BRAVELY DEFAULT BRILLIANT LIGHTS

REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[序章] 序-11

怪樹の壁

担当:ルーファス

天焦山脈を遠望した地点から南に戻り、豆粒のようなニーザの街を西に見ながらさらに南へと進んだ。

いくつかの交易商や商隊や、遊牧民の集団とすれ違ったけれど、特に戦闘に及ぶことなどもなく平穏な道中だった。

ニーザの街から南、錬金の街ブラスから真東にあたる地点に来ると、もうニーザの街はまったく見えなくなり、周囲の地形がこれまでの平坦なものとは違って左右に赤い砂の壁が目立つようになる。
僕たちは、『南の大地溝』の北の先端部分に差し掛かっているらしい。

南の大地溝には、『ナメッタ』という風変わりな村があるそうで、そこが目的地となるのだそうだ。

  ***

『北の大地溝』に『南の大地溝』、大陸を分かつような大地溝は、いったいどのようにしてできたのだろう?

子どもの頃に聞かされたおとぎ話によれば...、とスティールが語りだし、クレアもイヴァールもうなずいて同意を示す。
どうやら、クランブルスでは有名なおとぎ話らしい。

南の大地溝は『巨人の一の矢』によって、北の大地溝は『巨人の二の矢』によって生まれた。
それは、錬金の都が隆盛を誇る遥か以前...超古代ともいえるほど昔のことなのだそうだ。
大地溝の中央には、巨大な矢のように見えるものが突き立っているそうで、南の大地溝に突き立っている巨人の一の矢は、南にある『ガーマ王国』のそのまた南にあるらしい。
この国の者で、実際に見たものはほとんどいないという。

ガーマ王国...たしか、スティールたちが『天衝山麓の戦い』を説明する時にちらっと出てきた国の名前だった。

錬金の街ブラスよりもずっと南にある小国で、南の大地溝の2筋の地溝をもって国境としている。
古くからクランブルスとは盟を結んでいて、ザレルとも一緒に戦った国だったけど、ある一件が元で今はあまり良い関係とはいえないのだという。

「まあ、おいおい説明することもあるだろうよ」
そうつぶやくスティールの...いや、僕が見るにイヴァールも、ガーマ王国に関してはあまり語りたがっていない感じがした。

  ***

突然大地が揺れ、僕たちをよろけさせる。
少し大きめの地震だったが、すぐに揺れは収まった。

北の大地溝も南の大地溝も、こういった地震があるたびに地溝の幅が広がって、地溝自身の長さも増しているという。

「そのうち大陸を両断してしまうんじゃないか...な~んて噂されていてな...」
戦闘民族国家ザレルとの国境線が狭まることになるクランブルス共和国にとっては好都合...と、おどけて語るスティールだったが、これから向かうナメッタ村にとっては災難だろうと眉をひそめた。

理解が追いつかない僕たちがどういうことか説明を求めると、スティールは地面に拾った小石で図を描いて詳しく説明してくれた。

ナメッタ村は、もともと南の大地溝のすぐそばにあった村だったが、大地震による大地溝の広がりによって、村があった地盤ごと地溝に落ち込んでしまった。
その際、地盤は斜めに傾いてしまい、建物も田畑もみな斜めになっていて、村に入ると首が痛くなるほどらしい。

スティールは、それこそできるだけ詳しく説明してくれたのだろうけど、現実に見ていない僕たちにはやはりピンとこない。
百聞は一見にしかず...僕たちは、さらに南へと進んだ。

  ***

大地溝の北端を南に進み、左右に崖が切り立ってくると、スティールが何かに気づき、うめき声のような声をあげた。

見ると、ナメッタ村に通じる『ナメッタ渓谷道』が鬱蒼とした樹木によって封鎖されている。

周りは『血砂荒野』と同質の赤土で、草木はほとんど生えていないのに、この隘路にだけは、巨大な樹木が異常に繁茂している...。

スティールもイヴァールもクレアも...血砂荒野に慣れ親しんでいる者にとっても、異様な光景らしい。

「ちょっとどいておくて...」
サンディが大剣を構え、樹木に一閃すると太い幹が両断された!
しかし、両断された箇所がみるみる再生して塞がり始める。

「よ~し、ここは僕の魔法で...」
雷撃で焼き尽くしてやろうかと詠唱を始めたところ、クレアに制止された。
増幅させた魔力が、行き場をなくして体中で暴れだし、思わず声が漏れる...。

「私の羽が反応しているわ...」
クレアがかかげたランタンの中で、あのルミナという錬金人形がつぶやく。
見れば、羽の右側にある紋様がかすかに瞬いているようだった。

(これも、クレアが錬金術で操っているというのか...?)
僕はこの時、このルミナというのは錬金人形なのではなく、本物の妖精なのでは? と思いかけていたが、イヴァールは未だに錬金人形と信じて疑わないようだった。

「この樹木の異常繁茂、そして、この奥の集落にも...これこそが、まさに四序の乱れよ...!」
ルミナの声に呼応するかのように、目の前の樹木が叫び声とともに襲い掛かってきた...!

  ***

怪樹の魔物を倒した後、クレアはルミナに『四序』の意味を問う。
賢者の間で、あの不思議な声の主も言っていた言葉...しかし、この場にいる誰もがその意味をわかっていない。

ルミナは、静かに語り始める。
「四序とは、4つの季節のこと。本来は、春・夏・秋・冬の4つの季節の巡りを指すの」別の言い方をすれば、世界の循環や調和ともいえるらしい。

「ザラール帝国が発祥した、遥か東方の思想に似たようなものがあったけど...」
イヴァールが何かを思い出したかのように手のひらを叩く。

「しかし、この世界に四季なんてどこにも存在しないじゃないか...!」
吐き捨てるようにつぶやくイヴァールにスティールもうなずく。
彼らの住む血砂荒野が、いかに住みにくい土地なのかを如実に証明していた。

「いいえ、四季のある緑豊かな世界は...」
遠慮がちに話すクレアを、ルミナが後押しする。

「古の時代、この地は四序が巡る豊穣の大地だったわ。あなたたちが血砂荒野と呼ぶ不毛の大地がすべて、一面の大草原だったなんて信じられる?」

ただのおとぎ話だ...イヴァール(いつの間にか錬金人形相手に言い合いをしている)に対し、四季があったことは、ブラスの地下から出土した文献、錬金のピラミッド内部に刻まれた文献が証明しているとクレアが指摘する。

大昔、世界は自然に溢れ、豊穣の大地だった。
デバコフ教授とクレアは、四季を、正しい循環をこの地に蘇らせるために錬金学を追求しているのだそうだ。

ライバル視しているクレアからの指摘にむきになったイヴァールが、再びルミナが錬金人形だ、自分を錬金学を布教するつもりだろうが騙されないぞと非難し始める。

「化学とは、存在を証明できないものは、存在自体を認めないという学問だから...」
これだけ見せつけられて認めないわけにはいかないだろう...。
考えをあらためた僕の姿をみて、スティールがニヤリとほほ笑み肩口をぽんと叩く。

「よし! とりあえず、こんなところで無限に生えてくる化け物樹木とやりあっててもしかたないだろう...」
いったん国境の街ニーザまで戻って、将軍に報告したらブラスへ帰り、賢者の間へ...。

僕たちは、ニーザの街へ向かって再び歩き出した。