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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[序章] 序-3

錬金の街ブラス

担当:サンドラ・カサンドラ

『錬金ゼミ活動レポート』ねぇ...。
冒険家として依頼の報告書なんかはさんざん書いてきたけど、こんな改まったものを書くのなんて、いつ以来だろうねぇ。

まあ、本来ならば『来訪者』として行動の制限を加えられるはずのあたしに、錬金ゼミに入れてもらって身分まで保証されてくれるっていうんだ...報告書ぐらい苦でも何でもないってもんさ。

クレア、スティール、ルーファス...ひょんなことで意気投合した仲間たちのことも、もっと知っておきたいしね。

  ***

「街の外を案内してほしい」
最初はスティールに個人的に頼んだことが、どうせルーファスにも案内しないといけない...そうなると3人だけで行ってはクレアが仲間外れにされたと思いやしないか...そんな、外見に似合わない細やかな配慮をみせて、スティールはクレアを迎えに行った。

最初、自室をノックしたスティールだったが留守のようで、階下の『錬金工房』を覗いてみたところ、目の下にクマを作ったクレアが大鍋の中身をかき混ぜている姿があったのだという。

どうやらクレアは錬金の研究で徹夜していたらしい。
気を使って誘うのをやめようとしたスティールに、半日もかけた実験が失敗に終わったことを告げ、クレアは洗面台に向かっていった。

錬金工房、大講堂、学食、自室、錬金のピラミッド...限られた行動範囲で日々を送るクレアにとって、自分とは生きる世界がまったく違うスティールの案内に、興味をもったらしい。

  ***

あたしたち4人は、南にある岩の高台に登ってブラスの街を見下ろした。
スティールには物好きだとからかわれたが、今後、自分の身を守る城になるかもしれないこの街の戦略的な穴を確認しておきたかった。

まるで荒野にたたずむひとつの城のようなたたずまい...。
スティールによれば、この国クランブルス共和国にとどまらず、周辺諸国の都市はみな壁を築きその内側で民が暮らす城塞都市であるという。

この国にとどまらず、周辺諸国の都市も城塞化されているということは、この辺りの戦は、線と線を争う戦ではなく、点と点の戦いということになる...。

  ***

錬金の街ブラスは、クランブルス共和国の都『新都』に次ぐ規模を誇るらしい。
『国境の街ニーザ』よりも大きく、歴史的には"遺跡の街"として、近年では錬金の街として栄えているのだという。

街の北西には、あの『錬金のピラミッド』がそびえている。
ピラミッド内部の其処かしこには、古代に栄えた錬金学にまつわる多くの文献が刻まれているらしく、クレアは研究のために毎週のように通っていたらしい。

クレアは研究のため、スティールはいわゆる盗掘の下見のため...2人ともまったく真逆の目的でピラミッド内部に精通している。

住む世界がまったく違う2人...なかなか興味深いコンビに目を細めていると、背後から異様な気配が迫ってきた。

甲高い大きな鳴き声に振り返ってみると、そこには巨大な赤い魔物がいた。
半身半馬...いや、半身半象とでもいうべきか...。
象と呼ばれる動物の下半身の上に、巨人の上半身、その上に象の頭がついている。

スティールによれば、昔この国を攻めてきた『ザレル』という国の軍隊が放っていった使役兵で、20年経った今でも時折現れては、誰彼構わず襲い掛かってくる厄介な存在だという。

赤い砂で構成されているようだ...あたしは、研ぎたての大剣の柄を握りしめた。

  ***

血砂の巨像兵...そう呼ばれた魔物を倒した後、あたしたちは街の東へと移動した。

先ほどから、砂に埋もれる矢じりや錆びた武具などが目についた。
外から眺める城壁にも大小無数の攻城兵器による傷跡がみてとれる...。
以前、この街は壮絶な戦いに巻き込まれた。
攻撃は街の東側に集中していたことを現していた。

スティールによれば、21年前『戦闘民族国家ザレル』の大軍が当時遺跡の街と呼ばれたこの街を急襲したのだという。

ザレル...前にも聞いたことがある国の名で、100年ほど前に大陸の東方に誕生した『ザラール帝国』から分派した国らしい。

スティールやクレアなどの若い者はともかく、21年前の戦を経験した街の老人たちなら皆詳しいことを知っているらしい。

興味があったら今度聞いてみるがいい...スティールの言葉に従って、街の老人から聞いたザレル、ならびにザラール帝国の成り立ちについては、レポートの終わりに記しておく。
  ***

22年前の『王都の戦い』、21年前の『ブラスの戦い』、20年前の『天衝山麓の戦い』...クランブルス共和国の民は、この3つの戦を総じて"20年前の大戦"と呼ぶようだ。

21年前の『ブラスの戦い』は悲惨なものだったらしい。
ザレルの猛攻によって街の守備兵は全滅。瞬く間に何か所もの城壁が破られ、人々が陥落、そして自分たちの死を覚悟したその時――。

たまたま街に滞在していた旅の錬金術師が錬金の力を駆使して城壁の破れをたちまち修復し、敵本営への集中攻撃を仕掛け、ついにはザレル軍を退けてしまったのだ。

その錬金術師こそが、デバコフ教授であるという。
大昔に廃れてしまった古の学問として、誰もが忘れかけていた錬金学が、奇跡の学問としてブラスの人々の記憶に焼きついた。
生き残った街の人々は、みな歓喜に打ち震え、侵略国家ザレル打倒を祈願するクランブルス王国の中枢は、錬金学への支援を約束した。

街の英雄デバコフは、錬金ゼミの教授に就任し、錬金の力でブラスの街を見事に復興する。
いつしかデバコフ教授は、街の顔役のような実力者になったのだという。
思いもかけぬデバコフ教授の偉業に、あたしもルーファスも開いた口が塞がらなかった。

◆街の老人から聴取したザラール帝国の成り立ちについて
今から120年前(クラム暦727年)、西方諸国の民が『ヴェルメリオ』と呼ぶこの大陸の東方にあった小国に、ひとりの英雄が誕生した。

名を『ザラール』といった。

苦難に満ちた幼少期を送ったザラールは、やがて立派な武人に成長し、周辺の部族を平らげ、麻のように乱れていた小国を統一した。

ザラールは妻を娶り、9人の子をなした。
ザラールの国は、周りの国々との戦に勝利し続ける。

クラム747年(ザラール元年)
壮年となったザラールは、隣接する大国を併呑して広大な国土を持つに至り、帝号を宣言し、ここに『ザラール帝国』が誕生する。

ザラール帝国誕生の数十年後、年老いたザラールは、万を超える諸将を前にこう宣言した。「4つの海を見に征こうではないか!!」

ザラール帝国は、四方へ進軍を開始し、大小100をゆうに超える国々を瞬く間に呑み込んでいった。

ザラール帝国は、史上もっとも特殊な集団として人々の記憶に残っている。

敵とみなした国を苛烈なまでに攻撃し、敗れた者には死か降るかの選択を迫る。
敵兵とはいえ、潔く戦って死んだ者には最上級の敬意を払い、降兵や降将、降った王族に対しての差別的な扱いなどすることもなく文化や制度を積極的に吸収してゆく。

はじめはただ精強なだけだった騎馬民族であったのが、多くの国を吸収してゆく中で、史上もっとも多様性に富んだ他民族帝国として発展していった。

クラム777年(ザラール31年)
英雄ザラールは、剣を握ったまま馬上で天に召された。
その遺志は、4人の息子に引き継がれるのであった。

長子ザールが統べる『ザール・ウルス』は北へ。
次子ザナが統べる『ザナ・ウルス』は南へ。
三男ザレルが統べる『ザレル・ウルス』は西へ。
末子が統べる『ザネル・ウルス』は東へ...。

※ウルスとは、国家を意味する。
※他の5人の子に関しては何も伝わっていない。

21年前に、ブラスの街を急襲したのは、英雄ザラールの三男が建てた国ザレル・ウルスで、初代大王ザレル1世の死後、その息子ザレル2世が跡を継いでヴェルメリオ大陸西方への侵攻を続けた。

クラム824年(ザラール78年)
若き大王ザレル2世に率いられたザレル軍は、当時のクランブルス王国の東辺に到達し侵攻を開始する。

翌年、ザレル軍はクランブルス王都に迫り、わずか数か月で陥落した。
今ではそこが、ザレル・ウルスの都『大都(だいと)』と呼ばれている。

クラム826年(ザラール80年)※今から21年前
当時遺跡の街と呼ばれていたブラスの街を、ザレル軍が急襲...。
大王ザレル2世の親征だったらしく、城壁は何か所も破られ、援軍も見込めない。
陥落も間もないと誰しもあきらめかけたその時...たまたま街に滞在していた旅の錬金術師が錬金の力を駆使して城壁の破れを修復し、敵本営への集中攻撃を仕掛け、ザレル軍を退けてしまった。

老人は、その後の『天衝山麓の戦い』についても教えてくれようとした。
22年前の『王都の戦い』、21年前の『ブラスの戦い』、そして20年前の『天衝山麓の戦い』...この3つの戦を覚えておけば、この国の現状を理解できるだろうとのこと。

興味はあったが、日が暮れだしたので『天衝山麓の戦い』に関してはまた後日に伺うことにして、老人に礼をして別れた。