BRAVELY DEFAULT BRILLIANT LIGHTS
REPORT錬⾦ゼミ活動レポート
[第3章] 3-6
花園と斧
気がつくとふいに、靴の裏に地面を感じバランスを取ろうとして少しぐらつく...。
つぶっていた目を開ける前に、鼻腔に広がる懐かしい大気の匂いで確信めいたものがあった...。
「サンディ、知ってそうだな...」
スティールには、仕草でわかったのだろうか...ああ、あたしは知っている...。
この景色、そしてこの大気の匂い...。
間違いない。ここは、フロウ大湿原...!
『艶花(あではな)の国フロウエル』の南部に広がる、広大な湿地帯...。
見たところ、リップルの町とフロウエルの街との中間ぐらいに思えたが...見渡す限りの湿地と花園だけでは、いつの時代のフロウエルなのかはよくわからなかった。
ルーファスなどは、ちょっと景色を見ただけでそこまでわかるなんて...さすがは冒険家! ...などと驚いていたけど、冒険家かそうじゃないかはこの際関係がない...。
何しろこの国は、あたしの故郷なんだから...。
***
あたしは、この国の西方のとある地方領主に仕えた騎士だった。
北方の異民族討伐や数年ごとに襲来する海賊団との戦いで武功を認められ、『正教騎士団』に推薦されてこの国を離れた。
正教騎士団とは、かつて世界を統治していたクリスタル正教が擁する花形騎士団という印象だが、『聖騎士の決起』の後に教団は政権を失い、騎士団とは名ばかりの存在になり下がっていた。
このフロウエルという国は、昔から親正教国として有名で、たとえ名ばかりとなった正教騎士団であっても、あたしの主は喜んで推薦し送り出してくれたものだった。
「落ち目のところに加勢するなんざぁ、サンディらしいじゃねぇか」
スティールが、あたしを気遣って笑いかける...。
(落ち目、か...)
うつむいたあたしのすぐそばの草地に、巨大な魔法陣が浮かび上がった...!!
***
「な、なんだ...!?」
「ざ、ザレルのヤツらか...!?」
目の前に、斧を構えた小柄な娘が立っている...。
ザレル兵を率いているところをみると、こいつが将...しかし、土の将ガイラはどうした?
あたしたちの疑問に、娘の側にひかえる大男が答える...。
「土の将ガイラは、お前らとの戦いで重傷を負ってな...。戦には出られぬ身になり下がったのよ。くっくっく...」
こいつ、ガイラに仕えていた大男ではないな...。
よく見ると顔を覆うバンダナに、目の紋様が描かれている。たしか、ガイラの副将は耳の紋様だったはず...。
それにしても、気に入らない言動だった。
仮にも将が負傷して戦に出られないなどという自軍の内情をうっかり語ってしまう軽率さもさることながら、ケガした同僚に対しての悪口も聞いていて気持ちの良いものではない。
「ウガン、控えよ...! 力戦して負傷した方に何という言い草...!」
小さな娘が大きな斧を構え、ウガンと呼ばれた大男を叱咤する。
部下の非礼を詫びながらも、決して退いてくれるつもりなどはないらしい。
「わたしは、ザレルの水の将ソーニャ...!! 8年前に滅ぼされた祖国ツララスタン再興のため、はるばる厳寒の大地からやってきました...!」
土の将ガイラから聞いたというあたしたちの名(スティールはあいかわらずポン・コーツの偽名の方が伝わっていたらしいが)を呼びながら、不気味な音をたてて斧を旋回させている。
ソーニャが旋回させる斧が、あたしたちに向かってピタリと止まった時...、激戦の火ぶたが切られた...!!
***
正直、小柄な見た目のソーニャをなめていたところがあったのかもしれない...。
それにしても、なんという力...。
特に、ソーニャの口調が巻き舌になった時の一発の重さたるや...あたしの剛力をもってしても、とても耐えられるものではなかった...。
再びソーニャが巻き舌で斧を旋回させ始める...!!
「祖国ツララスタンの再興のためぇ~...。わたしは、わたしは...。戦い続けなけレば、いかんのです...!!」
せめて、クレアを...守らね...ば...。
ソーニャの振るった斧頭を、あたしの大剣が受け止めきれずにこめかみを強打する...。
視界が暗くなり、みんなの声が聞こえなくなった...。