BRAVELY DEFAULT BRILLIANT LIGHTS

REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[序章] 序-12

奇襲

担当:スティール・フランクリン

血砂に煙る地平線にニーザの街が見えてきた。
手持ちの食料はおよそ1日分...これだけみれば、なかなか計画通りの順調な旅だったということになる。

イヴァールがふと西の方を見て、クランブルスの『西海岸』、そして『新都』について説明をし始める。
西海岸とはいまだ緑がある豊かな大地らしいが、俺はまだ行ったことがない。
すると、得意げに説明しているイヴァールもまた、行ったことはないそうだ。

「留学したいとは常々思っているけどね」
なかなかに気に障るマウントを(おそらく無意識い)取りにくる小僧だ...。

「新都に留学...さすがはインテリ。伊達にいい年こいて半ズボンじゃねぇな...!」
ちなみに、ブラスの民で半ズボンなど履いている者はいない。
昼夜で気温の差が激しい血砂荒野には、半ズボンなどは不向きで、今回の旅の野営でもイヴァールは足に毛布を一枚余計に巻いていた。

さすがにムッとしたイヴァールは、半ズボンは新都で流行っている最新のファッションであること、イヴァールが留学したがっているのは、新都ではなく『機工島ゲレス』であることを強調した。

機工の街ゲレスか...。
たしか、あの野郎の義手を作った街だったな...。
思いがけず出てきた『ゲレス』の名に、今度は俺の方が黙ることになった。

『機工島ゲレス』は、ヴェルメリオ大陸の北東海上に浮かぶ島で、その中心都市『機工の街ゲレス』は、農機具から義手、兵器にいたるまで機械と分類されるものすべてを作り上げ、大陸で一番機工技術が発展しているといわれている。

  ***

「ま、まずいっ!!」
突然、これまで聞いたことのないサンディの叫びが辺りにこだまする。
同時に、東のそらに無数の矢が飛来するのが見えた...!!

「やべぇ!! みんな伏せろっ!!」
「散開っ!!」
サンディが大剣を旋回して、飛来する矢を弾き飛ばす。

ずいぶんと統制がとれている。賊なんかではない。
黒色に紫の差し色の鎧を着た兵士が数人で一組となり、一組ずつ時間差で矢をつがえては絶えず矢を放ってくる。

ザレル軍だ!!

みんなの間に戦慄が走ったが、慌てふためいているのはイヴァールだけのようだ。

「みんな、ニーザの街まで逃げるぞっ! 遅れんな...!」
サンディがしんがりを受け持ってくれて、大剣を旋回させている。

俺は、ザレル兵と逆方向に向かって駆け出し、そこではじめて包囲されいることに気づく...。

飛来する矢が止み、ひとりの女が数人の兵とともにこちらへやってくる。

「私は、ザレルの土の将ガイラ...!!」
俺より少し若そうな女は、サンディのものよりも大ぶりな大剣を背負い、俺たちをひとりひとり見定めている。

「どこの密偵だか知らないが、うろちょろと、いったい何を探っていたんだ?」
国境の街ニーザの近郊ということは、ザレルにとっても国境ということになり、そこをうろつく武装した集団は敵の密偵という感覚なのだろうか...。

「密偵なんかじゃありません...!」
クレアが馬鹿真面目に答える。

おい、黙ってろ...!
クレアを小声で制した俺は、見本としてガイラに名乗ってみせる。

「俺たちは、錬金の街ブラスの住民だ!!」
国境の街ニーザからだいぶ離れた街の住民といえば、敵の警戒も薄まるもの...その考えは見事にあっさりと外れた...。

「ブラスの民だって...!? ...ということは、私の旦那になるお方の仇ということか!!」
ここで合ったが百年目...いや、20...21年目...!!
ガイラという女はわけのわからないことを口にしながら、大剣を旋回し始める。

「いざ尋常に勝負!!」
激戦が始まった...

  ***

渾身の俺の一撃を、土の将ガイラは難なく大剣で弾き飛ばした...。
俺は、十分な間合いをとって息を吐く...。
額から大粒の汗落ちて、血砂を濡らしては消えてゆく。

土の将ガイラは少しだけ息を弾ませて大剣を構えている。
その横でひとりのザレル兵がうずくまって動かない。

俺たち4人も息は荒かったが、まだ戦えないことはない。
イヴァールは、戦闘の輪の外で腰を抜かしているが、他のザレル兵がイヴァールを襲う気配はなかった。

「ガイラ様、ニーザの街から土煙あり...! 敵の援兵かと思われます」
まだ戦えるもうひとりの部下が、俺たちに聞こえぬようにガイラに報告するが、俺もサンディもとうに気づいていることだった。

ルーファスに、当たらなくてもいいからとにかく雷撃の魔法を撃てと言っておいた。
それに将軍が気づいてくれたらしい。

あっさりと撤退を決めた土の将ガイラは、
「お前たち、名前は?」
...と、笑みを浮かべながら大剣を背負う。

俺は、敵兵に本名を名乗る愚を避けるため、ブラスの街の宣教師ワーレ・ポン・コーツと名乗った。それなのに...

クレアもサンディもルーファスも馬鹿正直に本当の名を名乗りやがる...。
ガイラは、イヴァールにだけは戦いに参加せず震えていた弱虫として名乗らせてもくれなかった。
なるほど、尚武の気風とやらを理解できたような気がした。

土の将ガイラは、俺たちの名前をしかと憶えた! いずれまた相まみえようぞ!! ...と颯爽と退却していった。

辺りの地面には無数の矢が突き刺さり、ザレル兵の死体も消えていた。