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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[序章] 序-18

クレアのカバン

担当:ルーファス

僕たちは、ブラスの街で武具の補充と手入れを入念にし、10日分の食料を用意してブラスの街を出発した。
どうして10日分の食料なのか...その根拠は誰もわからなかった。
ルミナに聞いてもそんなのわからないの一点張り。
サンディやスティールのようなサバイバル巧者も、フィーリングだけで10日分と定めただけだったけど誰も反論しなかった。

  ***

街の近郊の血砂荒野で魔物に襲撃され、軽く撃退した後、地下神殿へ...。
地下神殿の入り口は、復仇作業の際に簡易的な石の階段が設けられており、ロープを垂らして手のひらの皮を破りながら降りてゆくような苦労をせずに済んで、僕のような決して体力に自信があるとはいえない学者にとって、とても有難かった。

スティールを先頭に、地下神殿を警戒しながら進む。
どのエリアが危険なのか、だいたいわかってきた僕たちの口数は自然と増えてゆく。

僕たちが提出した地下神殿の調査申請が、不安になるぐらい簡単に許可が下りた...。
みんなで知恵を振り絞って、出来の悪い調査提案書を先に出してあえて却下させて、次手で本命の地下神殿調査提案書を提出して通させる...などという小細工まで弄したというのに、デバコフ教授は最初の捨てプランの表紙を見ただけで許可してしまった。

「錬金学のゼミナールは、あんなユルユルな運営でいいのかい?」
クレアは、他のゼミと比べたことがないからわからないという。あるいは、役人に邪魔される前に教授が許可を出してくれたのか...。

先行するスティールは、神殿内の崩落の被害を確かめながら慎重に進む。
どうやら崩落は、神殿の入り口と『賢者の間』がある最下層だけだったらしく、ブラスの街を出発してからちょうど1日が経過したぐらいの地点で僕たちは最初の野営をすることにした。

  ***

巨大な石柱が立ち並ぶ天井が高い広間と広間の間にある通路のようなところ...襲撃される方向が絞られ、巨大な魔物が侵入できない場所に焚火を起こし、それぞれが持ってきた思い思いの弁当を開く...旅の初日だからこそできる贅沢でもある。

焚火の炎に照らされたスティールが、ジャムを忘れてきたと舌打ちをする。
『ブラスイチジク』の果肉を甘く煮詰めたジャム...屋台で売っているものを、買い忘れてきたらしい。

「マーマレードでよければ、持ってるわ」
クレアはそうつぶやくと、カバンの中から小瓶を取り出してスティールに手渡す。

食事の前に大剣のメンテナンスを始めたサンディが、砥石の予備を持っているかとスティールに尋ねた時も、「私持ってる」とすぐさま粗研ぎ用と仕上げ用の砥石をカバンから出して2人を驚かせていた。

「あ、ルーファスさん...」
スティールが僕に目で合図してくる。
僕は、できるだけ優しい表情を作って「そろそろ呼び捨てでいいよ」とクレアに伝え、スティールはぶっきらぼうに、サンディはほほ笑みながらそれに続く。

クレアがいつまでもさん付けしていたことに、僕たちはある種の距離を感じていて、たまたまいい機会だから言ってみたけど、クレアもまた距離を詰めたがっていたみたいだった。
おずおずと...顔を赤らめながら僕の名を呼び捨てにするクレア。

僕が昼間の戦闘で使って切らしていたエーテルを、クレアはカバンから出して手渡してくれる。

「お前さ、なんでもそのカバンに入ってるのな...」
スティールのつぶやきに、サンディも感心こめてうなずきを見せる。

なんでも...は大げさ。
何も持たずにいることが不安...心配性なだけ...。
クレアはそんなことを言いながらとても嬉しげにしていた。

「この干し肉は、エイゼンという国の熊の肉で作られたものだ」
食事を始めたサンディが、小さな布袋から干し肉を取り出しふるまった。

熊は、クランブルスの近郊には生息していないらしく、クレアなどはきょとんとしていたが、スティールは、噂程度...毛むくじゃらでバカでかい獣程度には知っているらしい。

「決して旨いもんじゃないが、腹持ちがいい」
そう言って手渡された熊肉の干物を頬張ったスティールは、多少の獣臭さはあるものの好みかもしれない...と表情を崩した。

「クレア、酒なんかは...さすがにねぇよな?」
少しおどけて聞いてみたスティールに、すかさず消毒用の焼酎ならある、とカバンをまさぐってみせるクレアに、一同、笑みをこぼさずにはいられなかった。
焚火の炎で照らされた地下神殿の小回廊に、僕たちの笑い声が響きわたる...。

  ***

「私にとってピラミッドは、まるで教科書のようなものだった...」
壁のレリーフの眺めていたクレアがぽつりとつぶやく。

錬金のピラミッドの内壁に刻まれた膨大な錬金学の文献...それらの多くが僕たちがやってきた『光の球』によってえぐり取られ、消失してしまった。

ルミナが姿を現し、錬金ピラミッドは、現在のようにブラスの街に付属する遺跡などでは決してなく、錬金のピラミッドこそが錬金の都を象徴する建物であったと語った。

ルミナは、ブラスがあった辺りは、太古には錬金の都に住まう王族の墓所があったのだといい、スティールはブラスの地下からおびただしいほどの副葬品が出土していたことを
思い出し、ルミナの言葉に同意を示す。

  ***

(あ、あれは...)
ふと焚火の炎で照らされる周りの景色を見て、僕は、この先に僕たち4人が出会った場所があることに気づく...。

まったく見知らぬ世界に放り出されて心細かったのは事実。
孤独には慣れているつもりだった。

元いたウィズワルドでも、同僚や上司、出会えば話す相手は何人かいた。
それでも僕は孤独だったと思う...。
たまたま魔物の群れに囲まれているクレアたちを見つけ、サンディと一緒に加勢に入り、以降の旅で僕は、孤独を感じることは一度もなかった。

少しだけうつむいていた僕を、スティールがまるでガキのようなからかい方をする。
クレアのやつ、本当に酒でも渡したんじゃなかろうか...と思えるほどに...。

お化けや幽霊が怖いだって?
まったくバカバカしい...!

「じゃあ、どうしたのよ...」
クレアの親身になって心配する瞳が僕の心をかき乱す。
君たち4人と出会って、僕は孤独を感じることなく充実した時間を過ごせているんだ...な~んて言えるわけがない...。

つい、この先が4人が出会った場所...つまり、その上層に僕がこの世界にやってきた光の球の痕へと続く回廊がある...なんて言ってしまった。

「...帰りたい?」
クレアの問いに、そんなことはない...と僕は答えたと思う。
サンディも、あたしもさ...とうなずきながら壁に立てかけてあった大剣をそっと手元に引き寄せた。
スティールを見ると、鋭い目でうなずき返しすっくと立ちあがる。

「さあ、おしゃべりタイムはおしまいだよ」
僕たちの賑やかな団欒が、神殿を蠢く魔物たちの気に障ったらしい。

僕は、雷撃を放つ呪文の詠唱を始め、ゆっくりと立ち上がった...。