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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[序章] 序-15

教授

担当:クレア

ブラスの街、広場横の路地裏で旅の荷物の整理をしていると、街の様子を見にいっていたスティールさんが戻ってきて嬉しそうに言った。

「街に戻ってきて早々、朗報だぜ」
スティールさんは街の人から、ついさっき地下神殿の入り口を塞いでいた瓦礫の撤去作業が終了したという情報を聞いたのだという。

「おい、聞いたか~...?」
スティールさんがさらにニヤニヤしながらランタンを小突く。
道中、私たちの行動を道草、道草と言い続けていたルミナに、神殿の入り口が開通したのはついさっき...つまり、早く帰ってきても待ちぼうけを食らうだけだけだったじゃないかと得意げに言い放つ。

ルミナは顔を真っ赤にしながら、早々に着工しておきながらずいぶん時間がかかったものだと復旧作業のせいにして乗り切ろうと必死にしていて、サンディさんとルーファスさんは、2人を見て、また始まったよ...とニヤニヤしている。

スティールさんが仕入れてきた情報によれば、復仇作業は予想以上に難航して、結局最後は現場監督のデバコフ教授が錬金術の力で瓦礫の山を泥水に変えて消し去ってしまったとのこと。

スティールさんとサンディさん、ルーファスさんは、錬金術のすごさを驚きの表情で語り合っていたけれど、私は複雑な気持ちでそれを見ていた。
そして、ランタンの中ではルミナがそれをじっと見つめていた...。

「なあクレア、お前もそんな技、使えるのかよ?」
スティールさんの問いに、私は戒めのためにいつも持ち歩いているひとかけらのミスリルを取り出した。
「教授は、特別なんです」

希少な鉱石ミスリル...。
スティールさんの目が一瞬輝いたけれど、サンディさんとルーファスは私の真意をはかりかねているようだった。

「私が8歳で錬金学を志し、14年かかってできるようになったのは...、このひとかけらのミスリルを錬成することぐらい...」
スティールさんは、私の明るくない表情をはらうかのように、それはそれで凄いことじゃないかと言ってくれた。しかし...

「このちっぽけなミスリルをひとつ錬成するのに、20倍の質量の黄金と、2日は起き上がれなくなる精神の消費が必要なんです」
...私の真意を知って何も言えなくなってしまった。

途方もない質量の瓦礫をすべて泥水に変えた教授は、いったい何を対価として差し出したのだろう...。

「錬金学は、決して万能なものではないんです」
ルーファスさんが、かすかにうなずいたように見えた。

  ***

旅の荷物をそれぞれのねぐらに置いてきた後、集合した私たちは、教授に会いに大講堂へと向かった。

そして今、私とスティールさんが予想したような沈黙が流れている。
サンディさんもスティールさんも、驚きのまなざしを遠慮がちに、口は半開き...。
少しだけ後ずさっているような姿勢をしている。

「まあ、ふつーはこういう反応になるわな...」
デバコフ教授は、いわゆる人の形をしていない...いや、厳密にいえば人ではない。
大陸ペンギンという、この大陸の南に生息する大型の歩行鳥類...いわゆるペンギンの姿をしている...のではなく、ペンギンそのものなのだ。

「お初にお目にかかりマス。私が、この錬金ゼミの教授、デバコフ デス」
ペンギンがしゃべった...2人はさらに後ずさる...。

教授は、2人の出身ルクセンダルクとエクシラント大陸について改めて質問した。
2つの世界については、教授もまったく知らない様子で、『来訪者』がその2つの世界の出身らしいということのみを理解しているようだった。

「クレア、お前はピラミッドの地下神殿でこの方々と出会い、何を見つけてきたというのカネ?」
私は、地下神殿で2人と出会ってから、賢者の間に到達して不思議な声を聞いたことまでを事細かに...なぜかルミナのことは除いて...説明した。

私の説明に教授は、腕(ヒレ?)を組んで、しばらく思案した後、その不思議な声が言った『賢者の間』が私が知るものと同じであったならば、この世界の荒廃を止める手立てが隠されているのかもしれない...と興奮気味に言った。

(世界の荒廃を止める手立てとは、ルミナのことだろうか...)
ルミナのことを思わず内緒にしてしまった後ろめたさも相まって、私は手立ての詳細を知りたがったが、教授にもそれはわからなかった。

ただし、数多の錬金学にまつわる文献には、幾度となく『賢者の間』が登場し、時に預言者に啓示を与えたり、求道者にとてつもない力を秘めた石を授けたり、土くれを黄金や人型の生き物に変える秘術をさずけたり...と、信ぴょう性に足るものやそうでないものが、それこそごちゃまぜになっているという。

  ***

ふと教授の目が、カバンにかけたランタンに移り、それを『賢者の間』への再調査に対する意欲と誤解したのか、興奮ぎみにしっぽをフリフリしている。
決してそういう意味でのランタンではなかったけれど、再調査の意欲に関しては間違っていないので、否定しかかった言葉を私は飲み込んだ。

「時にデバコフ教授...!」
我慢に我慢を重ねたルーファスさんが、とうとう口を開いた。

ルーファスさんは、自身が魔法学を志し、魔法学こそがこの世の理を解き明かす唯一無二の学問と信じて疑わぬことをとうとうと語り上げ、この街において錬金学の権威と呼ばれる教授の意見を賜りたい...と、最後はまるでディベートでも吹っ掛けるかのように迫った。

「いや、ダメでスネ」
教授は、その手のことは全部クレアに任せてありますからと、まったく受け付けない。
追いすがるルーファスさんの何倍もの速さで大講堂から立ち去ってしまう。
(大陸ペンギンの足の速さは、人間の約2倍といわれている)

諦めきれず教授を追って大講堂から出てゆくルーファスさん。
するとランタンが輝きだし、ルミナが姿を現す。

ルミナは知らない人をみるとすぐに隠れて出てこようとしない。
私って人見知りなのよね~などとごまかしているが、ルミナの姿が見えない人にとっては、ランタンの中には短い蝋燭しか見えないというから不思議な話だ。

私は、ルミナが言った『賢者の間』と教授が言った『賢者の間』が同じものかと問いただしてみたものの、ルミナにとってもそれはわからないらしい。

デバコフ教授もまた、賢者の間で聞いた不思議な声やルミナと似たようなことを言っていた。
教授の知識が、ひょっとしたらルミナのなくしている記憶を補ってくれるかもしれない。
私やスティールさんのことばを、ルミナは少し不満そうに聞いていた。

  ***

ルーファスさんが息を切らせながら再び大講堂にやってきて呆然とつぶやく。
「...ま、まかれた...。あの教授、恐ろしく足が速いぞ」

大陸ペンギンの足の速さは、人間の約2倍といわれている...。