すも、それらしき姿は見えない...。

(!! 上か...!?)

そう思った瞬間、バカデカい斬馬刀を振りかぶる土の将ガイラが上空から降ってきた!!

「あなたは、土の将ガイラ...!!」

目の前の大地が大きく断ち割られ、ゆっくりと顔を上げたガイラがニヤリと笑う。
(ったくこの娘、わざと外しやがったね...)

「手前ぇ、本陣に残ってたのかよ...!!」

王麗あたりが本陣に留まることは想定に入れていたが、まさかガイラのような突撃一辺倒の将までもが本陣にいるとは...!

「残っていたのは、私だけではないぞ、ポン・コーツ!」

血砂に深々とめり込んだ大剣を引き抜きながら、ガイラが得意げに胸を張る。

「なにっ!?」

水の将ソーニャ、風の将ナンナン、火の将王麗が、物陰から現れる...!!

「...四将がすべて...本陣に残っていただって...!?」

それぞれの将の背後に、続々と兵士たちが集まってくる...。

「妃ってのはなぁ、常に大王様のお側にあるものや...!」

あたしたちを取り囲む包囲の輪が、徐々に狭まってくる...。

「ルミナ、お願いっ!!」

クレアはランタンをかかげ、ルミナの力であの異空間へと今日何度目かの退避をしたが、徒労に終わる...。

「ふふふっ...。私たち4人もこの空間に来れることを忘れたの?」

異空間でも包囲されていたあたしたちには、もう四将を倒す以外にこの窮地を逃れる術はなかった...。

***

ガイラの大剣を弾き返し、ソーニャの大斧をかろうじて躱すと、体勢を崩したあたし目掛けてナンナンの小刀が、そして王麗の火の玉が飛来する!!

(くっ、避け切れない!!)

あたしは左腕を棄てるつもりで頭と心臓をガードしたが、覚悟していた小刀も火の玉も飛んで来なかった...。

ルミナの咄嗟の判断で、小刀と火の玉が直撃する前に、異空間から元のザレル本陣内へと戻っていた。

当然、大勢のザレル兵に囲まれてしまっている...。
皆、あたしの後ろで肩で息をしていた。

「ルミナ、(もう一度異空間へ)頼むっ...」

「無理よ...! 続けては無理だって言ったじゃない!」

四将たちが、距離を縮めてくる...。

「ブラスの民よ...。あなたたちは、完全に包囲されたわ...!! おとなしく武器を置いて投降しなさい」

周囲から兵たちの喚声が聞こえた...。

(ま、まさか...、この状況が火の巫女カーシャ様が言っていた、クレアが惨殺されるイメージの...)

兵たちの喚声が大きくなって、あたしの視界を揺らした...。