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綾辻行人氏は、’87年に『十角館の殺人』で
作家デビュー、“新本格ムーヴメント”の嚆矢となる。
’92年、『時計館の殺人』で第45回
日本推理作家協会賞を受賞。
“館シリーズ”と呼ばれる一連の長編は現代本格
ミステリを牽引し、累計500万部を超える
人気シリーズに。

そんな“新本格”ミステリの代表的存在ともいえる
綾辻行人氏に、
『春ゆきてレトロチカ』を最後まで
プレイ頂き、このゲームの感想、魅力、
そして“新本格”といえる作品であったか
について、
スペシャルインタビューとして特別にコメントを
お寄せ頂きました。

“新本格”ミステリと銘打ったゲームが
発表された時どう思われましたか?

 かれこれ30年以上も前のムーヴメントに使われた“新本格”という言葉が現在なお生きていること自体が、そもそも僕には何だか不思議に思えます。それが小説以外の創作物に冠されることも何だか不思議……というか、僕自身がずっと「新本格ミステリの旗手」と呼ばれつづけていただけに、ちょっと気恥ずかしかったりもしつつ。――なのですが、制作陣の“新本格”への想いを知るにつけ、やはりこれは嬉しい、たいへん喜ぶべきことであるなあ、と思いました。

実際このゲームを遊んでみて
いかがでしたか?

 こういったゲームをプレイするのはものすごく久しぶりだったのですが(Nintendo Switchに触れるのも初めてだったのですが)、始めてみるとすっかり没入して、えんえんと遊んでしまいました。とても楽しかったし、ミステリ作家としては良い刺激が得られました。

「春ゆきてレトロチカ」の魅力は
どこにあると思いますか?

 最大の魅力は、令和の現在と大正・昭和の時代を往き来する物語にある。僕はそう感じました。
 プレイヤーが知恵を絞って推理しないと物語が進展しない、というアドベンチャーゲームとしての面白さはもちろんあるのですが、物語自体に魅力がなければ「早く先を見たい」というモチベーションも高まりませんから。その点、この作品は「『不老の果実』を巡り時を超えて起きた4つの殺人事件」というコピーを見ただけでも想像力が掻き立てられ、わくわくしますね。
 全編が実写ドラマによって構成されているのも、やはり大きな魅力です。これは物語をよりリアルに体験できるという効用があるだけでなく、このゲームならではの仕掛けにも深く関係しているわけですが――。

綾辻先生から見て、
このゲームは“新本格”でしたか?

 ある意味、大いに“新本格”でしたね(笑)。これからプレイする人の楽しみを削ぐことになるので、ここではあまり具体的に語れませんが――。
 それがすなわち“新本格”的なのかどうかはさておき、少なくとも自分がミステリ作家として、ずっとこだわりつづけてきたことがあります。たとえばデビュー作の『十角館の殺人』では「小説」だからこそ可能な仕掛けを、たとえば有栖川有栖さんと共同で原作を担当したTVドラマ「安楽椅子探偵」シリーズでは「ドラマ」だからこそ可能な仕掛けを、たとえば佐々木倫子さんと共作した漫画『月館の殺人』では「漫画」だからこそ可能な仕掛けを……というふうに。それぞれの表現形式や媒体の特性をどのように利用するか、を考えてしまうわけです。
 それで云うと『春ゆきてレトロチカ』は、「実写ドラマを基軸にして作られた推理アドベンチャーゲーム」という形だからこそ最も効果的な仕掛け、に挑んだ作品でもありますね。そしてその試みは見事に成功している、と思います。感心しました。

プロフィール

  • 1960年生まれ。京都府出身。
    京都大学教育学部卒業、同大学院教育学研究科修了。
    大学院在学中の1987年に『十角館の殺人』でデビュー、
    “新本格ミステリ・ムーヴメント”の火付け役となる。
    『水車館の殺人』『迷路館の殺人』と続く
    「館」シリーズで人気を博す一方、
    ホラー小説にも意欲的に取り組む。
    1992年、『時計館の殺人』で第45回日本推理作家協会賞を受賞。
    2019年には第22回日本ミステリー文学大賞を受賞した。
    『緋色の囁き』『霧越邸殺人事件』
    『深泥丘奇談』『Another』など著書多数。
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