壊れた世界の虚ろな空を見上げて、光の戦士は「新世界」に思いを馳せる。
新しくリーダーを託した、あの少年の背中を想う。
「オニオンナイト」の称号を持つ少年。彼は自らが気づいていないだけで、光の戦士と同質の存在である。
クリスタルの光に導かれ、同じ「光の戦士」として戦った、意志がとても強い存在。その強き意志の源は、彼の内に秘めた意志、「内なる意志」にある。
「内なる意志」とは、自ら考え、局面を乗り切る力。もちろん他の戦士も持っているが、それとは根本的に異質なもの。多くの戦いの記憶を、ひとつに宿す意志だ。
光の戦士はこれまで、そのような存在は自分だけだと思っていた。
しかし、今は違う。オニオンナイトの称号を持つあの少年もまた「内なる意志」を秘めた存在だ。冒険を共にするなかで目の当たりにした、彼の冷静な洞察力、そしてかつての戦いでの姿が、光の戦士にそう教えている。
彼になら、自分が担っていたリーダーの役割を任せられる。
旧世界に闘争を封じ、「新世界」で皆が真の安息を手にするための旅をこなせるはず。
光の戦士はそう信じて託したし、彼と仲間たちを「新世界」に送り込んだことを後悔はしていない。
「(――たとえ、皆の記憶から私が消えていたとしても)」
闇のクリスタルコアが輝いたときに起きた「理の転換」は、世界の形を根本から作り変えるものだった。世界は神々の手を離れ、おそらくはこれまで神々の口からしか名前を聞けなかった存在、「クリスタルの願い」によって「新世界」が創造し直されたのだと、光の戦士は推測している。
「旧世界」に置き去りにした存在について、「新世界」に送られた戦士たちは覚えていない。それでも互いのことを忘れないように、光の戦士はその意志で守った。だが、旧世界に残った彼自身は違う。誰も彼のことを覚えていなくてもおかしくない。
ただ、あの少年は、きっと覚えているはずだ。
少年に宿る内なる意志は、物語のすべてを記憶するものだから。
旧世界の物語も、新世界の物語も、すべて彼のなかに残っているはずだ。
少年にとってはつらい旅になるかもしれない。仲間の中でただひとり、旧世界に残してきた光の戦士のことを覚えているのは、戸惑い、また悲しみの種となるかもしれない。
それでも乗り越えられると信じて、光の戦士は託す。そのときはきっと、「内なる意志」が力になるはずだ。