BRAVELY DEFAULT BRILLIANT LIGHTS
REPORT錬⾦ゼミ活動レポート
[序章] 序-7
将軍
魔法学を志す僕が、なぜ錬金ゼミなどに籍を置き、しかも『錬金ゼミ活動レポート』の執筆にまで協力せねばならないのか...。
錬金ゼミに入るのがブラスの街での身分を保証してもらうための方便と理解していても、そこまで他の学問に協力をするのは、僕のプライドが許さなかった。...しかし、
「どうしても魔法学の見地からの意見がほしい」
みんなからここまで言われて執筆を拒否するほど僕は狭量でも意固地でもない。
ああ、いいとも!
僕のウィズワルド仕込みの魔法学をもって、錬金学などでは言及し得ない活動レポートを執筆してやろうではないか!
***
僕たち5人は、サソリ団の本隊を追って北東に向かっていた。
途中、いくつかの集団に遭遇し撃退するも、すべて末端の団員で、頭目の名を知らなかったりサソリ団の意匠すら身に着けていない者もいる始末だった。
たった今掴まえた賊も、スコーピオン・ビリー...サソリ団の頭目でスティールが追う仇の名を知らない、サソリ団に入ったばかりの者だという。
尋問しても何の情報も得られそうにない。
逃がした賊は、サソリ団の本隊が向かっていると思しき方向とは、まったく違う方向へと走り去った。
賊の本隊が東の国境線を越えようとしているのはわかっていたが、食料が残り1日分しか残っていない。
このまま敵の本隊を追うか、それともブラスの街に引き返すか...。
いずれにしても、食料は相当に節約しないといけない。
皆の間に、重苦しい沈黙が流れる。
***
ふと、サンディが北の方を見つめ、スティールもそれに続いた。
地平線に、小さく土煙が見える。
「2...いや、300ってところかねぇ」
300名もの集団がこちらに向かってくるのだという。サソリ団の本隊なのだろうか?
「ににに...、逃げようよ...!」
声を震わせたイヴァールが走りだそうとするが、サンディはすでに捕捉されていることを告げ、戦闘態勢をとるように指示をする。
戦闘準備...サンディとスティールが前面に、次いでクレア、僕、非戦闘員のイヴァールを最後尾に配置した陣形をとる。
***
土煙の接近とともに、押し寄せてくる集団の姿がはっきりと見えてきた。
ブラスの衛兵のような、揃いの鉄兜と胴丸を身に着けている。
「いたぞ~!! サソリ団の残党だ!!」
「せ、殲滅せよ~!!」
(あれ? 何か勘違いされてるんじゃない?)
話して通じる様子はまったくない。
前衛のサンディとスティールが、大きな揃いの舌打ちをした...。
***
大勢の鉄兜たちがうずくまっている。
サソリ団を追っているということは、どこかの衛兵か兵士だろう...。
スティールの指示通り、僕たちはだいぶ手加減して戦った。
死者はいないはずだ。
「鎮まれ~~い!!」
割れ鐘のような大音声が響き渡り、この場にいる全員が声の主の方を見る。
おびただしい勲章をつけて肩には金のモール。
見るからに階級が高い軍服を身にまとい、両腕・両足のみ鎧で覆われているという、歴戦のつわものといった風貌の大男が現れ、鋭いまなざしでこの場を支配しようとしている。
鉄兜の兵士のひとりは大男を将軍と呼び、僕たちをサソリ団の残党だと思い込んだまま負けた言い訳を言い募っている。
「錬金の街ブラス住人、錬金ゼミナールの生徒様ご一行だバカ野郎が」
品がよいとはいえないスティールの口上...ブラスの住人という部分に反応を示す将軍。
スティールの仇であるサソリ団の頭目を追っていたところ、将軍の配下の者たちにサソリ団の残党と勘違いされて襲われたことを説明すると、将軍は、腕を組んで言った。
「なるほど...、サソリ団の本隊が浮足立っていたのは、おぬしたちの追撃あってのものであったか...」
将軍は、視線を兵士たちの方に向け、賊と自国の民とを見誤った兵士たちに一喝し、下がらせた。
どうやら、彼らはこの国の兵士...クランブルス共和国軍兵士ということらしい。
将軍は、自身の名をコレス・テロールであることを告げ、部下の非礼を詫びた。
イヴァールによれば、"クランブルス最後の貴族と謳われし男"なのだそうだが、よくわからなかった。
将軍は、デバコフ教授と知り合いらしく、僕たちの賊討伐への協力についても後ほど書簡を届けてくれるという。
***
僕たちの南からの追撃と、将軍の西からの追撃によって、サソリ団の本隊は東へと逃げ去ったらしい。
功を焦った将軍の配下の何名かが、しんがりにいた義手の男によって打ち取られたといい、その義手の男こそスティールは仇としているスコーピオン・ビリーだという。
サソリ柄の眼帯、左腕に舶来ものの義手...スティールが語った特徴とも一致する。
***
将軍は、この場所から近い『国境の街ニーザ』で休んでゆくよういざなった。
残りの食料が乏しい僕たちに、断る理由はなかった。