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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[序章] 序-4

サソリの印

担当:サンドラ・カサンドラ

...なるほど、足元の砂に埋もれる矢玉は、ザレル軍のものであったか...。
よく見ると、錆びついた矢じりは、騎馬民族がよく使う多段貫通型の非常に強力なものだった。

騎馬民族が多用する矢じりに、まったく関係がなさそうな攻城兵器群...ザレルが降した国の文化を積極的に吸収するという逸話が現実のものとして見えた気がした。

21年前...。
そういえば、クレアとスティールの年のころと一致する。

少しだけ遠慮しながら尋ねてみると、クレアは22歳で、ブラスの戦いの時は1歳。
記憶に残っていないそうだ。

ブラスの戦いで両親は戦死して、戦災孤児として教授が建てた孤児院で育ったクレアは、8歳の時に錬金学を志し、教授の門を叩いたのだそうだ。

  ***

スティールは、ブラスの戦いの時は3歳。
しかし、この街にはいなかった。
クレアと同じ戦災孤児で、戦場で泣いていたところを、ある盗賊団の親方に拾われたのだという。
そこそこ過酷な少年期を送り、15歳の時、世話になった親方が殺害されて盗賊団は解散...。
一匹狼となったスティールは、各地を転々として数年前、錬金の街ブラスへと流れつき、盗賊稼業から足を洗ったんだそうだ。

クレアは驚きの表情で、ルーファスがいたずらな目でスティールを覗き込む。
クレアの直視を避けるようにスティールは、ルーファスのまなざしに噛みつく。
「んだよ! 洗ったんだよ...!」

盗賊から足は洗った。
しかし、盗掘の下見やガイド、怪しげな交渉人の助っ人、盗掘品の横流し、いわくつきの人物の護衛...盗賊に限りなく近い仕事を生業としているらしいのは、その言動や身のこなしで何となく見当がついた。

クレアがあたしの顔を仰ぎ見て、何かを期待している。
なんだか、自己紹介の場のようになってきて照れ臭かった。

  ***

年は27歳、
冒険家というか、自由戦士というか、傭兵というか...だいぶあやふやな説明にはなってしまったが、大剣ひとつで身を立てているというのだけは伝わったようだ。

スティールが、あたしの所作に由緒正しい感じがする...と、あたしがあやふやにしたかった部分を突いてきた。
「無骨か? 頑固そうか?」
そんなあたしの返しに、ここは突くべきではないと即座に判断したスティールは、笑いとして処理してくれる。
なかなか頭の回転が早いというか、抜け目ないというか...。

あたしの出身である『ルクセンダルク』は、やはり誰も知らなかった。
クレアが不思議そうな顔をしている。

曰く、「どうして世界に名前がついているのでしょう?」
いわれてみれば...確かにそうだ。
比べる同じようなものがない限り、ルクセンダルクのような名をつけるだろうか?
もしかして、昔は比べる別の世界でもあったのだろうか...。

  ***

スティールが顎でルーファスの身の上話をうながす。
あたしの出身地話に釣られてルーファスは出身大陸のエクシラント大陸について語りだすが、「年齢から、だろ? 流れ守れよ」と理不尽な(ルーファスはあたしが語った流れに乗っただけだし)指摘を受ける。

ルーファスの年齢は25歳で、スティールよりも年上をアピールするものの、会話の攻防というか組み立てというか、悪口や言い合いではスティールには適わないという流れが構築されつつある(ディベートが得意と言っていたはずなんだけどねぇ)。

ルーファスは、『エクシラント大陸』にある『魔法の国ウィズワルド』という国からやってきたらしい。
魔法学者をしていて、雷撃の呪文を得意とするとのこと。

やはり、ルーファスの出身地に聞き覚えはなかった。
スティールやクレアはルクセンダルクもエクシラント大陸も知らず、あたしはエクシラント大陸もこの世界ヴェルメリオ大陸もわからない。
ルーファスはその逆で、ルクセンダルクもヴェルメリオ大陸もわからない。

光の球によって人が異世界からやってくる...それは、あたしたち4人全員がピンときていない。

同じ『来訪者』なら、何かわかるかも...!
クレアの言葉を容れて、あたしたちはブラスの街へと帰ることにした。

  ***

何人かの来訪者に声をかけたスティールが戻ってくる。
どうやら来訪者は、みなルクセンダルクやエクシラント大陸...この2つの世界からやってきているらしい。

スティールが最後に話していた人の服装に、ルーファスは見覚えがあるという。
あたしもルクセンダルクで見かけた服装の者をこれまで何度も見かけている。

来訪者が光の球によって主に2つの世界からやってきたのはわかった。
しかし、それが何のため、どういった意味が込められているのかとなると皆目見当がつかない。

みなが同じ思いを共有したがゆえの沈黙が流れ、次いでその沈黙を破る叫びがとどろく。
  ***

交易商とおぼしき男が駆けこんできた。
街の近くで男が率いる商隊が賊に襲われたのだという。

スティールが賊の特徴を尋ねると、男が早口で答える。
頭目らしい男の左腕が、鋭い爪がついて義手であること。
右目にサソリの印の眼帯...

スティールの表情がみるみる変わってゆく...。

新都へ向かう荷を根こそぎ奪われてしまった。もう破産だと嘆く交易商であったが、スティールの耳には届いていない。

スティールは城門に向かって駆け出した。
今まであたしたちに見せたことのないような、とても危うい形相で...。
クレアが追いかけ、あたしたちもそれに続いた。

  ***

城門を出てしばらく賊を探していたスティールだったが、やがて立ち止まり自分の息がかなり弾んでいるのを感じていた。

クレアが息を切らせながら、次いであたしたちもスティールに追いつく。

いったいどうしちゃったんですか...クレアの問いに関係ない話だと聞く耳を持たないスティール。

「か、関係なくない!」
クレアの予想外の大声に、背を向けていたスティールは思わず振り返り、あたしも思わずルーファスと顔を見合わせる。

「私は、錬金ゼミの...きゅ、級長よ...!」
未だ息が整わないクレアが、必死にスティールの危うい暴走を止めようとしている。
級長だなんて自分では思ってもいない言葉を使ってまで...。

まずは詳しい事情を話しな...あたしも、へばりかけているルーファスもスティールに説明を求めた。

  ***

ぽつりぽつりと事情を話すスティール。
交易商の商隊を襲ったのは、『サソリ団』という盗賊団で、その頭目はかつてスティールの育ての親を殺害した仇なのだという。

そして...そいつは、スティールの兄貴分。
殺された親方...スティールの養父フランクリンの実の息子なのだという。

単なる仇ではない、あたしたちには介入し得ない何か複雑な事情があるのはわかった。
あたしたちの間で起きたほんのわずかの沈黙を感じたスティールは、無理に笑おうとして表情を歪ませた。

「同級生ごっこもここまでだ。俺はこれからサソリ団を追う...」
背を向けるスティールであったが、そんなことを許すあたしたちではない。

そんな勝手なこと認められます? 級長どの。
いいえ、認められません。
ルーファスもしたり顔で大きくうなずいている。

あたしたちの茶番を見るスティールは、困りながらもどこかほっとしているようだった。
しかし、その表情を一変させるできごとが起きる...。

逃げ惑う商隊の男。
そしてそれを追いかける、見るからにサソリ団と思しき男。

「身ぐるみ置いていきやがれ」
キメ台詞を言ってやったぜとばかりに得意げになる賊の眼前に、殺気を帯びたスティールが立ちはだかった...!!

  ***

ボコボコにされたサソリ団員は、"身ぐるみ置いていきやがれ"と対のセリフ、「く、くそっ!! おぼえていろよっ...!」を声を裏返らせながら発して逃げてゆく。

追いかけようとするスティールであったが、今度はあたしたちの制止に聞く耳を持てるぐらいの余裕はあるらしい。

食料も夜具もない状況で、たった一人で賊を追うのがいかに無謀か...。
クレアがいれば傷を回復してやれる。
あたしがいれば、敵の初太刀を受け止めみんなを守ってやれる。
ルーファスは、押し寄せる敵全体を雷撃で撃退できる。

3人がそれぞれ、自分の得意とする分野でスティールに協力したいと思っていた。
(この時点で、3人が一緒に行っても食料と夜具がない状態には代りないことなど誰も気づいていない)

ルミナはルミナでスティールの個人的な事情になどまったく興味をなさそうにしている。
  ***

「お~い、お~~~い!」
ブラスの街の方から甲高い声が響いてくる。イヴァールだった。

「ぼ、ボクもついてゆくよ!! 錬金ゼミにだけ手柄を立てさせるのはシャクだからね!」
即座に却下するスティールであったが、イヴァールは動じない。

「おや、いいのかい? ここに、5人分の野営道具と4日分の食料を持ってきているんだけどね~」

ほう、戦闘になってもまったく役に立ちそうになさそうな体つきをしているくせに、なかなか機転がきく小僧のようだ...。

イヴァールの参加を許すしかなくなったスティールが、イヴァールが持つ夜具のひとつをつかみ取ってずんずん歩き出す。

クレアも、あたしも、ルーファスも笑顔でそれにならう。
あたしたち5人は、サソリ団の本隊を追って、北東へと向かった。