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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第010章] 10-12

急展開

担当:クレア

私を守ってくれているサンディの大剣がぐらりと揺らいだ...。

スティールもルーファスも、大きく肩で息をしながら必死に私の盾になってくれている...。

ふいに湧きあがる喚声...!!

(えっ、火の将王麗が、ガイラが...四将全員が後ろを振り返っている...?)

よく聞けば、喚声は、私たちを取り囲む兵たちのものではなく、もっと遠くから響いてきていた。

王麗たちに、次々と注進の兵が駆け寄ってくる。
そのたびに、王麗の背後の兵たちに動揺が走るのがわかった。

(いったい、何が起きているというの...?)

満身創痍の私たちには、ただその状況を眺めるしかできないでいた...。

***

ザレル本陣、南中央の陣門が破られようとしていた...。

轟音とともに、陣の外側に向けられた馬防柵が木っ端微塵に破壊され、巻きあがる土煙の中から現れたのは、剣聖カミイズミだった...!!

「来訪者一番隊、推参っ!!」

残心をとる剣聖カミイズミの背後から、戦場アイドルのプリン、魔女ヴィクトリア、ヴィクター博士が現れる。

「プリン君、敵をかく乱してくれたまえ」

「わっかりました~~☆」
プリンの歌声と踊りが、ザレル兵を瞬く間に幻惑した。

***

一方、ザレル本陣南西の陣門を、まるで山賊のような一団が突破していた。

「来訪者二番隊、参上~~!!」

騎士アルジェント・ハインケル、闘士ベアリング、黒魔道士オミノス・クロウとバハムートが次々とザレル兵をなぎ倒してゆく!

***

「来訪者三番隊、参上!」

ザレル本陣南東の陣門では、魔法剣士イクマ・ナジットが押し殺したような声で名乗りを上げていた。

戦乙女エインフェリア、その妹の狩人アルテミア、盗賊ジャッカルが後に続く。

ナジットはジャッカルに対して、さらに後に続く者たちを気に掛けるように言い置くと、浮遊させた曲刀に練り上げた魔力を集中させて、大炎を発生させた!!

***

報告にくる兵の姿が、どんどん戦塵に塗れたものになってゆく...。

要約すれば、南の陣門のいくつかが、小集団の突入を許したようであったが、王麗は、まるで大軍に包囲されたかのような、自分の背筋が寒くなる思いがしていた...。

(共和国軍の別動隊? それとも他国が動いたとでも...?)

「いったい...、いったいどこの軍勢だというのですか...」

またひとり、注進の兵がひざまずく...。
3つの小集団は、大王ザレル2世がおわす大幕舎を狙っているようだった...。

***

遡ること2日前――。

ブラスの北方、血砂の大地には、遠く地平線上に霞むザレルの大陣容を遠望する3人...剣聖カミイズミ、騎士ハインケル、魔法剣士イクマ・ナジットの姿があった...。

つい先ほど、錬金ゼミ生たちがザレル本陣の東門から突入するとの物見の兵からの報告があったばかりだった。

「ふっ...、奇しくもあの決起と同じ面々ですな」

騎士ハインケルが言う決起とは、『聖騎士の決起』のことを指す。
魔法剣士ナジットも無言でうなずく。

「此度は、飛空艇こそないが...、クリスタル正教に勝るとも劣らぬ強大な敵に抗う戦い...」

敵の強大さを認識した上で、3人はまったく動じてなどはおらず、むしろこの緊張感と高揚を愉しんでいるようでもあった。

「...そんな心躍る大戦(おおいくさ)に、君たちは、また私に留守番をさせようとしている...」

3人の背後に、不満げな表情を隠そうともしないエタルニア公王レスター・ド・ロッソがやってきた。

「エタルニア公王には、戦場の全体を見回していただけないといけません」

「ラスボスが最初に出てってどうしますか...」

「.........(冷たい視線)。」

3人は、口々に公王の出陣を戒める。
ハインケルの不敬などは意にも介さず、公王は首尾を尋ねる。

「我ら3隊が、錬金ゼミの突入に呼応してザレル本陣に攻め入ります。レスター公王におかれましては、この地を本陣にして、我らへの応変の支援と錬金の街ブラスの防衛をお願いいたします」

(この有無を言わせぬ物言いよ...)

公王レスターは、カミイズミを恨めしげに睨んだものだが、当のカミイズミはわざと視線を合わせない...。

「やれやれ、いささか言いくるめられているように思えるが...」

「気のせいですよ」

ハインケルが即座に合いの手を入れる。

(この悪童が...)
ふん、と鼻息を立てる公王であったが、このハインケルの馴れ馴れしさは嫌いではなかった。

偵察に行かせていたオミノスとバハムートが戻ってきて言った。

「北方から、ブラスの衛兵隊が退却してくる...!」

ちなみにこのオミノスも『聖騎士の決起』に参加していて、ケガのためエタルニア急襲部隊には名を連ねてはいなかったが、留守を守り聖騎士の家族を敵の毒牙から遠ざけた。
手筈通り、その背後からザレルの追撃隊が迫っているらしい。

「弱兵ながら、しっかりと敵兵を引き付けてきたようだな」

ハインケルがニヤリと笑みを浮かべる。
弱兵...それは、衛兵長自らの言だった...。

「我々はサソリ団とも渡り合えぬような弱兵...。なれど、彼らは学生の身でありながら果敢にも敵陣へ突入しようとしているのです...!」

数日前、カミイズミたちの元を訪ねてきたブラスの衛兵長は、来訪者への出陣を懇請したのであった。

「弱兵...なれど、勇気ある衛兵たちだ...」

「ああ...、決して死なすわけにはいかんだろうな...」

ナジットが、そしてハインケルが出撃してゆく。

囮となった衛兵隊を追撃するザレル兵をカミイズミたち3部隊が蹴散らして、その勢いで3方から敵陣になだれ込む...!

カミイズミが一礼して出撃しゆくのを、公王レスターが見送っていた。
心底羨ましそうに...。