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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第010章] 10-18

妄執

担当:サンドラ・カサンドラ

南から突入したという小集団は、やはり来訪者たちだった。

あたしは、クリスタル正教に伝わる『停戦の狼煙』を焚いたところ、ほとんどの部隊の動きが止まった。

これは、白色の煙と濃い青色の煙がまるで縄のように交わるように上がる狼煙のことで、ソーニャに頼んでザレルの狼煙で代用した。
来訪者の中には、正教関係者や元正教側だった人が数多くいる。
たとえそうでなくてもこの特異な狼煙を見て何かに気づく者も多いだろう。

狼煙によって陣中を暴れ回る小集団が動きを緩めるのを確認すると、ソーニャたちは即座に鐘を叩いて全軍に停戦を伝える。
ザレル軍もまた動きを止めた。

唯一動きを止めない北と南西の部隊には、あたしとルーファスが手分けして停戦するよう伝えに行った。
南西で暴れ回る部隊は、グローリア王女率いるエクシラント部隊...。
正教の狼煙を知らないのは無理がなかった。
あたしが使者に立ち、停戦するよう告げるとすぐに進軍を停止した。

北の小部隊には、ルーファスが急行した。
それは、テロール将軍が率いる元王軍であった。
ルーファスが将軍を訪ねるとすぐに停戦に応じてくれた。

流石は大王直属の近衛隊がほとんどのザレル軍と、百戦錬磨の来訪者部隊...。
一部の兵による暴発などもなく、陣中の騒乱はすぐに鎮まった。

あたしたちは、各隊を巡り、現在ザレル2世とクレアが会談中であることを告げ、決して暴発しないようにと言い置いて、再び大幕舎へと急いだ。

***

突如、腹の底をえぐられるような、おぞましい声が頭上から降ってきた...。

見上げるような黒い化け物が、火の将王麗に一撃を加え、王麗が崩れ落ちる...。

クレアは無事だった。
スティールが身を呈している。
ザレル2世の姿が見えない...。

それでは、あの化け物は...。

あたしたちが駆け寄るのを察知したスティールが叫んだ。

「話は後だ...!! サンディ、ルーファス...!! いくぜっ!!」

***

見上げるような巨体...。
獣の体に複数の大きな翼。
漆黒の人の半身には、幾本もの腕があり、剣や槍、大砲などの武器を持っている。

東方の騎馬民族がよく使う兜をかぶったその化け物は、ザレル2世の中から噴き出した英雄ザラールの妄執が具現化したものらしい...。

禍々しい気を放ち、恐怖をまき散らしながら襲いかかる英雄の妄執...!

幾本もの大木を束ねてできた大幕舎の大柱を軽々となぎ倒し、玉座の間に敷かれた絨毯を引き裂きながらあたしたちに迫ってくる!!

(...ふっふっふ、我が野望の贄のくせに、なかなかやるではないか)

(だが、これで終わりだっ...!!)

英雄の妄執の声は、直接耳に聞こえてくるのではなく、脳に直接響いてくるような感じがあった。

クレアが体勢を崩す。
スティールが、ルーファスが、あたしが...それぞれ援護に入る...!

「ブラスの者たちよ、援護しますっ...!!」

あたしたちの窮地を救ってくれたのは、ザレルの四将たちであった。
王麗たちの援護によって、あたしたちの崩れた態勢も的にならずに済んだ。

(ふん...、お前ら、朕の孫の嫁になる身でありながら朕に逆らうと申すか...)

英雄の妄執の言葉に、水の将ソーニャが大斧を構える。

「我らは、大王ザレル2世の妃候補...!! 決して、過去の栄光にすがり、この世に混沌をもたらそうとするそなたの家に嫁ぐわけではナい!!」

風の将ナンナンが、小刀を構える。

「そうや...! 侵し、奪い、殺し、他者の血と涙の上に築く繁栄なんて、まっぴら御免なんや...!」

四将の中で、最も英雄ザラールの影響を受けていそうな土の将ガイラもまた、漆黒の斬馬刀を構える。

「正々堂々真っ向勝負...私が愛するザレルの気風は、決してお前の妄執のように醜いものではないっ!!」

自身に歯向かう四将に対して目を細めた英雄の妄執は、何かを振りかぶると周囲に4つの結晶体のようなものが出現した。

(これは、お前たちが異世界から集めてきた4つの命脈...)

(お前らが、他の世界を滅ぼしてまで手に入れたこの力を使って、お前らを焼き尽くしてやるわ!!)

火、水、風、土の炎の柱が立ち昇り、王麗たちを焼き尽くす...!!
王麗が、ソーニャが、ナンナン、ガイラが次々と地に倒れていった...。

「みんな、行くわよっ...!!」

クレアの号令で、あたしたちは一斉に英雄の妄執に跳びかかる!!

(ふっふっふ...、そう慌てるな...。この次元では、まだまだ朕の力を発揮できぬ...)

(本来の朕が存在する次元に招待しよう...)

英雄の妄執が何かを念じると、周囲の風景が一変した!!

***

そこは、あたしが常日頃想像していた地獄ってヤツそのものの情景だった...。

あの巨大な石柱が宙を舞う異空間よりも、もっともっと後の世界...。
英雄の妄執は、そこを『この世の終わり』だと言った。

あたしたちがいた世界や、異世界...ありとあらゆるすべての概念が消え去ろうとする、終わりを迎えた空間で、ここの住人である英雄の妄執にとって最大限の力を発揮できるフィールドなのだそうだ。

死闘が、始まった...。

***

いつしか、大幕舎の中へと戻っていた...。

あたしが組んだ両手首を足場にして、スティールが天高く飛翔する。

英雄の妄執の脳天に突き立てられたスティールの長剣...!!

そして、そこに目掛けて落ちてきた、詠唱に詠唱を重ねてきたルーファスの雷撃!!

巨大な稲光が、英雄の妄執を貫いた...!!

(ち、朕が...、朕が敗れる...だと...?)

着地したスティールがそのまま膝をついた。
どちらかの足の骨が折れていたのだそうだ...。

(数多の国々と戦い...、一代にして...巨大なザール帝国を...築いたワシが...)

ルーファスの豊かな金髪が逆立っている。
長いまつ毛の何本かは焦げているようだった...。
ルーファスの唇は、もう無理、無理だって...そんなことをつぶやいているようだった。

(数多の文化や宗教、思想を呑み込んできた俺が...)

英雄の妄執も、もはや朕などと皇帝専用の一人称にはこだわっていられないらしい。

あたしは、地に突っ伏してたクレアに手を差し伸べようとしたけれど、肩が抜けていて手が動かずかえってバランスを崩してしまう...。
情けないことに、起き上がったクレアに支えられる形になってしまっていた。

(孫の中にあった闇のクリスタルの力でようやくこの世の終わりから抜け出せたというのに)

(朕は、朕は... 四海を...見にゆく...の...)

(あだひぶだふむいじゅないうふしょあぁあぁ...!!)

英雄の妄執が何かを言っていたようだけど、あたしたちには聞こえてはいなかった。

ルーファスがスティールに肩を貸し、大剣を杖代わりにして立つあたしの目の前でクレアがしっかりと立ち上がった。

あたしたちの背後で、英雄の妄執が光に消えていった...。