BRAVELY DEFAULT BRILLIANT LIGHTS
REPORT錬⾦ゼミ活動レポート
[第010章] 10-20
新たなる旅立ち
私たちは、血砂荒野をブラスの街へと向かって歩いていた...。
スティールもサンディもルーファスも、どこかしらを傷めていて、時折立ち止まり、休み休みの行軍となったが歩みはとても軽いものだった。
右手に来訪者隊の本陣があった跡地が見えた。
レスター卿が来訪者隊の総指揮を執ったとのことだったが、すでに陣を払って誰も残ってはいなかった。
西の方を見ると、ゴリーニ湖義勇軍の隊列が並走していた。
あの村長と婿殿が、100名近い荒くれたちを引き連れて駆けつけてくれたらしい。
「しっかし、イヴァールも来訪者のみんなも酷いな~」
ルーファスがこぼす不満ももっともだった。
来訪者のみんなもイヴァールも、口では協力しないようなことを言っていたけれど、最終的には私たちの危機を救ってくれたことになる。
最初から明かしてくれていればきっとそれに甘えてしまう...そんな考え方もわからなくもなかったが、言ってほしかったというルーファスの気持ちもわからなくはない。
「まさかザレルと和議を結ぶことになるとはな~」
満身創痍な私たちの足取りが軽いのは、この一事に尽きる。
数刻前、ザレル2世は和睦を申し出ていた。
***
「和睦、和議、和平、停戦、休戦...なんでもよい」
ザレル2世は、とにかくクランブルス共和国とザレル・ウルスの戦いを止めることを提案してきた。
大都まで返還するわけにはいかないが、この陣は引き払い、ニーザの街も返還してくれるとのこと...。
四将も前線の8万の兵も健在(※)だというのに、なぜ停戦するのか...。
元々私との問答で、和睦することを考えていたらしいのだが、英雄ザラールの冷たい思念に触れて恐ろしくなったのだという。
※この時は、アイヴィーベス隊によって反転してきた2万の兵が瞬時に蒸発してしまったという報告は受けていなかった。
奥で休むザラール2世に代り、火の将王麗との会談が続いた。
前線には、水の将ソーニャとテロール将軍が一緒に停戦するよう向かっているという。
あの砲撃音は、テロール将軍が駆けつけてきてくれたものだったのか...。
それにしても、なぜ将軍が...?
将軍は、ブルース元国王について機工島ゲレスへと向かったはず...。
驚いたことに将軍を説得してくれたのは、イヴァールだったらしい。
2頭の副え馬を潰しながら、海を渡る前のブルース元国王に謁見し、援軍を差し向けるよう説得したのだという。
***
王麗は、一度ブラスの街へ戻ってデバコフ教授を連れてきてほしいと私たちに要請した。
四家が滅んだ今、クランブルス評議会にこの難局を切り盛りする力はないだろう。
であれば、評議会をも動かせる教授に大都に来てもらい、直接和平交渉の席についてもらった方が何かと都合がよかった。
「それにもうひとつ...」
王麗は、私たち錬金ゼミ生にも大都に来てほしいと言った。
ザレル2世は、異世界から命脈を奪ってきて自らが目覚めたことを気に病んでいるらしい。
それは、王麗をはじめ四将も同じで、錬金の力を借りて異世界に命脈を返還することはできないか...その研究をしてもらいたいとのことだった。
***
実際、クランブルスでは切実な人材不足に陥っていた。
四家の専横によって有為の士が退けられ続け、ブルース元国王の乱によって四家とその側近たちもいなくなり、日和見主義の覇気をもたない者だけが残った。
覇気がないということは、不正がはびこる温床になりやすい状況ともいえる。
しかし、少なくとも武器をとって隣国とやり合う戦乱状態に比べればまだマシというものだった。
「それにしてもさ、クレア」
今まで何度もその機会をうかがっていたらしいサンディが、ようやく切り出した。
「いくらクレアにしかできないこととはいっても自分の命を投げ出すような、あんな真似はダメだよ...?」
それにはスティールもルーファスも同感とばかりに大きくうなずく。
サンディが火の巫女カーシャさんから聞いていたという、私が死んでしまうイメージのこともあってか、この時ばかりはみんなに叱られている感じになって、それはそれで(こうして生き残ったがゆえに感じられる)心地の良いものだった。
途中で現れたルミナが、上手にみんなの怒りをさらってくれて、ルーファスにグルグル巻きにされていた。
※ここのくだりは、スティールとサンディとルーファスの強い要請があって割愛します。
***
デバコフ教授は、先に帰還を果たした来訪者隊やゴリーニ湖・イトロプタの両義勇軍から大体のことは聞いていたらしいが、あらためてザレルが講和を望んでいると聞いて、さすがに驚きを隠せないでいた。
私たちは、
協力しないと公言していた来訪者たちが、次々と敵陣に突入し、かく乱してくれたこと。
ゴリーニ村からは、元村長と婿殿が湖賊の一団を率いて、イトロプタの街からはクリッシーさんが独立解放戦線の人たちを率いて駆けつけてくれたこと。
ザレルの北辺からは、テロール将軍率いる旧王軍が砲撃の後に突入し、ますます陣中を混乱に陥れ、そのおかげで私たちはザレル2世と会談をもつことができたこと。
...を順に説明した。
教授は、王軍とイトロプタ義勇軍を連れてきたイヴァールとクリッシーを激賞し、私たち錬金ゼミ生も褒めてくれた。
サンディが、私が『賢者の意思』と『騒乱の種』を錬成し、『カウラの思念』として闇のクリスタルを鎮静化したことを説明すると、教授はヒレをプルプルさせて興奮していたし、私が一度命を失ったときのくだりの時などは、目を見開いて私の顔を見つめていた。
私が、古の大錬金術師の啓示を受けたことについて説明しようとしたら、イデアがやってきて、宴の準備が整ったと告げた。
詳しい話は宴の後であらためて聞くということにして、まずはみんなが待つ広場へと向かった。
***
広場では、酒樽がいくつも並べられ、めいめいに好きな酒を好きなだけ飲むという山賊スタイルの宴会が、半ば始まっていた。
私たちの姿をみて、形ばかりの乾杯の音頭、乾杯...と流れるように宴は進行し、再び山賊スタイルに戻ってゆく...。
向かう先々でザレル2世との会談の話をさせられ、各隊の武勇伝を聞かされ、その都度献杯&返杯...と、みんなクタクタなはずなのにハイペースに酒が進む。
私たちは、逃げるようにいつもの酒場へと駆けこんだ。
酒場のマスターが気を利かせて表の看板を仕舞ってくれた。
私たちは、各々自分の飲み物を頼み、あらためて乾杯した。
マスターによれば、宴は広場だけでは収まらず、城外にも酒樽を配達してゴリーニ湖・イトロプタ義勇軍の兵士などはそこで宴会を開いているらしい。
「後で挨拶に行かないとな~」
ゴリーニ湖の村長や婿殿は、広場でエクシラント隊のみんなと飲み明かしていたけれど、ブラスのために駆けつけてくれたひとりひとりに礼を言いたかった。
マイヨさんを囲んでした野営飯大会には顔を出さなかった来訪者のみんなも全員笑顔で飲み食いしている。
普段は城内に入れてもらえないバハムート、ビスマルク、ナードらも街の子どもらと楽しそうに遊んでいた。
「お、いたいた...!!」
「今宵の主役がこんな酒場でなにしんみり飲んでいるんだ?」
ブラスの酒飲み三人衆がやってきて、表で繰り広げられているブラスの酒豪王選抜大会に参加しろ、とサンディたちを連れてゆく...。
ふいにサンディに目くばせされた気がした。
...同時に、酒豪王を決める大会に、なぜか下戸のルーファスまで連れてゆこうとしている。
思わぬタイミングで2人っきりになった私とルミナは、静かに語り合った。
傍から見れば、カウンターに置いたランタン相手に一人酒をしているようにしか見えなかっただろう...。
私の体内にあるクリスタルの御子は、やがて繭になり、私と同化する形で光のクリスタルになるのだという。
クリスタルを破壊すれば、暴走が始まり世界が滅ぶ。
私や、ザレル2世は、クリスタルの寿命が尽きるまで一義的には死ねない...そして、宿命としても死んではならない存在になるのだそうだ。
いまいちピンときてなさそうな私に、ルミナがあらためて確かめる。
周囲にいる者たちよりも遥かに長い寿命をもつこと。
親しくなった者が次々と寿命を終えてゆく中、自身は死ぬことを許されず、やがて巨大なクリスタルという石に取り込まれ、人としては生きられなくなる...。
そこには、もうひとつの意味が込められているのを、私は知っていた。
もしも、繭から光のクリスタルが誕生する前に私が死を選べば...私はルミナが語ってくれた永劫の苦しみからは解放されるのだろう...。
「ねぇ、ルミナ...。ランタン、カーンさんに直してもらわないとね...」
どう答えればいいのかわからなかった私は、そんなことを言ってその場をやり過ごそうとした。
そして、ルミナはそれを許してくれた...。
カウンターの奥で、マスターが静かにグラスを拭いていた...。
***
「おいクレア、大変だっ!!」
ドアを蹴破るようにしてスティールが駆け込んでくる。
「イヴァールの挑発に乗ったルーファスが、酒飲んでぶっ倒れちまった...!」
ルーファスの身を呈した(?)ドタバタ劇が、私たちを沈黙から救ってくれたようだった。
***
山賊スタイルの酒盛りは、その後2日続いた。
3日目、街は死んだように眠りこけ、4日目の昼過ぎ、ようやく普段のブラスに戻ってきた。
役人をはじめ、各地に避難していた住民たちも疎開先から戻りつつある。
ゴリーニ湖義勇軍も、イトロプタ義勇軍も、それぞれ帰還する準備を始めている。
「...それでは、行ってきマス」
デバコフ教授は、イヴァールを街の代表として、クリッシーさんには、帰還する義勇軍への補給を依頼して、私たち錬金ゼミ一同は、ザレル・ウルスの首都、大都へと向かうことにした。
自室と錬金工房の整理に丸2日費やし、教授は街の運営に関わる部分で錬金術が担っている範囲の詳細をイヴァールに伝授した。
錬金術を使わなくても運用できるよう体系化したというが、化学の知識があるイヴァールでなければそれも叶わなかっただろう。
そういう意味でも教授はイヴァールを街の代表に選んだのかもしれない。
***
私たちは、ザレルに行って何をするのだろう...?
私の問いに、教授は、いろいろ、そして様々だろうと言った。
まずは、クランブルス共和国とザレル・ウルスとの和平交渉...。
いくらザレル2世と四将が和平を望んでいたとしても、反発する家臣は少なからずいるだろうし、難航するのは目に見えていた。
これに関しては、来訪者のニコライさんやレスター卿などからも散々助言をもらっていた。
ザレルの中にいて、時には私たち錬金ゼミ生の命が危険にさらされることもあるだろう。
サンディやスティール、四将の誰かに警護を頼む必要もあるかもしれない。
次に、ザレル2世から、各クリスタルの命脈を安全に摘出、あるいは分離する方法の模索と、錬金学的検証が急務だった。
大神官ヅクエフが構築したという、任意の時空へ転移する仕組みの解明もしなければならず、教授の体がいくつあっても足りなさそうだった。
スティールは、ランケード夫妻について、いろいろ調べたいのだそうだ。
火の将王麗によれば、王都に駐留したザレル兵は、金銀財宝は略奪し尽くしたそうだが、書類や記録類、書籍などにはまったく興味を示さず、もしかするとスティールのご両親についての記録が手つかずで残っているかもしれないというのだ。
大都から東にかけての地図作成にも興味があるらしく、やはり忙しくなりそうだった。
羨ましそうにするルーファスだって、そうでもなさそうなサンディだって、なんだかんだと首を突っ込んで忙しくなることは目に見えていた。
「よし、まずはニーザの街へ! ニーザで旅の準備を整えて、ザレルの都『大都』へ!!」
私たちは、ザレル本陣の南東にあった孤立丘を北東に進み、ニーザの街を目指した。
足取りは軽い。
私たちが踏んだ血砂が、舞い上がり、風になびいて消えていった...。