BRAVELY DEFAULT BRILLIANT LIGHTS

REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第010章] 10-13

援軍

担当:クレア

「...3隊は、出撃していきました」

そう声をかけられ、自分の表情が穏やかなものになるのを感じた公王レスターは、慌てて憂いのある表情を作って振り返る...。

声の主は、アニエスだった。
彼女もこの本陣にいたことに...いや、この戦いに身を投じていることに軽い驚きを感じたレスターは、それをそのまま口にした。

「ええ...。「あのお方を止められるのは君だけだからね」と、剣聖様から...」
...と、そう言われたらしい。

「まったく...! ブレイブといい、ノブツナといい...。私をいつも退屈な立場に押し込めようとする...」

レスターは、自分が留守番させられていることについて腹を立てているようにみせたが、どちらかというとカミイズミに自身の想いを見抜かれていたことが腹立たしかった。

「ふふふっ...、地形をも変えてしまうお人なのですから、本陣に大人しくしていただかないと」

...と、アニエスが額面通りに受け取ってくれて内心ほっとするレスターであったが、このアニエスの台詞には少し説明が要る...。

レスターが、闇の吸血伯爵としてクリスタル正教に反目し、正教の異端審問官ユルヤナと約80年にわたって世界各地で壮絶な戦いを繰り広げた。

その戦いによって、緑豊かなナダラケス大陸は砂漠と化し、フロウエルとナダラケスの間にあったキレート山脈は真っ二つに割れ、エイゼン大陸には、大地が裂けて大地溝となった。

アニエスは、闇の大穴を滅する冒険の旅の中でレスター卿(※)と出会い、それらの伝説の数々について聞かされたのである。

※レスターは、クリスタル正教に裏切られる以前の役職、枢機卿という立場を大いに気に入っており、エタルニアの公王に祀り上げられた後も、好んでこの呼称を使っていた。

***

「なんだ...、君たちもいたのか」

ティズ、リズ、エースの3人もやってきていた。

このティズは、まだレスターのことは知らない。
人見知りのアニエスが、珍しく親しげにしている長身の男に対し、(レスターがティズに向ける以上の)敵意のようなものが沸き上がるのを抑えられないでいる。

「アニエスを守り通さないといけないからね」

とるに足らない子どもの意地なのに、彼らの将来を知るレスターには地味に効いていた。

「あたしたちは、ティズさんと行動を共にすることにしたんです」

「同じオーリア姓のよしみってわけだ。なんだかな~」

(この2人はたしか、8000年後の未来から来たという兄妹...)

「ふっ、なるほど...。君たちはよく似ている...」

4人を見比べたレスターは、半ばあきらめながら...。
ティズは、大人の余裕を見せつけられてイライラしながら...。
リズもエースも兄妹を褒められたと思ってまんざらでもなく...。
アニエスは、レスターと3人が和やかにしていることをほほえましく...。

...と、全員が全員、ちょっとだけ勘違いした上で平穏を保っているのであった。

***

「...援軍が、到着したみたい...」

そう告げたのは、ニハルという無口な少女だった。
ブラスの郊外にいる親友のナードという蛇が、偵察にうってつけだとハインケルやスティールなどから紹介されていたのだが、レスター自身は、必要な情報を必要なだけ伝えてくるニハルの情報精査力を大いに買っていた。

(援軍...ブラスに援軍などなかったはずだが...。いや、ニハルが言うのであれば援軍に相違ないのだろう)

レスターは、うなずいてニハルに先を続けるよう促した。

曰く、援軍とは、この本陣の左翼と右翼からそれぞれ北上する100名程度の小勢で、『ゴリーニ湖義勇軍』と『イトロプタの義勇軍』と名乗っているらしく、これからザレル本陣へ突入をするのだという...。

「ふむ、援護してやらねばいけなそうだね」

レスターは、グローリア王女とその仲間たち、ゼネオルシアの兄弟...あの皇帝を名乗るオブリビオンという男とユウ・ゼネオルシアを呼んでくるようティズたちに頼んだ...。

***

「何かご用でしょうか?」

ほどなくしてグローリア、セス、エルヴィス、アデルがやってきた。
グローリアはミューザという王国の王女で、レスターとはブラスの絵画同好会で何度か顔をあわせたこともあるが、あまり会話をしたことはなかった。
戦時ともあり、少し緊張しているようだった。

オブリビオンとユウ・ゼネオルシアもやってくる。

「我らに何の用だ、公王...」

マスクをつけた長身の男がやたらと壁を作った話し方をしてくる。
その横で、小さな少年がニコニコしている。

「現在、錬金ゼミ生を守るため、ゴリーニ村とイトロプタの街からの義勇軍が敵陣に突入しようとしているらしい」

「双方、士気は高いものの、100名ほどの寡兵(かへい)でね...」

彼らがザレル本陣へ突入する時には援護が...、撤退時には後詰が必要になるだろう...。
グローリアもオブリビオンも、レスターの申し出をすぐに理解したようだった。

グローリアには、セス、エルヴィス、アデル、ロディ、リリー、マルファ、セレネ、シャウラ、ニハル、ナードが同行する。

オブリビオンには、パネットーネ、ミネット、ビスマルク...。
ユウ・ゼネオルシアには、ジャン、ニコライ、マグノリアがそれぞれつき従う。

2つの隊は、さっそく出動していった。

***

「あの2人、兄弟だったのですね」

オブリビオンとユウが出陣してゆく姿を見送るアニエスが意外そうにつぶやく。

ユウ・ゼネオルシアの方は、正教騎士団の若きリーダーとしてアニエスは認識していた。
オブリビオンの方は、つい最近ブラスにやってきた覆面の男で、アニエスとしては面識がなかったが、先方はそうでもなさそうだった。

「ああ、2人ともよく似ている...」

レスターはそういって笑っていたが、アニエスにはそうは見えなかった。

「ふっふっふ、そっくりさ。彼らの先祖に、ね...」

このレスターの言葉にも説明が要るだろう。

アニエスたちがいた時代の約2400年前、それまで世界を支配していたクリスタル教(旧教)は、クリスタル正教にとって代わり、旧教の若き司祭であったレスターもまた、その激流に翻弄されることになる。

クリスタル正教の枢機卿として活躍したレスターであったが、正教上層部の謀略によって家族も領民も滅ぼされてしまう。
落城の折、とある声を聞き、永劫の命を得たレスターは闇の吸血伯爵として以降、正教の要人を殺し続ける。

レスターに暗殺された正教の初代教皇アングナル...その一人娘を娶ったファンダルという男がいた。
この野心に溢れる男が、遺跡探索、異民族討伐で功を上げ、数多の政敵を倒し、ゼネオルシア家という正教一の名家を創始し、正教騎士団を創設するに至る。

レスターは、かつて"青びょうたん"と評したファンダルが異例の出世を果たしてゆく姿を歴史の闇の中からずっと見ていたのである。

オブリビオンの本名は、デニー・ゼネオルシア。
ユウ・ゼネオルシアの腹違いの兄にあたり、兄弟はファンダル・ゼネオルシアの子孫ということになる。

***

アイヴィーベス・ブレージュ16世がやってきた。

この眼帯の女性は、クリスタル教の教皇を名乗っていたが、先に述べたクリスタル正教の前に存在したクリスタル教とは別ものになる。

「余も出撃しようと思うのだが...」

(なるほど。なかなか目の付け所が違う...)
アイヴィーベスは、これから西へと向かい、本陣の騒擾を見て反転してくるザレル軍を迎撃しようとしているらしい。

「人選は?」

ザレルにとっては本陣の危機なのである。
(反転してくる兵が1万以下ということはあるまい。であるならば、今こそ私の出番ということになるではないか...!)

アイヴィーベスは、ダリア、エアリー、フォリィあたりを連れてゆくという。
全員、ブラスの街でも誰ともつるもうとしない者たちだ...。

「それでは足りないだろう...。であれば、私も力を貸してや...」

レスターの申し出に、アイヴィーベスは一顧だにしない。
食い下がるレスターに「しつこいぞ」とまで言った上で、

「船頭が多いと、船も山を登るという...。公王に法王、王女に教皇に皇帝...。派手な肩書の"船頭"が多過ぎるのだよ、この本陣(ふね)には...」

そう言ってさっさと出撃していってしまうのであった...。

***

「どうやら間に合ったようですね。義父上」

「ほっほっほ、そのようじゃのう」

錬金の街ブラスの危機に駆けつけた『ゴリーニ湖義勇軍』を率いるのは、ゴリーニ村の元村長とその婿殿...新村長である。

ゴリーニ村の若い衆や、グラネ島のゴリーニ湖賊が主体となった軍団で、手に手に銛を構えている。

「さあ、野郎どもっ!! ゴリーニ湖賊が陸の上でも精悍なことをザレル兵たちに見せつけてやれ...!! 突っ込むぞっ...!!」

新村長の掛け声で突撃を開始するゴリーニ湖義勇軍...。
そこに、グローリア率いるエクシラント勢が合流する。

「はるばるゴリーニよりのご支援、感謝いたします。及ばずながら我らエクシラント来訪者隊が、突撃の援護を仕ります...!」

グローリア王女の朗々とした口上に、ゴリーニ新村長が銛を掲げて答える。

「ゴリーニ村は、これまで幾度となくデバコフ教授やブラスの街には助けていただきましたゆえ、及ばずながら馳せ参じました。ともに強敵ザレルを討ち破りましょうぞ!!」

先にハインケル率いる来訪者二番隊がこじ開けた陣の裂け目に、ゴリーニ湖義勇軍とエクシラント来訪者隊が突っ込んでゆく!!

エルヴィスとロディの長距離魔法攻撃と、リリーとシャウラの弓攻撃が敵兵を怯ませ、そこにセス、アデル、マルファ、ゴリーニ新村長が斬りかかってゆく。
中軍に控えるグローリアとセレネは、負傷者の収容と治療を行いつつ、離脱するタイミングを計っていた。

***

一方、ザレル本陣の東南を突いたクリッシー率いるイトロプタ義勇軍は、ゼネオルシア兄弟が率いるグランツ帝国隊(皇帝オブリビオン、パネットーネ、ミネット、ビスマルク)と、在りし日のイスタンタール調査隊(ユウ、ジャン、ニコライ、マグノリア)の支援を受けていた。

精強なイトロプタ義勇軍と、グランツ帝国隊、イスタンタール調査隊は、先にナジット率いる来訪者三番隊がこじ開けた穴をみるみる大きくしてゆき、敵陣を崩壊させてゆく...。

「ふっ、ユウのヤツめ...。さっきまであれほど恐がっていたのに、先頭に立って突撃してゆくではないか...」

「パネットーネ、ユウたちの右翼を支援して負担を減らしてやってくれ」

オブリビオンは、一撃した後に反転離脱する当初の予定を変えて、ユウたちの勢いを利用して敵陣を食い破ることにした。

オブリビオンの思惑が即座に全軍に伝わってゆく...。
ユウを先頭にした突撃軍が、右へ右へと旋回しながらザレル軍をなぎ倒していった。

***

一方、土の将ガイラと風の将ナンナンの部隊は、北方からの謎の砲撃を受けていた。

ザレルにも原始的ではありながら大砲や火砲の類の武器は配備されているし、砲撃自体に右往左往しているわけではなかった。
まさか本陣内が、これほどまで集中した砲撃を受けるとは夢にも思わなかったのである。

その砲撃の主は、ザレル本陣の北に迫っていた。

「クランブルス王軍テロール将軍、参上っ...!!」

テロール将軍率いる、エリートバエル5両が絶え間なく砲弾を撃ち込んでいる。

「間に合いましたね」

将軍の側にいるイヴァールが、砲煙に咳き込みながら敵陣を見つめている。

「ふっふっふ、22年前、ブルース陛下をお守りしながら落ち延びた道をこうしてザレルに一泡吹かすために進軍できるとは...」

テロール将軍は、その分厚い胸板をイヴァールの方に向け、

「それもこれもイヴァール、お前が副え馬2頭を潰してまでもゲレスに帰る我らに追いつき、ブルース陛下を説得してくれたおかげだ」

...とほほ笑んだ。

年老いた祖父母や親族を率いてゴリーニ方面へと向かったイヴァールは、グラネ島へ避難していたゴリーニ村の村長と、新村長にブラスの窮状を伝えると、一族をゴリーニ村に預け、自身は休む間もなく進路を北西へとった。

最初に乗っていた馬は、ゴリーニ湖北西で、1頭目の副え馬は、エサカルモ火山の麓で、2頭目の副え馬は、王の陣に着く前に潰れた。
それぞれ、近くの村人に金を払って馬を預け、最後は自身の足で駆けた...。

王の陣に到着したイヴァールの髪は乱れ、服はボロボロ...脛は草木によって裂け血だらけだった。

ふらつきながらも姿勢を正したイヴァールは、ブルース元国王に対してこう言ったのだという。

「王の代わりに、ザレルに一泡吹かせるために参上いたしました!」

***

ブルース元国王は、すぐさまテロール将軍に命じエリートバエル5両を急行させた。

「戦闘ができないボクには、このぐらいしかできなかったんです」

砲撃のたび身をすくめる、見るからに臆病そうな青年が、一族を守り、ボロボロになりながらブラスの窮状を伝えに王の下へと馳せ参じた...。
テロール将軍は、イヴァールの勇気と行動力に大いに感動していた。

「いや、お前はこの一戦で、どんな戦士よりも優れた働きをした。今からそれを見せてやる」

そうつぶやくと、獄炎の鉄槌を握りしめて叫んだ!!

「さあ、者ども...! あの大きな幕舎目掛けて、撃って撃って、撃ちまくるのだ...!! 全弾撃ち尽くしたら、突っ込むぞっ!! 私に続けぇ~~~いっ!!」

***

南から3方向から突撃してくる小部隊の存在...。
北方からは謎の砲撃。

あれだけの威容を誇っていた本陣内が、言いようのない焦燥感に包まれている。

火の将王麗、水の将ソーニャ、風の将ナンナン、土の将ガイラは、配下の兵にその場を死守するよう命じて、まずは大幕舎へと退くことにした。

すべては、大王ザレル2世の身の安全を確保するために...!

***

「四将が、ザレル兵がいなくなった...」

ルーファスが、ずれていた眼鏡を直しながら周囲を見回していた。

「へっ...何があったかしらねぇが、千載一遇の好機ってヤツが舞い込んできたらしいな」

スティールは、陣中に火をつけるのはナシにして、これからザレルの大王様にひと言挨拶しに行こうと、遠くに見える大幕舎を指さした。

「お互いザレルの侵攻のせいで、いろいろと人生を捻じ曲げられてきたんだ。恨み言のひとつでも聞いてもらおうぜ」

恨み言などすぐには思い浮かばなかったが、ザレル大王と話をしてみたい...そんなおぼろげな欲求は確かに私の中に存在していた。