作家・夢枕獏先生に聞く。技とアイデアの閃き。そして「サガ」シリーズの奥深さ【サガ シリーズ】
2020.07.31
本記事に掲載されている画像はすべて Nintendo Switch™版『ロマンシング サガ3』のものを使用しています。
みなさんは「サガ」シリーズをご存知ですか? 「サガ」シリーズとは1989年12月にゲームボーイ初のRPGとして発売された『魔界塔士サ・ガ』を筆頭に、30年以上にわたって多くの方に愛され続けているロールプレイングゲームシリーズの総称。 Nintendo Switch™やPlaystation®4、その他多くのプラットフォームでリマスター版『ロマンシング サガ2』『ロマンシング サガ3』や、『サガ スカーレット グレイス 緋色の野望』が好評発売中です。
「サガ」シリーズでは、キャラクターが戦闘中に新しく技を閃きます。レベルアップではなく、閃くことで技を覚えるのが、このRPGシリーズの醍醐味のひとつ。
しかし、ひとつ気になるところも。ゲームの世界はいざしれず、リアルな格闘技や武術の試合でも、選手や武術家が新しい技を閃くなんてことがあり得るのでしょうか?
そこで大のプロレス・格闘技ファンとして知られる作家・夢枕獏先生に、その疑問をぶつけてみました。『陰陽師』『キマイラ』『餓狼伝』etcーー数々のヒット作を世に送り出してきた夢枕先生の"アイデア閃き術"についてのお話まで聞きながら、「サガ」の真髄に迫る! そんなコラボレーション企画が実現しました。
夢枕 獏(ゆめまくら・ばく)
柔道の父・嘉納治五郎は"技の閃き"も冴えていた?
「格闘家が技を閃く? あると思いますよ、もちろん! むしろ、すべての技は『閃いて存在している』と言っても過言ではないでしょうね。閃かないと新しい技は誕生しませんから」
開口一番、「技の閃き」について力強いコメントをくれた夢枕先生。あるんですね、やっぱり。これで疑問は解決です。ただ、そう聞くともっと知りたくなるのが人情というもの。 具体的には、いつ、どこで、どんなふうに技は閃くのでしょう? さらにつっこんで聞いてみたところーー
「戦いの最中なのか、寝ているときなのか(笑)。いろんなケースがあると思うんですけど、実際には稽古しているときが多いんじゃないでしょうか。
たとえば、こんな話があるんです。嘉納治五郎という先生をご存知ですか? "柔道の父"と言われる偉人ですが、治五郎は若い頃、上野にある永昌寺というお寺で、弟子たちに稽古をつけながら様々な技を編み出しています。
『お前、この技が来たらどう受ける?』『それなら先生、こう受けますよ』といった弟子たちとのやり取りの中で、新しい技を閃いてはそれを磨いて、古流柔術に取り入れていきました。そこから始まったのが講道館柔道です。明治15年のことなんですけど」
▲『ロマンシング サガ3』の戦闘シーンより。新しい技を閃くと頭上に電球がともる。陣形やチームプレイによってもバトルに変化が
稽古中に閃くケースが多いという話はうなづけますね。
ちなみに「サガ」シリーズでは、柔道で有名な「空気投げ」という技が、キャラクターの閃きによってプロレスの「ジャイアントスイング」へと進化します。つまり日本の柔道技から、突如アメリカのプロレス技を閃く。まるで異種格闘技のようですが、こんな劇的な閃きもありえるのでしょうか?
無茶振りとも思えるこの質問にも、夢枕先生は動じることなく、こう答えてくれました。
「空気投げというのは、柔道家の三船久蔵先生が得意にしていた技で、別名を『隅落(すみおとし)』と言います。本当に身が軽くて、相手のバランスを崩すのが上手な人じゃないとできない技ですね。一方で、ジャイアントスイングは相手の両足を抱えて振り回す力技。そのギャップを考えると、空気投げからジャイアントスイングへの進化は唐突な印象もある。
ただ、柔道からレスリングの技を閃く、あるいはその逆はないわけではないんです。さっきの嘉納治五郎も、レスリングの技を柔道に取り入れてましたから。一例を挙げると柔道の『肩車』という技は、レスリングの技をヒントにしたんじゃないか? という説があるくらいです。
まあ、これには諸説あってはっきりしたことはわからない。でも、治五郎がレスリングに強い関心を寄せ、影響を受けていたのは間違いありません。いまで言うなら彼は東大卒(当時は官立東京開成学校)のインテリで、英語の翻訳をしながら弟子たちを食べさせていたような人ですから。レスリングだけでなく、西洋のスポーツ全般に造詣が深い」
閃きを重ねながら強くなり、新たな技と知識を身につけながら成長していく。その醍醐味は「サガ」シリーズでも堪能していただけます!
小説も格闘技もロマサガも、閃きがあるから面白い!
▲「サガ」シリーズの技の例。大剣・斧・棍棒・槍・弓・体術など数多くの技を閃く
体術のほか、剣や斧に棍棒、槍、弓など様々な武器・アイテムを使った数多くの技を楽しめるのが、「サガ」シリーズのバトルの魅力。
その中には「みね打ち」や「無刀取り」(ともに大剣で使える技)といった実在の技を取り入れたものもありますが、「活殺重力波」(棍棒)や「双龍破」(槍)、「瞬速の矢」(弓)など、「サガ」シリーズオリジナルの技もたくさんあります。
キャラクターによって閃く技が異なったり、特定の技や特定の武器を使うことでのみ閃く技があったりするのも「サガ」シリーズならではの奥深さと言えるでしょう。
多くのファンタジー大河小説や格闘技小説のヒットを世に送り出してきた夢枕先生も、作中にみずから「閃いた!」様々なオリジナル技を登場させています。それらの創作技についてもうかがってみたところーー
「僕が書くものはフィクションですから、試合では使えない技も結構つくってきましたね。自分でも『よく思いつけたな』と思うものをいくつか挙げると...、そうですね、『蝉丸』と『虎王』、あと『雛落とし』っていうのもあります。
『蝉丸』と言うのは、格闘技でおなじみの『三角絞め』と『飛びつき逆十字固め』を組み合わせたような技。相手に飛びついていき、倒れたときにはもう『三角絞め』が決まっているという。これは『蝉丸』という技のネーミングを最初に思いついたんです。その後、蝉が木の幹にしがみついているイメージから発想をふくらませて、古流柔術の技として作品に登場させました。
『虎王』は打撃技が終わった瞬間に『肩固め』という関節技に入るものなんですけど、これなんて実戦で使うのは不可能でしょう。でも、小説ならオーケーだと(笑)。『雛落とし』はコワい技ですね。あと『仰月』や『千鳥』なんて技もある。もう山のように考えてきましたよ。
ポイントは、キレイな名前やカワイイ名前にすることですね。そのほうが読者がコワがってくれそうな気がします。ブッチャーの『地獄突き』なんてプロレスだからアリなんですね。リアル格闘技だと印象はコワそうですけど、それっていかにもなネーミングであって、逆にコワさが伝わらないんじゃないかと」
▲夢枕獏氏による作品の一部。夢枕先生の"技"が詰まった『キマイラ』シリーズは40年以上にわたって連載が続いている
ひとつの「技の閃き」にかける作家のこだわりが伝わってくるエピソードです。ちなみに「サガ」シリーズの技も開発チームのこだわりが大集合。
技のネーミングもユニークです。「五月雨斬り」「影殺し」「乱れ雪月花」など、どことなく風流なものから、「ファイナルレター」「ナースヒール」「ジェントルタッチ」といったカタカナ名まで、技のネーミングを見ているだけで「どんな技なんだろう?」と興味がわいてきます。
ところで気になるのは、こういった創作のアイデアはどうやれば閃くのだろう? ということ。夢枕先生のアイデア閃き術のお話も聞いてみました。
「それはね、シンプルな話なんです。ひたすら一生懸命考えるしかない。いいアイデアって、偶然を待ってると絶対降りてこないですから。真剣に考えて資料を読んだりいろんなことをしながら、必死に考えてると"神を生む力"が出てくることがあるんです。そのためには『脳が鼻から垂れるまで考える』必要があるんですけど。
あと、多少は縛りがあったほうがアイデアは出やすいですね。具体的に言うと、『作品にすごく身の軽い忍者オタクの男を出してほしい』と編集者に言われたとか。そういった縛りがあると、『そのキャラクターだったらどういう技を使うだろう?』という流れで考えていける。その意味では、締め切りも一種の"縛り"なんですね。締め切りがないとアイデアは出ません。
それに加えて、やっぱりいろんなことを知ってないとダメでしょうね。自分の中に雑学がストックされてないと。空気中にあるちっちゃな水蒸気が凝固して雨粒になるように、いろんな知識の微粒子が脳の中に浮いていて初めてアイデアの結晶になるんだろうと思います。
でも、結局のところ大切なのは"欲望"ですよ。安倍晴明を主人公にした小説(陰陽師)を書きたい! とかね。その欲望がなければ、アイデアを閃く必要もないわけですから」
「書きたい!」と思うからアイデアが湧いてくる。それは仕事や趣味を問わず、あらゆるジャンルに当てはまりそうなこと。格闘技でもゲームでも、「勝ちたい」とか「クリアしたい」という欲がなければ、上達はしないでしょう。
「僕が格闘技を好きなのは、創作の世界と違って勝ち負けがはっきりするから」と語る夢枕先生。お話の中で強調していたのは、努力すること、持続することの大切さでした。
「僕の知る限り、空手家でもボクサーでもベルトをかけて試合する選手たちって、全員が24時間努力してますよね。そんな人間同士が戦うわけですから、負けても言い訳なんてできない。それくらいシビアな場所で闘っているところに僕はしびれるんです。
なんらかの決着がつく格闘技に比べると小説は曖昧な世界です。でも、実は共通点もあって、日々努力しないとダメなんです。僕の場合で言うと、いいアイデアが閃かなくて、どんなに苦しい状況に陥っていても、原稿は毎日書く。365日書く。そうやって努力を重ねた結果、生まれ出たアイデアや技に人が感動するんじゃないでしょうか?」
格闘技の技から創作のアイデアまで、様々なアングルから「閃き」について話してくださった夢枕獏先生。ここまで読んでくださった方には、何気なくプレイしていた「サガ」シリーズのもっと奥深い面白さが見つかるはず!
まだ「サガ」シリーズをプレイしたことがない方は、ぜひこれから冒険の一歩を踏み出してみては如何でしょう? 技の閃きをじっくり味わいながら「サガ」シリーズの広大な世界を攻略してみてください。
(終)
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