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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第011章(最終章)] 11-2

ルーファスの姉

担当:スティール・フランクリン

「まず最初に転移するのは、命脈を返還するためにじゃねぇんだ」

ルーファスは、その時点で俺が何を言っているのか、わかっていたと思う...。

「ルーファス、お前の決着をつけに行くんだよ」

そんなはずはない、何かの間違いだ...ルーファスの視線が、クレアやサンディの瞳にすがるようにうつろったが、2人ともルーファスの逃げを許そうとはしない...。

「ルーファス、あんたがお姉さんのことで思い悩んでいるのは、もうみんな知ってるんだ」

ルーファスが、ゆっくりと視線を落とした...。

俺たちが、ルーファスのこの問題を共有するようになったのは、いったいいつぐらいからだっただろう...?

ルーファスが戦闘中に、間違って酒を飲んだ時に思わずつぶやいた言葉から...、錬金術師カウラのエピソードを聞いた時の表情...。

俺が地図の作成のためにエクシラントの地勢について質問した時、ウィズワルドの東方にある半島についてだけ、ルーファスは言葉を濁していた...。

なんだかんだと、ザレルに行く前には、3人で語り合うことはあった...。

「ルーファスの故郷は、ウィズワルドの東方、ルゴール村...でいいんだよな?」

俺たちは、ロディとリリーの夫妻(※)からも、いろいろと聞いていた...。
※2人の事情は知っているが、ここは夫妻とする。

俺たちが、まず最初に向かうのは、ルゴール村...。

「何があったのか、話してくれないか?」

デバコフ教授が、このヒリついた場でどうしていたらよいか、困ったような表情をしていた...。

***

「...僕には、8つ年上の姉がいたんだ」

ルーファスが、そう言うまでにいったいどのぐらい時間が過ぎたことだろう...。
だいぶ時間が経ったからか、一度発動していた魔法陣から光が消えていた...。

それをきっかけにして、ルーファスは普段と変わらぬ話し方になった。

ルーファスの姉は、名前をルーシーといって、生前は地質学者をしていたのだという。

年が離れた姉弟だったからか、ケンカなどはほとんどしたことがない、仲の良い姉弟だった。

8つ上というと、俺なんかよりも大分年上ということになる...。
ルーファスの姉さん、ルーシーさん...呼び方をいろいろ考えもしたが、俺らしくルーシーと敬称などはつけずに呼んで、ルーファスもそれを受け入れてくれたようだった。

ルーシーは、ルーファスが魔法学を志すと、心情的にも経済的にも精一杯応援してくれた...。

魔法学の研鑽のために諸国を巡ろうとするルーファスを快く送り出してくれ、旅先からの金の無心にも、何度も応じてくれたのだという。

***

ルーファスが、再び黙り込んだ...。

その間、広げた地図に置いていた燭台の火がいくつか消えていたが、誰も急かしたりはしなかった。

十分に考え抜いたルーファスが、ため息とともに再び話し始めた...。

「そんな姉ルーシーが病に倒れたと知ったのは...」

ミューザ国が襲撃された翌年のことだったという...。

ルーファスは、飛ぶようにしてルゴール村へ戻ったけれど、間に合わなかった。

ルーシーの葬儀は、親族が全部やってくれたらしい。

姉の死を受け入れられなかったルーファスは、その当時すでに親交があったウィズワルドのロディの元を訪れた。

ロディが反魂の魔法について知見があることを思い出し、ルーシーを蘇らせるヒントになったなら...と、特に成算があるわけでもない訪問だった。

ちなみに、この時まだロディはウィズワルドの代表にはなっていない。
前代表のエマは存命で、エルヴィスもまだウィズワルドを出ていない。

「ウィズワルドへ向かった僕は、反魂の法について書かれた禁書を読み漁り、姉ルーシーを生き返らせるため、ルゴール村へと舞い戻ったんだ」

そこまで言ったルーファスは、再び言葉を飲み込み、かぶりを振って吐きだすようにつぶやいた。

「ロディさんが止めるのも聞かずに...」

ルーファスは、死んだ姉ルーシーを蘇生させるというただ一点にしか意識がいっていなかった。
あらかじめ抱いていた自身の希望的観測に近づけるような蔵書の読み込みで、ロディからすると浅く、雑で、危ういものだったらしい。

ルゴール村に舞い戻ったルーファスは、親族が止めるのも聞かず、姉ルーシーの墓を暴き、自らが信じた反魂の魔法を姉ルーシーの遺体にかけた...。

ルーシーは、生き返った。
いや、生き返ってしまった...。

恐ろしい幽鬼として...。

ルーファスが、カタカタと小さく震えていた...。
焦点が定まらず、動悸も小刻みになっている。

俺たちは、ルーファスを大きな瓦礫に座らせて、待った...。

***

しばらくして、サンディが肩に手を置くとルーファスはハッとして、再び語り始めた。

幽鬼と化した姉ルーシーは、ルーファスへの憎悪と瘴気をまき散らしながら、村の周辺を徘徊するようになった。

大地は腐り、草木は枯れ、有毒な大気は人々の体を蝕んだ...。

幽鬼ルーシーが出現するたび田畑が荒れ、老人から順に命を失っていった。
村人の視線は、姉の墓を暴いて何かをしたルーファスへと向かい、それは冷たく厳しいものになっていった。

「僕は、逃げ出したんだ...」

頭を抱え込むルーファス...。
指の間から綺麗な金髪がこぼれ落ちている。
両足の間に、いくつもの雫が落ちては、石床に沁み込んでいった。

ルーファスがルゴール村を出奔した直後、光の球が発生してルーファスを包み込んだのだという。

「それを僕は、魔法学の探求で世界中巡っていただなんて嘘をついて...」

ルーファスの嗚咽が響いた...。
俺は、それを無視した。

「そんなこと、どうだっていい」、「気にするな」、「そう自分を責めるな」...

どんな言葉をかけてやってもチープなものになりそうな気がして...。
無視してやる方が、ルーファスにとって楽な気がして...。

***

「おい、ルミナ」

俺が呼ぶと、ルミナはすぐに現れた。

「行先のイメージは、以前俺たちが行ったウィズワルドの東方...。時期的には、その1年前ってところか...」

ルミナがランタンの中で念を込める...。
それに反応するかのように、魔法陣の刻印が輝きだした...。

「スティール、僕は...」

ふらふらと立ち上がったルーファスが、何かを言おうとしていたようだったが、俺はそれを遮った。

「うるせーぞ」

差し出したルーファスの手がびくりと止まった。
(そうじゃねぇ、そうじゃねぇんだルーファス...)

「お前が俺たちにすら打ち明けることができずにいたことを、これからケリつけに行くんだ」

「魔法学の研究のためだか逃避した結果だとか、くだんねーことはこの際無視だ」

ああ、そうだ。
そんなくだんねーことのために、お前ぇは悩み続けることなんかねぇ。

「四の五の言ってねぇで黙ってついてこい」

俺は、どんな顔をしていいのかわからずルーファスに背を向けた。
背後で、サンディがルーファスの背を叩く音が聞こえた。

クレアがルミナに尋ねる。

「ちなみに、だけど...。ルミナ、ルーファスのお姉さんが亡くなる前とかに
転移することはできそうかしら?」

ああ、そうか...。
問題が発生する以前に転移できれば、それこそ根本から解決することも可能ということになる...。

しばらく何かを念じていたルミナが、しずかにかぶりを振る。

「それはダメみたいね。魔法陣が開く気配が、まったくしないの」

気持ち、魔法陣の輝きも失せてしまったようにも見えた。

「そうか、仕方ねぇ。当初の予定の時空に行くとしよう。いいな、ルーファス」

ルーファスからの変事はなかった。
しかし、クレアとサンディに左右を支えられながら、魔法陣の上までやってきていた。

いつもの「見える、見える」というヤツをしようともしないルミナ。
本人曰く、実際に何も見えないのだという。

「それっぽいことを言ってもいいけれど、そんなこと、当のルーファスは望まないでしょう?」

ルミナはルミナなりに、ルーファスの心情を思いやってくれているらしい...。

デバコフ教授は、賢者の間内部の様子が気になって仕方がないようだった。
玉座の背もたれに刻印されたルミナの額にある紋様と同じ印をじっと眺めている。
教授は、賢者の間をいろいろと調べながら、俺たちの帰りを待つとのことだった。

***

「さあ、行きましょう...。ルーファスの、決して癒えることのなかった
心の傷にケリをつける旅へと...」

ルミナの言葉を境に、魔法陣の光がどんどん大きく、そして強くなる。
俺たちは、光に包まれた...。

***

そこは、見覚えのある風景だった。

西の方を見たサンディが、木立の奥にウィズワルドの町の姿を確認した。

「僕が、光の球に包まれた年であるのなら、ミューザ滅亡から2年後...。おそらくはまだ、ウィズワルドは樹木に覆われていない...」

ルーファスは、緊張しているようだった...。

「確かめに行ってみるか?」

樹木に覆われていない、アモナがまだ存命のウィズワルド...。
いろいろな想いが脳裏を渦巻いていたようだったが、最終的にルーファスはウィズワルド行きをしないことにした。
俺たちも、同じ意見だった。

***

「おや、こんなところで人と出くわすとは...」

ふいに声をかけられて振り返ると、そこには旅人らしき男が立っていた。
どうやら東の方からやってきたらしい。

幽鬼ルーシーに荒らされて人などいないと思っていたので、驚きを隠せなかった俺は、誰何も名乗りもせずにいきなり本題に入っていた。

「なあ、あんた。ルゴール村って、どの辺になるのかわかるかい?」

旅人は、両手をすくめるようにして笑った。

「うん? ルゴール村? 何言ってんだい、面白いな~」

「何が面白いってのさ」

旅人のにやけ顔にイラついたのか、サンディがドスを利かせる...。

「あんたらが聞くルゴール村は、ここだからさ」

旅人は、自身の足元を指差して言った。

***

ルーファスが、ふらふらと辺りを彷徨い歩いた...。

「だって、こんなに草木に覆われ...」

辺りは、まるで原生林そのものといった様相で、ここが村であったようには見えなかった。

「幽鬼ルーシーのせいさ」

旅人は、東の方を眺めて吐き捨てるようにつぶやいた。
ルーファスの肩が落ちるのがわかった。

「あの瘴気をまき散らす幽鬼のせいで、田畑は瘴気に塗れ、村人は故郷を棄ててすべてよその土地へと去っていった」

目を凝らして見れば、樹木の下に家屋の土台となった石積みや、人工的な構造物の残骸などが見え隠れしていた。

「ルゴール村が滅びた数か月後、今度は別の村に幽鬼ルーシーが現れ、その村も滅んだ...」

「そうやって、いくつもの村が滅び、つい先日は、とうとう俺の故郷も...。どうなったか確かめに帰ってみたんだが、ここと一緒で草木に飲まれつつあるよ」

この旅人からずっと乾いた憤りの気配を感じたのは、そういうことだった。

俺は、ダメ元で幽鬼ルーシーの居場所について尋ねてみた。

「さあな...。ここから東に向かえば、出遭えるんじゃねぇか?」

一端、東の方を見やった旅人だったが、詳しくは知らなそうだった。

「噂によれば、幽鬼ルーシーってのは、弟を恨んで死んだってな」

突然の言葉の匕首(あいくち)が、ルーファスの胸を貫いた...。

「そんで、その弟ってヤツは故郷を逃げ出したって話じゃねぇか。...ったく、勘弁してほしいぜ」

旅人にしてみれば単に知っている情報を明かしただけだったが、ルーファスの心を容赦なくえぐっている...。

サンディの奥歯が、砕けるんじゃねぇか? というほどにゴキリと音を立てた。

「忙しい中、いろいろと悪かったな」

俺は、旅人がこれ以上余計なことを言わぬよう、話題を打ち切った。
少し拍子抜けしたような旅人は、そのまま西の方へと去っていった。

ルーファスは肩を落とし、長い溜息をついている...。

「事情を知らない他人の口なんて気にするな...」

そう言いながら俺は、東へと歩き始めた...。

「ブラス中の憎悪が俺に向いていた時、お前が俺に言ってくれた言葉だ」

ルーファスの反応はない...。

「雷のひとつも落としてやればよかったんだろうがな...。あいにく俺は、魔法のマの字も知らんときている」

振り返っておどけてみせようとしたが、声が上ずってしまう...。

「さあ、行こうよ。ルーファス」

サンディに促されて、ルーファスも歩きだした。
足取りは、重かった...。

***

どのぐらい歩いただろう...。
時折ルーファスのため息が聞こえるだけで、誰も何も話そうとしなかった。

ふと、クレアが立ち止まり、周囲の様子を伺っている...。

「...何か、聞こえる...」

草木がざわめいていたが、先ほどまで聞こえていた小鳥の鳴き声は止んでいる。

「...姉さんだ...」

ルーファスが立ち止まり、周囲を伺う...。

「.........さない、......ファス...。......るさない...!!」

恐ろしい声が、地中から響いてくる...。

「...て行け...」

声が、徐々に近づいてくる...。

「...の地を......て行け...!」

突然、目の前の大地から、髪を逆立てた女の幽鬼がせり上がるように出現した!!

目を見開いたルーファスが叫ぶ!!

「姉さんっ!」

目の前にいるのが、幽鬼ルーシーであるのはわかった。
ボロボロの着衣で、両手両足を何かで拘束されている...。
ルーファスと同じ金髪だったが、髪質が少し違うと感じたのは、どういうことだったのだろう?

「.........さない、......ファス...。......るさない...!!」

幽鬼ルーシーは、なおもルーファスを責め続けている。
ひざまずいたルーファスが、何度も何度も詫びていたが、ルーシーの怒りは一向に収まる気配はなく、むしろ高まっているようだった。

ギリギリまで対話をさせてやろうと粘っていたが、限界だった...。

「ルーファス、そこまでだ!」

俺は、ひざまずいたルーファスの肩口を掴み、無理やり立たせる。

「一旦戦って、退くよ!」

俺たちを守るように立ちはだかったサンディに、幽鬼ルーシーの触手のようなリボンが襲いかかってきた!!

***

戦意のないルーファスをかばいながらの戦いがしばらく続いた...。

何度切断しても再生してくる触手状のリボン...!
幽鬼ルーシーの周りに湧き立つ瘴気によって、俺たちの動きもどんどん鈍くなる...。

サンディが幽鬼ルーシーを大剣の腹で払うと、俺たちとの間に距離が空き、それが戦いの潮目となった...。

「...お前は、...ルーファス...!」

少し正気に戻ってきているのか、幽鬼ルーシーの言語がより詳しいものになってきている。

「...眠りについた私を無理やりに、このような醜い姿に...」

幽鬼ルーシーは、自らに反魂の魔法をかけたルーファスを許していないようだった。

ルーファスは、両膝を地について詫びている。

「...許さない、るさない、......さない...」

幽鬼ルーシーは、地に沈みこむようにして消えていった。
地に突っ伏して泣き続けるルーファス。

無力感に苛まれ、ただただうつむくことしかできない俺たち3人...。

小鳥のさえずりが戻ってきていた...。