『NieR:Automata』世界史教師ライターが歩く「ニーア オートマタ」の世界
2020.10.01
こんにちは! 世界史教師ライターのまえてぃーです。
私はゲームと歴史が好きすぎて、高校教師を途中お休みし、世界の歴史遺産や「ここあのゲームの世界と似てるかも!?」といったスポットを巡る旅をしていました。
実際、現実の世界には、「あのゲームのフィールドっぽい!」「あのボスが出てきた遺跡に似てる!」などと、本当にゲームの世界にいるみたいで冒険心がくすぐられた場所がたくさんありました。
今回は、荒廃した世界で繰り広げられる、破滅的で、繊細で美しい物語。『NieR:Automata(ニーア オートマタ)』の世界を歩いてみましょう。
ニーア オートマタの物語
本作の舞台は今から遠い未来、荒廃した地球です。
地球で暮らしている人類のもとに、エイリアンが突如襲来します。侵略を目的に彼らが送り込んだ機械生命体により、人類の文明は壊滅し絶滅の危機を迎えていました。侵略を免れた少数の人類は地球を離れ月へと逃げ延びました。
残された人類はエイリアンに対抗すべく、アンドロイド兵士を作り地球へ送り込みます。十数回におよぶ大規模降下作戦を経ても、結果は振るわず。人類は状況を打破するために最終決戦兵器ヨルハ (YoRHa) 部隊を結成し、機械生命体と地球奪還をかけた戦いを繰り広げます。
本作の主人公はアンドロイド「2B」。
中世の貴婦人と現代のロリータファッションを取り込んだような容姿、美しさはもとより、その表情はいつもどこか儚げです。
プレーヤーは2Bとしてこの世界を冒険し、襲ってくる機械生命体を倒し、物語の核心に迫っていきます。
「廃〇〇好き」にはたまらない! 荒廃した世界を冒険
本作には廃墟好きにはたまらない建造物が多く登場します。それら建造物を歴史の視点で見ると、未知の土地を訪れたようなワクワク感がありますね!
主人公たちが最初にたどり着くのはなんとも怪しい工場。これは冒険の匂いしかしない!
先の見えない通路、1本くらいなくても問題なさそうな幾重にも折り重なった鉄パイプ。今にも蒸気が噴き出しそうな機械の存在感に圧倒されます。通路を走るたびにカンカンと響く無機質な足音は、この世界の空虚さを表しているかのよう。
この光景はなんとなく見覚えがあります。いつか訪れた、ドイツの「フェルクリンゲン製鉄工場」を彷彿とさせます。
世界初の工場で世界遺産に登録されたフェルクリンゲン製鉄工場は、20世紀のドイツの重工業を担っていました。本作のこの工場は何を生み出していたのでしょうか。
その他にも古いヨーロッパの古城を彷彿させる廃城や、水没してしまった都市。
廃墟なのに美しい。このちぐはぐさが、私たちの好奇心とロマンを掻き立ててくれます。
砂漠地帯の中に突如現れる住居ビル群の姿も。かつてここにあった都市は砂漠に埋もれてしまったのでしょうか。
ひとつ言えるのは、「廃墟」には人類が生みだせない美しさがあるということ。
廃墟も元をただせば人類が作ったものですが、そこから作り手である人類が消えた後、どうなるかは誰にも分かりませんよね。
だからこそ、人類の想像できない先にある廃墟に、"美しさ"を感じるのかもしれません。たとえそれが、争いの絶えない戦場の中だったとしても。
ニーア オートマタの世界を旅することは、壊れてしまったもしもの世界を旅することと同じ。生い茂る植物、傾いた建物、遠くで燃えくすぶる機械。いつか崩れて無くなることが約束されている廃墟に対し、さらにさらに芽吹こうとする植物たちが美しさを演出します。
荒廃した世界の癒やしは廃遊園地で
身体も心も疲れたら楽しい思い出づくりにぴったりの遊園地へ!
「灰色」の世界が、色とりどりの照明や打ちあげ花火に彩られ、なんともファニーなウサギの像が、一瞬であなたの心を明るく前向きにしてくれます。
稼働させているのは機械生命体たちですが、ここにいる機械生命達たちはこちらが攻撃しない限り襲ってくることはしません。
むしろお客様のあなたを歓迎してくれるでしょう。
私たちの生きる現実にも廃遊園地は存在します。
1986年4月26日、現ウクライナ(当時は旧ソビエト)のチェルノブイリで起こった史上最悪の原発事故。溢れだした放射能により大地は脅かされ、数十万人以上の人々が育った街を去らなければなりませんでした。未曽有の危機が迫っていることなど想像しなかった彼らは、ある施設のオープンを心待ちにしていたのです。
それが「遊園地」です。
同年5月1日にオープンを予定していたその遊園地は、一度もお客様を歓迎することなく、笑い声を生み出すこともなく閉園しました。
本作の廃遊園地はお客さんを迎えられているだけ、まだ救いがあるのかもしれません。
謎の機械生命体との出会い
本作の倒すべき敵、「機械生命体」。字の通り読むと生命をもった機械たち。
フィールドが変わると、衣装に身を包んだ機械生命体も登場します。スカーフと民族チックな仮面。首にスカーフを巻いているのは、砂が入ると壊れちゃうからなのかも。北アフリカのサハラ砂漠の民、ベルベル人に会いたくなりました。
ニーア オートマタは直感的で爽快な戦闘も魅力。プレイ序盤、私たちは立ちはだかる機械たちを躊躇いなく倒していきます。
さまざまな機械生命体と戦っていくうちに奇妙な感覚に襲われます。機械生命体と呼ばれる彼らに、人類が持つものと同じ「命」があるように見えてくるのです。自ら考え行動し、喜んだり、怒ったり、悲しんだりするような。
機械の命を動かすのは電気でした。そしてスイッチをオンにすることで動き、オフにすると止まります。
私たちの社会ではその昔、『産業革命』が起こりました。
産業革命では大量に機械が作り出され、大量にモノを生産するようになります。
人々は機械を動かして工場を作り、暮らしを便利にする車やミシン、果ては戦うための新型兵器を生み出してきました。
そこで意思を持っていたのは人間でした。
機械は人間が操作することで動くモノ。
ですがこのニーア オートマタの機械生命体は少し違います。
仲間の死を嘆くそぶりを見せる者がいる。
仲間の仇を討とうとする者がいる。
存在について考える者、共存について考える者、未来について考える者、
果たしてそれは「機械」なのでしょうか。
ニーア オートマタの世界で哲学の「問い」を探す
本作の世界を旅していると、時たま学校の教科書で出会った偉人と同じ名前の登場人物と遭遇することがあります。
なかでも特別なのはやはり2B達と行動を共にする機械生命体「パスカル」でしょう。 "人間は考える葦である"という名言を残した哲学者と同じ名前を持っています。
本作の世界のパスカルは機械生命体にも関わらず争いは好まず、和平の道を模索している平和主義者。つまり、他に迎合するのではなく、自ら考え出した答えのために行動しています。
彼の言葉や行動は、歴史の偉人・パスカルが唱えた「人間は自然界で最も弱いが、考えるという偉大な力を持っている」という考えにきっと縁があるに違いないでしょう。
旅をする中でいろいろな機械生命体と出会い、あなたは問われるはず。
マルクスには「戦いを決意するか、死を受け入れるか」を。
キェルケゴールには「死とは絶望か、カミへの一歩か」を。
ヘーゲルには「人間は決して歴史から学べないのか」を。
サルトルには「各々の道はどう創るべきか」を。
エンゲルスには「科学による革命を受け入れるか」を。
あの頃、教室で教科書を開いた時はよく分からなかった彼らの考えが、ニーア オートマタの世界で出会うとグッと心の深くに入ってくる気がします。
もう一度教科書を開いてみたくなりました。
雄大な自然と争いに無関心な動物
広大なフィールドを見渡すと何もかもが荒廃しているように見えます。けれど廃墟を上塗りするかのように生い茂る植物、争いには無関心でノビノビと生きる動物たち、キラキラと輝く太陽は彼らなりの「希望」のように見えます。
香り袋を装備していると、動物たちは近寄っても逃げることなく、悠々と過ごす姿を間近で観察できます。近くに寄ると思いのほか大きくて驚き。動物にまたがってフィールドを駆け抜けることもできます。
「荒廃」や「絶望」がちりばめられている世界だからこそ、この「生命」の輝きをより力強く感じます。
人類がいない大地って、こんな感じなのでしょうか。
まとめ
人類とエイリアンの争いは、アンドロイドと機械生命体の代理戦争として引き継がれ、プレーヤーはその結末に近づいていきます。
現実社会でも人類が誕生し数万年。そして有史以来人類は人類と戦争を繰り返してきました。実際、現実世界では、戦争がなかった時代はほぼありません。いつもどこかで誰かが、どこかの集団が、自らの正義を掲げ、争いを続けています。
その争いがこれからも続くとどうなるか。
そんな人類への警告を促してくれているのが、胸にちくっと痛みを残すこのニーア オートマタの世界なのかもしれませんね。
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執筆:まえてぃー 編集:ノオト
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