BRAVELY DEFAULT BRILLIANT LIGHTS
REPORT錬⾦ゼミ活動レポート
[序章] 序-13
厄介な季節
ニーザの街を発した援兵は、テロール将軍が直々に率いていた。
テロール将軍が、後方でただふんぞり返っているだけの将軍ではなく、前線で戦う将軍であることに軽い感動を覚えるとともに、微かな危うさを感じずにはいられなかった。
「ザレル兵に遭遇しても決して交戦などせぬように...。そういったはずだが...?」
腕を組んだ将軍の声は物静かだったが、額に浮かぶ青筋が将軍の苛立ちを物語っている。
何も答えられないクレア。
襲われたから反撃しただけだ...とでも言いたげなスティール。
勝てたのに何を怒っているのですか...と不満げなルーファス。
ただただほっとして呆けているイヴァール。
様々な思いが込められた沈黙を将軍の落ち着いた声が破った。
「まあ、よい。今夜は街の宿に泊まり、ブラスへの出立は明日にせよ」
「よいのですか?」
当然とばかりにニーザへ向かうあたしたちを見送る将軍に、側近が話しかける。
額から青筋が失せた将軍が、少しだけ嬉しげに答える。
「よい...。ザレルの部隊を相手に、戦わずに無傷で撤退するなど、彼らのような学生にできる芸当ではない。それどころか...」
将軍は、戦った上で援軍が急行するまで持ちこたえたあたしたちの戦いを大いに認めてくれているようだった。
「土の将...ザレルは、20年以上空位になっていた四将を復活させたか...」
厄介な...厄介な季節がやってきそうだのう...。
遠く東の空を見つめる将軍のまなざしは、険しいものに戻っていた...。
***
戦闘民族国家ザレル・ウルスの首都『大都(だいと)』の地下深くにある『繭の玉座』では、帰還したばかりの土の将ガイラが、『大神官』に復命していた。
着任早々、クランブルスの者と交戦にいたったガイラをたしなめる大神官。
しかし、ガイラはその戦いがいかに正々堂々としたよい戦いであったかを嬉々として語りだす。
業を煮やした大神官が、武人としてではなく一軍を率いる将としては、軽挙というものであろうと一喝するもガイラには響いていそうになかった。
***
ザレル王国の大王ザレル2世は、玉座に座ったまま繭につつまれて20年間眠ったまま...いまだ眠りから覚めていない。
ガイラは、地方反乱を鎮圧した武功をもって孝廉によって大王の妃候補に推挙された。
次の戦いを待ち望むガイラに、大神官は副将のサージをつけて下がらせた。
「21年前の...そして、太古の恨みを、ようやくに...」
繭の玉座に、大神官の低い笑い声が響き渡った...。
***
ニーザの城門を出ると、いきなり魔物の群れに襲われた。
難なく撃退し、街の衛兵とともに後始末をしているとクレアが寄ってきた。
「そういえば、2人は夕べ遅くまで将軍に呼ばれて何を話していたの...?」
あたしとスティールは宿で出された食事の後、将軍の幕舎に呼ばれ今回の旅で見たこと、感じたことを事細かに聴かれた。
心なしか、あたしには軍事的な観点、スティールには元盗賊の観点で見聞きしたことを聞きたがっているようで、途中からは酒も出された。
共和国軍に支給される、ただ強いだけの焼酎だったが、あたしたちの舌を滑らかにしたのは事実だろう。
天焦山脈を遠望し、南に転じてナメッタ村へ向かったものの、ナメッタ渓谷が謎の怪樹に封鎖されて行けなかったこと、土の将ガイラとの交戦にいたるやり取りなど、出された酒の分ぐらいは詳しく報告しておいた。
ルミナのこととかも?
不安そうにしているクレアに、そんな面倒なことするかよ...とスティールが笑う。
確かに、同行している仲間の中にさえ、ルミナの存在を疑っている者がいるのに、日々ザレルの侵攻に備えるという現実主義の将軍に説明するのは骨が折れることだろう(どうせ将軍に見せようとしてもルミナは姿を現さないだろうし...)。
***
昨夜泊まったニーザの宿もなかなか良い宿だったが、教授に書簡を届けるのを頼まれただけで、将軍の課題はなかったようだ。
帰りの食料も十分に支給してもらった。
あたしたちは、ブラスの街に向けて歩き出した。