BRAVELY DEFAULT BRILLIANT LIGHTS

REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[序章] 序-0

ブリリアントライツ

担当:スティール・フランクリン

俺が、クレアという娘の護衛に指名される前の晩...。

錬金の街ブラスは、北西からの突然の閃光に照らされ街中が大騒ぎ。
俺は、馴染みの屋台で一杯引っかけていたところ、北西の空が明るくなっていることに気づき、急いで学搭の大風車に登ってみたが、すでに光は消え去っていて漆黒の闇が広がるばかりだった。

それぞれが眠れぬ夜を明かし、人々は、日が昇ったころにようやく何が起きたのかを把握するも、それが一体何だったのかは誰もわからないでいた。

錬金の街ブラスの北東にそびえる、いわゆる『錬金のピラミッド』に複数の『光の球』が発生し、光の球によってピラミッドが大きくえぐられているという。

ゼミナールの生徒がピラミッドの調査に向かうので、護衛になってほしい...。
街の偉いさんからの直々の指名...というのがいろいろ気になりもしたが、報酬の良さがすべてを忘れさせた。

  ***

街の外、西門にもたれかかって待っていると、要警護対象と思しき娘が歩いてきた。
その歩みを観察してみると、持病や大きなケガをしたことはなく、学生という割にはフィールドワークもこなしているのがみてとれた。
やや右足に重心が傾いているのは所持している大きなカバンのせいか...。

錬金術師クレア...。
声をかけて名乗ってみても、視線を合わせてこない。
下役人から何を聞いたのか、あからさまに警戒しているようだった。

  ***

近くまできて眺める錬金のピラミッドの様子は、圧巻だった。
数千年前に建てられたといわれる屈折型のピラミッドに、目視できるだけで3つの大きなえぐれがあり、その表面はガラス化しているのがみてとれた。

傍らで深刻な表情を浮かべているクレアの気を紛らわせようと『血砂荒野』の言い伝えについて尋ねてみると、面白くもなんともない...おそらくは事実なのであろう学説を早口で返された。

それまでで一番長い会話に気恥ずかしくなったのか、学説を言い終わったクレアは、足早にピラミッドに向かって歩き出す。
錬金の街ブラス、そして錬金のピラミッドの周辺の地下は遺跡だらけで、砂に隠された
穴も少なくはない。

クレアは、俺たち盗掘ガイドが決して足を踏み入れない場所をずんずん歩いてゆき、そして砂に飲まれていった。

俺は、地上に露出した石柱にロープを投げてからめると、クレアに追いつき腕を掴む...!俺とクレアは、血砂に沈んでいった...。

  ***

舞い上がった赤い砂が徐々に晴れてゆく。
口の中に入り込んだ砂を吐き捨てて周囲を確認すると、クレアが足元でせき込んでいる。どうやら無事なようだ。

「あ、あれは...?」
クレアの視線の先には、まるで神殿への入り口のような横穴が見える。
今まで見たこともない様式の遺跡...。
それは俺にとっても同様だった。

突然、周囲が揺れ、地上から赤い砂がさらさらと落ちてくる。
地震か、それとも遺跡が崩落しかかっているのか...。
ここは一度引き揚げるべきか...護衛の俺の迷いをスルーするようにクレアが地下神殿の入り口に入ってゆく。

俺は、頭上に垂れ下がっているロープを一度見た。
この先のために回収することも考えたが、地上に戻るために必要そうだったのでそのままにすることにして、クレアを追った。

  ***

そこは、巨大な石柱が立ち並ぶ広間と広間が人の背丈ほどの高さの小さな回廊でつながるまさに神殿だった。

クレアは、カバンから小さな麻袋を取り出し、中から小さな硬貨状の光るものを手に取った。
それは? 俺の問いにクレアはヒカリゴケに漬けて乾かした軽石だと答え、地面にそっと置いた。
軽石は、ぼんやりとした光を発し、ある程度遠くからも視認できる。

迷宮で迷わないための印...。
クレアはそれを20個ほど持ってきたそうだ。

30歩ほどでひとつ置いたとして...迷宮探索には少し足りない気もしたが、クレアはそれを一度に探索できる限度と決めているらしい。
未知の迷宮の単独行を考えれば、堅実な線か...。

周囲を見回していたクレアが、神殿の中が地上のピラミッド内部とは明らかに違う様式の遺跡であることをつぶやき、俺も同意見だった。
錬金のピラミッド内部と比べて、もっと古い時代の遺跡のように思えた。

意外そうにしているクレアに俺は、(盗賊から足を洗った後の)現在の生業...盗掘の下見やら、見張り、怪しげな交渉人への協力を明かした上で、錬金のピラミッドには何度も行ったことがあることを伝えると、クレアは表情にかすかな侮蔑の色が浮かび身構える。

(よし、そのまま警戒を解かずに身構えていてくれよ...)
俺は、クレアに対して放つ威嚇の気を周囲に対しても広げる。

無数の小さな影が俺たちを囲んでいた。
地上では見たことのない醜悪な顔つきの魔物が、錆びた鉈や投げ斧などの粗末な武器を携えている。

魔物たちの叫び声を聞いて、クレアも状況を察したようだ。
堪え性のない個体が鉈を振りかぶると、周囲のものもそれに続いた。

  ***

ただの学生かと思っていたクレアが、なかなかどうして俺の予想以上の戦働きをみせた。おかげで、クレアの護衛に割く力を魔物に対して振るうことができる。

包囲の一角を破ることもしばしばあったが、すぐにそのほころびは埋められてしまう。
下等な思考しか持たぬ魔物に、包囲の輪を維持する作戦があるようには思えない。
単に、俺たちを包囲している魔物の数が多いだけか...。

...それにしてもきりがない。
せめて、護衛対象のクレアだけは守りきらないと...。

俺は、包囲の輪に飛び込んで派手に長剣を一閃してみたが、数匹が反応しただけで他はみなクレアの方に向かってゆく。
(しまった...!!)

身構えるクレアと、襲い掛かる魔物の群れの間に、誰かが飛び降りてきてうずくまる。
すっくと立ちあがったそいつは、大剣を構えるやいなや、突出してきた魔物を一閃して叫んだ。

「加勢するよ!!」

短い詠唱が止み、雷撃が魔物の群れの一角を崩す...!!
「奥からまだまだ来るぞ! 気を抜くな!」

俺と、大剣使い、雷撃使いの3人が、クレアを囲むようにして魔物に対峙する。
もう負ける気はしなかった。

  ***

いったいどのくらいの魔物を倒しただろう...。
気がつくと、周囲からあの醜悪な気配が消えていた。

クレアが、加勢に入ってくれた2人に丁寧に礼をする。
大剣使いの女は、俺たちがいう『錬金の街ブラス』を知らないようだった。

ブラスを知らないとは...、『新都』から来たのか、それとも『ザレル』から来たなんて言わないよな?
しかし、大剣使いの女は、からかってみせた俺のセリフの内容のすべてがわからないようだ...。

大剣使いの女は、ルクセンダルクの冒険家、サンドラ・カサンドラと名乗ったが、今度は俺たちが『ルクセンダルク』が理解できない。

もうひとりの雷撃使いは、魔法学者のルーファスといい、『エクシラント大陸』の『ウィズワルド』というところからやってきたという。

エクシラント大陸も、ウィズワルドという地名も聞いたことがなかった。

  ***

クレアは、光の球にえぐり取られた錬金のピラミッドの調査にやってきたことを伝えると、2人ともそのルクセンダルク、ウィズワルドという場所で光の球に包まれ、気がついたらピラミッドの球形にえぐられた瓦礫の中にたたずんでいたという。

2人は、ピラミッド内の通路を探索しながらさまよっていたところ、ここ地下神殿で魔物の群れと戦う俺たちの気配を感じ、駆けつけたのだという。

  ***

心強い助っ人が加わったことだし、もう少し神殿の奥まで調べようという俺の提言は、クレアによって却下された。

まだお宝にお目にかかっていない...思わず漏れた俺の本音を無視するように、クレアは目印の軽石が残りひとつになったことを探索限度とみて引き揚げるべきだと提言した。

サンディは、手持ちの武器が大剣一振りだけなことを不安視しており、ルーファスはずっと遺跡の中を歩きっぱなしで疲労困憊...2人とも撤退に賛成する。

ブラスの街までどのくらいかかるのか...サンドラの問いに「半日もかからねぇ」と答えた俺だったがそれは嘘だった。感覚では少なくともブラスを出立してから一昼夜は経っていた。

神殿は落盤に巻き込まれて落下してきている。
サンドラは、俺の小嘘を踏まえた上で、倍と見積もって1日はかかるとし、やはり現状でこれ以上探索を続けるのは危険だ...と、冒険家らしい堅実さを見せた。

「街で準備を調えたら探索を手伝ってやるからさ」
ふてくされた俺をなだめるようにサンドラがほほ笑んだ。

  ***

回収しなかったロープが役に立った。
わずかに届かない分は、サンドラが石柱を倒して足場を作り、4名それぞれにロープを登り、地上へと出る。

驚愕の光景が視界に飛び込んでくる...。
俺たちが見た錬金のピラミッドには3つのえぐれしかなかったのに、眼前のピラミッドには無数の...ざっと見ただけで十数個の...裏手にもあるのなら軽く20を超えるえぐれによって無残な姿をさらしている。

俺たちは、急いでブラスの街へと向かった。

  ***

街の様子を目の当たりにしたサンドラとルーファスであったが、やはり『錬金の街ブラス』のことは知らないようだった。

荒野のただ中にあってブラスの郭内は唯一水と緑がある。
サンドラたちが周囲を興味深そうに眺めていると、普段は温厚な下役人の叱声が響いてきた。

「ほら! 勝手に街を出歩いちゃいかんとあれほど...」
下役人は、誰何した集団の中にクレアと俺の姿を確認すると、ふと表情を和らげる。

事情を聞くと、クレアと俺が錬金のピラミッドの調査に向かった晩、数十もの光の球がピラミッドを襲ったのだという。

街の雰囲気がピリピリしているのはそれでか...俺の早とちりを無言で否定するかのように下役人は、すぐ近くの路地で言い争いをしている2人の方を見た。

ひとりはこの街の衛兵で俺もよく知っている。
もうひとりは...、鋭い目つきのまるで新都の銃士隊のような派手な装束の少年が、衛兵に向かって何かを叫んでいた。

どうやら衛兵は少年を居留地に押しとどめようとし、少年は街の中で自由にさせろと主張しているらしい。
気がつけば、街のいたるところで似たような言い争いが起きている。

下役人に説明を求めると、無数の光の球がピラミッドを襲った次の日に、あの少年をはじめ20数名が大挙して押し寄せたらしい。

治安の悪化を恐れた役人たちは、彼らを『来訪者』と呼び、街の裏手に用意した『居留地』に押し込めようとしている。

居留地とは、街の北側にある日当たりの悪い低地のことで、まっとうな者でそこに住もうとする者は誰もいない。

下役人が、サンドラとルーファスに目を留め、詮議しようとしかけたところに先の衛兵とは別の者から応援要請がかかる。
来訪者が街の外へと逃げ出したらしい。

「あたしたちも『来訪者』ってことかねぇ」
下役人が駆けてゆくのを眺めながら、サンドラがつぶやき、ルーファスもうなずく。

2人を役人に届け出て居留地に押し込める...ブラスの市民ならば、ごく当たり前の判断が脳裏に浮かばなかったわけでもなかろうが、クレアは毅然と答えた。

「装備を整えて、調査の続きに行きましょう。4人で...」

  ***

当面、探索の食料、各人の武具の購入...俺たちは、商人たちが集う街の中心部に向かった。

俺たちが出立した日にはなかった新しい店舗が目に留まった。
興味本位で入ってみると、カウンターの奥からエリンがクレアを出迎えた。

クレアとエリンは知り合いらしく、俺も広場で行商をしているエリンを見かけたことがある。

サンドラとルーファスは、口にこそ出してはいないがエリンの姿に驚きを見せていた。
エリンの背には、大きな羽が生えている。
いわゆる妖精族という種族らしいのだが、人付き合いもよく、街の人々に馴染んでいる。
後にサンドラもルーファスも、ブラスの街の異種族への寛容さを驚いていたが、街の顔役の姿を見れば、きっと混乱しながらも納得するだろう。

  ***

エリン商店では、冒険に役立つ雑貨から、特別な衣装の販売、それと『来訪者』の口利き業などにも手を広げるらしい。

来訪者は居留地に押し込めておけばよいという役人たちの考えに、街の顔役でもあるデバコフ教授が、登録制にしてブラスの住人に雇われた者は街の外にも出られるようにしてはどうか...と、管理したい役人側にとっても、自由に行動したいという来訪者にとっても都合がよいアイディアを出して承認された。

来訪者の中には腕利きもたくさんいるようで、冒険の護衛や傭兵としてうってつけだという。

俺たちは、開店記念フェアとかでいくつかの装備をプレゼントしてもらい、エリン商店を後にした。

  ***

エリン商店を出ると、日は西へと傾こうとしていた。
2人への街の案内や、土地柄の説明...いろいろとやるべきことはあったが、まずは今夜の宿を探してやらないといけない。

俺は、知り合いに今夜のねぐらを当たってやることにした。
素泊まりの安宿であることにルーファスは不満そうだったが、血砂荒野の夜の冷え込みがきついことなどを教えてやると大人しくなった。

クレアは自室があるらしい。
俺たちは、明日の出立を約束して、夕暮れの広場で別れた。