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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[序章] 序-8

国境の街

担当:サンドラ・カサンドラ

「きょ、巨人...?」
将軍が指さす方を見て、あたしは思わずうめき声をあげてしまっていた。

ブラスの街よりも低い城壁だが、どこか裕福なイメージの都市部分。
その東側に、ゴーレムのような姿の巨大な像が建っている。
決して動き出しそうにはなかったが、両肩や脚部には巨大な砲塔がついて街の東側ににらみをきかせている。
よくみると巨大なゴーレム像の足元にも、同型の小さい(それでも人間の身の丈以上の)像が、横一線に等間隔で並んでいた。

「あれが、国境の街ニーザだ」
少しだけ得意げに話す将軍に。
スティールやイヴァールは知っていたらしく平然としているが、ルーファスもクレアも呆気にとられている。

日々研究三昧のクレアはニーザの街に来たことがなく、目の前に広がる光景を見るのは初めてらしく、スティールにからかわれると顔を赤らめていた。

  ***

『国境の街ニーザ』
東方から進行してくるであろうザレル軍に対して睨みをきかせる城塞都市とのことだったが、街の四方には赤い荒野が広がっている。
この巨大なゴーレム像があったとしても、たったひとつの城塞都市で東方から侵攻してくるザレル軍を防衛できるのだろうか...?

あたしの質問に将軍は満足げにほほ笑んでみせ、東の方を指さして言った。

この街の北には、大陸の北端から巨大な地溝、『北の大地溝』が伸びてきて、街の南にもまた大陸の南方から伸びる『南の大地溝』があるのだという。

つまりこのニーザは、北と南の大地溝に挟まれた、わずかな進軍ルート状にある都市で、将軍は防備を集中させているのだという。

「よくもまあ、こんなバカでかい像を街の前面にこしらえたもんだ...!」
明らかにバカにしているスティールに対しても将軍は得意げに答える。

「戦闘民族国家ザレルは昔から尚武の気風を貴ぶ戦闘国家...。これだけ勇壮な像が見えれば、敵の戦力はここに集中するというもの...」

なるほど、この像に集中してくる敵をゴーレムの砲塔で...いや...。
実際に寄ってこなくても、敵の兵士たちがこのゴーレム像に意識をしてもらうだけでも作戦的には御の字といったところか...。

あたしの読みを将軍はほめてくれたが、あまり快くは思っていなさそうだった。

  ***

ゴーレム像をしげしげと眺めていたルーファスが、像の材質について何か気づいたようだ。
土台の部分は、鉄骨や巨岩でできているのに対し、上部は木や革でできている、いわば巨大な張り子になっている。

大きくうなずいた将軍は、巨像に設置された砲台や銃器の最初の斉射まで、土台部分が敵の猛攻に耐えられればそれでよいと言い放つ。

...つまり、この街の主戦力は、崩れを見せた敵軍に襲い掛かる将軍が率いる精鋭部隊。あの巨像は、張り子で敵の目を惹く大掛かりなデコイに過ぎない。

「おい、そうあっさり見透かされると自信がなくなるではないか...」」
またしても種明かしを先にしてしまった形のあたしに、将軍は眉をつりあげる。

しかし、少数で多勢を防ぐにはこれ以上なく理にかなった陣容で、何よりこの陣容の良いところは、敵将がこの陣容の意図に気づいたとしても尚武の気風で育った敵兵ひとりひとりに対しておさえがきかせにくい点にある。

決しておべんちゃらなどではない、あたしの素直な考えを聞いた将軍は、少し自信を取り戻したのかゴーレム像を眺めて「この巨像を使った策が、20年前に確率されていれば...」と慨嘆した。
この慨嘆は、若き頃の将軍がこの地で口惜しい思いをしたことを示すのか...。
見たところ将軍は50歳前後...。
20年前といったら30歳前後といったところで、重要拠点を要塞化する権限を持つには若すぎる...。

「当時のワシに一軍を率いる権限があったなら...。この街もザレルに攻め込まれることもなく、かのランケード夫人も命を落とさずに済んだやもしれん」

前にスティールや街の老人から聞いた20面前の3大戦...22年前の『王都の戦い』、21年前の『ブラスの戦い』、そして20年前の『天衝山麓の戦い』...。
この『王都の戦い』と『ブラスの戦い』の間に、ここニーザもまたザレルに攻められ、陥落したのだろう...。

もしもこの街の要塞化が済んでいて将軍のような戦略眼をもった指揮官がいたならば、ニーザの街は陥落せず、翌年のブラスの戦いも起きずに済んだかもしれない。

「ボクや、クレアの両親も死なずに済んだかもしれないと?」
そうか...、イヴァールもまた21年前の戦災孤児だったのか...。
クレアもまなざしを落としている。

「ブラスがどうだったかは知らねぇが...」
暗くなりそうな雰囲気を嫌うように、スティールが大げさな声をあげる。

「あの悪名高きランケード夫人の末期は変わらないんじゃないのか?」

またしても出てくる"ランケード"という名前...。
イヴァールもまた大きくうなずいてスティールの言葉に応じる。

「ふっ、そうだね...。夫を裏切って王家の財宝を奪って逃げた強欲夫人...」
イヴァールに覇気が戻ったことを確認したスティールは、なおもまくしたてる。

「王と民を裏切った夫のランケード伯にもいえることだが、ああいった悪党どもには、思いっきり無様な最後を遂げてもらわないとな...」

2人の掛け合いをみて、ランケード伯とランケード夫人...ともに悪名が高く、あまりよい死に方をしなかったことや、それを国中の者たちに知れわたっていることが伺えた。

クレアとルーファスはよくわかっておらず顔を見合わせ、将軍は少し複雑そうに腕を組みうつむいている。

  ***

突然、魔物の鳴き声が響き渡る...!
将軍は、こんな街の近くまで魔物が湧くようになったかと苦虫をつぶし、あたしたちに撃退を命じた。

あたしらは、この街で休んでゆくようにと言われたはずだったんだけどねぇ...。