『ドラゴンクエストXI S』『ドラゴンクエスト』で見る「RPGあるある」な行動を専門家が解説!【ゲームの行動心理学】
2019.07.04
「主人公に名前をつけるゲームといえば?」といえば、まっさきに『ドラゴンクエスト(以後DQ)』を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか?人によっては「ラスボス攻略よりも、主人公の名付けのほうが悩ましい!」という人も...。なぜ人は主人公の名付けに必死になるのか?選択肢の選び方やゲーム内の買い物の仕方なども含めた「RPGあるある」な行動について、ゲーマーたちの心の謎を解く精神医学と心理学のプロに聞いてみました!
<お話をうかがった方>
■清水あやこさん
東京大学大学院臨床心理学コース修士課程修了。筑波大学大学院非常勤講師。認知行動療法の考えに基づいた3DRPGゲームアプリ「SPARX」を提供している株式会社「HIKARI Lab(ヒカリラボ)」の代表取締役。「気軽で簡単にできる心理ケア」をモットーに、臨床心理士によるオンラインビデオカウンセリングや、憂鬱な気分・ネガティブ思考、自信のなさに悩んでいる人を対象にしたゲームアプリなども開発している。
■鈴木航太さん
精神科単科病院などでの勤務を経て、平成28年4月より都内大学大学院博士課程所属。「HIKARI Lab」では精神科専門医として精神医学の立場からアドバイスを行なっている。
「主人公の名付け」に隠されている心理とは
主人公の名付けはゲームに欠かせない最初の一歩であり、最後までゲーム内で展開されるストーリーの中核となるキーワードです。自分の本名、ニックネーム、好きなキャラの名前、ちょっととぼけた名前、かっこよさ重視の名前...など。そこにはプレーヤーごとにさまざまなパターンがあり、タイトルへの思い入れなども垣間見ることができます。
▲昔は4文字しか入らなかったから、かなり悩みましたよね。『ドラゴンクエストXI』は6文字入る親切設計
まず名付けに悩んでしまう人、悩まない人といますが、その違いは何でしょうか? 行動心理学の専門家に聞いてみましょう!
――名付けの時の心理や行動って、プロの目から見るとどういう状態なんでしょうか?
鈴木:自分で名前を決めるというのは、選択肢で名前を選ぶよりも自由度が高い選択行動ですよね。見方を変えれば実は、ユーザーにとってはストレスがかかる状態に置かれていると言えるでしょう。
――そんなストレス状態のときに、ゲーム内で「自分の名前(プレーヤー本人の名前)」を入力するという場合、どういった心理が働いているでしょうか?
清水:ひとつには、選択肢が多くて高くなっているストレス状態を、少しでも軽減するために本名を入れるという心理が働いている可能性があります。「考えることの少ない、楽な手段を選んだ」と言えそうです。もうひとつの考え方は「自分のありのままでもヒーローになりうるんだ」というプレーヤーの自信や意思の強さの現れでもあると言えるでしょう。自分自身が投影できるので「自分がヒーローになれる」感覚を、第三者の名前にしたときよりも得られるでしょうね。その感覚が得たくて本名をつける方もいると思いますね。よりゲームの世界に入り込みたい時は本名がオススメです。
――「別の作品やストーリーのキャラクターの名前」を付ける場合は?
清水:別の作品やストーリーの、特にヒーロー性が強いキャラクターの名前をつける方には、今回プレイするゲーム内におけるプレーヤーのヒーロー性をより強くしたいといった心理が見えてきますね。あえて他の物語で確立されたヒーロー性の強いキャラクターの名前を使うことで、プレーヤー自身の潜在的に持っている力を引き出す支援効果、いわゆる「エンパワーメント(empowerment)」が強化されると言えるのかもしれません。
▲お気に入りのスーパーヒーローの名前をつければ、プレーヤー自身にも気合が入るってことらしい。
鈴木:僕の実体験からしても、ヒーローの名前をつけることは多少なりともプレイに影響してくると思います。この名前のキャラクターだったら、「ピンチの時もガンガン行くはず!」といったイメージが湧いてそんなプレイになる。自分の名前だと「僕はちょっと保守的だからまた出直そう」となることもあるのではないでしょうか。
清水:キャラクター性が強い名前によってプレーヤーの行動が変わってくることは、心理学的に見れば「投影(Psychological projection)」と言えますね。
鈴木:DQシリーズの特徴である、主人公の名前を自由に決められるというゲームデザインは、自分自身にしろ、キャラにしろ、投影がしやすいように設計されているのかなと思います。
「あまのじゃく」な選択肢を選んでしまう原因は?
――名付けが「自由度の高い選択」という話が出ましたが、ストーリー進行上たまに挿入される単純な「はい」「いいえ」という選択肢に直面時にも何かありそうです。質問の中で、明らかに「はい」を選ぶべきなんだろうな...「いいえ」を選ぶとループしそうだな...というところであえて「いいえ」を選んでしまうという人もいます。こうしてわざわざ素直ではない選択肢を選んでしまう心理は何なのでしょう?
▲こちらが折れるまで諦めないファーリス王子。このシーンはわざと「いいえ」を選んで繰り返し観てしまったという人も。
鈴木:このような何かを決めなければならない時には、自分の心構えが行動に現れます。「ここは素直な答えを選んで、寄り道をしないで先に進もう!」という"守りの姿勢"でいくのか? または、「この答えを選んだらどんなことが起こるのか知りたい!」という"攻めの姿勢"でいくのか?どんな姿勢でゲームを楽しむかは、プレーヤー本人の現実世界での生活の影響が反映されている可能性が考えられますね。
清水:たとえば現実世界でストレスを受けたときに、立ち向かったり、逆らってしまったりしがちな人は、ゲーム内でも予想できるストーリーの流れに沿わない、いわゆる「あまのじゃく」な選択をしてしまうかもしれません。「従ったほうがいいとわかっているけど逆らってみたくなる」、「不利になることがわかっているのに選択してしまう」という心理状況もあるのです。特にゲームの中での失敗は現実世界に影響を与えることは少ないのでこのような行動が起こりやすいでしょう。このように安全な環境下でリスクをとることを心理学の専門用語では「行動賦活系(こうどうふかつけい)」といいます。より深く知りたい方は調べてみてくださいね。
他にも主人公の名前や、直前のゲーム内容によるかもしれませんが、現実世界の状況や、自分の性格に起因するところも多いですね。
――プレーヤーのリアルな体験や性格が、ゲームでの選択に影響を与えるのですね。これは、武器防具の買い方なども影響しそうですね。
鈴木:ゲーム内で買い物をすることに関しても性格が影響していますね。慎重な性格の方や、不安になりやすい性格の方の場合、もしもの時に備えて防具、そして武器を揃え、下準備を完璧にしてから先に進むでしょう。
逆に危険を顧みない性格ならば、今あるゴールドで買えるものだけ買って先に進むでしょう。こうしたゲームの進め方を想像してみると、改めて自分の性格もわかってくるのかもしれませんね。
ゲーム内での行動って、一生変わらないものなんですか?
――ゲーム内での行動には現実世界の環境や性格も関係しているのはわかりました。しかし、この「性格」というのは、どう決定されるのでしょうか?
鈴木:性格は「nature and nurture(生まれと育ち)」と言われ、ある程度生まれながらによる性格もあり、またその後どういう人物や関係性の中で育ったかによっても変わってきます。性格とは、その両方に影響されるものです。
▲精神科医の鈴木さんは「ドラクエ大好き!」とのこと。そんな人に看てもらいたい
――性格ってそう簡単に変わらないですし、ゲーム内での行動って、一生変わらないものなのでしょうか?
清水:「生まれ」では双子でもお互いの性格が違うことがありますが、「育ち」の面で言えば、周りの環境へ適応するためにその性格になったと言えるので、ベースの性格というのは変わりづらいですね。とは言え、学生から社会人になるなど、環境が大きく変わる中では、自分の性格傾向を認識して感情をコントロールしたり、性格をプラスαで修飾していったりすることもあると思います。そんなときにはゲーム内の行動も変わるでしょうね。
何度でも失敗できるゲームで、チャレンジ精神を養おう!
――普段は心理や性格など考えずにゲームを遊んで一喜一憂しているのですが、その最中に私たちの心は何かしらの影響を受けているのでしょうか?
鈴木:僕は、ゲームをプレイすることで、心の「レジリエンス(resilience)=弾性力」が高まると思っているのです。これは柔らかいボールを押すことで、跳ね返ってくる。といったイメージを思い描いてもらうとわかりやすいと思います。ストレスが加わっても心が押し返せる状態、これが「レジリエンスが高い」状態です。
たとえばゲームでは、ボスがすごく強くても、頑張って倒せばシナリオが続いたり、報酬がもらえたりするので何度も挑戦しようと思いますよね。こうやってストレスと報酬とのバランスが保たれているからこそ、プレイしたくなるのです。これが、辛いことにも立ち向かおう! という心を養うのにちょっと役立つのではないかと思っています。現実世界でもそれはできるのですが、ゲームという違うフィールドである事に意味があるんです。
▲経験値をたっぷりくれる「逃げ足のはやいアイツ」があらわれた!攻撃を仕掛ける間もなく、逃げられてしまう...なんてことも。
――現実と違う世界で心のレジリエンスを鍛えることの意味とは?
鈴木:現実だと辛いことの後に、また辛いことがある...。ということもありますよね。でも、ゲームならストレスの後にきちんと報酬が用意されています。この失敗から学ぶという体験が、チャレンジ精神を養うことに少し役立つのではないかなと思うのです。
▲メタルキングに会心の一撃を決められたら爽快だ!メンバーが何人もレベルアップするのも、特別な報酬のひとつかも。
清水:仮想世界での出来事なので、ゲームで惨敗したとしても現実世界に影響がないという安心感もあります。普段の性格では、なかなかできない事や気持ちにチャレンジしやすい環境なので、レジリエンスを高める良い場であるのかなと思いますね。
▲全滅したときこそ冷静に。ゴールドを減らし再チャレンジするか、冒険の書の記録まで戻るのか、これも性格がでるかも。
――仮想世界だからこそ、いつものルールと違うことにチャレンジできるというわけですね。
▲所持金すべてをカジノでBETできるのもゲームならでは!現実世界に冒険の書があれば...と何度思ったことか!?
鈴木:はい、そうして世界を救うという非日常体験に触れることで、「自分って意外とこうなんだ」といった自分の新たな側面に気がつくこともあると思うのです。そうした体験も、ゲームをプレイする上で大事にしてもらいたいですね。
清水:ゲームというのは、自分の行動を客観的に見られる。という意味でも、よいツールなのかなと思います。
普段何気なく付けている名前や、選んでいる選択肢。しかし、こうして専門的な見地から分析すると、そこにはプレーヤーの心理や性格が反映されていて、自分の新たな一面が見え隠れすることもあるのです。
そう、ゲームをするということは、より深く自分を知るチャンスであり、非日常の中でリアルとは違う性格体験を楽しめるという、まさに「あなたの冒険」の始まりなのです。
2019年9月27日(金)より『ドラゴンクエスト』シリーズ最新作『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて S』がNintendo Switch™で発売!外出先でも自宅でもプレイできることと、キャラクターボイスが追加されるのが大きな特徴。よりDQの楽しさにハマれる要素が増えました!
どんなプレイをするか?はさておき、まずは名前だけでも考えておくといいかもしれません。
おきなさい おきなさい わたしのかわいい「******」や...。
続きは、これから始まる、冒険の旅で!
(終)
TEXT:小暮ひさのり
撮影:井川 拓也
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