楽しくゲームを遊ぶ「コツ」とは?ボードゲームの専門家に「いたスト」を題材に聞いてみた
2021.04.26
こんにちは。ライターの斎藤充博です。
新型コロナウイルス感染症の流行で、自宅で過ごす時間が増えています。こういうときだからこそ、友達とオンラインで対戦ゲームやボードゲームをしている方も多いのではないでしょうか。オンライン通話やチャットをしながらプレイすると、より楽しいですよね。
個人的にボードゲームで思い出深いのは「いただきストリート」シリーズ。サイコロを振って進み、お店や株を買って資産を増やしていくゲームです。
僕が初めてこのゲームを遊んだのは成人式の日でした。成人式に出席したその足で、地元の友達のうちに遊びに行って、スーツ姿のままプレイしたんです。
ご存じの通り、「いただきストリート」は戦略性の高いゲーム。僕は大学進学で地元の友達とはしばらく疎遠になっていたのですが「いつの間にか、みんなこんなオトナなゲームをするようになったのか!」と驚いた記憶があります。
それからいろいろなプラットフォームから発売された「いただきストリート」シリーズをプレイしています。このゲームで特に感じるのは「負けるととても悔しい」ということ。負けると悔しいのは当たり前かもしれませんが、戦略性の高いボードゲームって、他のゲームよりも負けたときの悔しさが大きいような気がするんです。
そこで今回は、高円寺と神保町に販売専門店を構えるボードゲーム会社「すごろくや」代表の丸田康司さんに「いただきストリート」のコツをお伺いしてきました。
丸田さんは15年間ゲームクリエイターとして数々の有名タイトルに携わり、現在ではアナログボードゲームの制作・販売に注力されています。ゲームのことならアナログ・デジタル問わず、とても見識が深い方です。スクウェア・エニックスで一番好きなゲームタイトルは『ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち』なのだそう。
「いただきストリート」シリーズは「これまでプレイしたことがなかった」と語る丸田さんですが、僕が知りたいのは「いただきストリート」に限らないボードゲームプレイの「駆け引き」「マインドセット」などのいわば本質の部分。むしろプレイしていないからこそ気づけるようなアドバイスがもらえるかもしれません。
丸田さんが語る「いただきストリート」の魅力
――(「いただきストリート」を解説した後に)「いただきストリート」に触れて、率直にどう思いましたか?
丸田:「いただきストリート」を考えたのは「ドラゴンクエスト」シリーズの生みの親として有名な堀井雄二さんですよね。「ドラゴンクエスト」は海外のロールプレイングゲームが原型になっています。当時のロールプレイングゲームは一般の人にはハードルが高い部分があったのですが、そこに独自のアレンジを加えて遊びやすくしています。
「いただきストリート」もそれと同じで、一般の人にはハードルが高い「モノポリー」というボードゲームにアレンジを入れて遊びやすくしているゲームのようですね。ただ、アレンジの入れ方に関しては「さすが堀井さん」と思う部分がたくさんあります。
――丸田さんから見て、「モノポリー」と「いただきストリート」の一番の違いはどこでしょうか?
丸田:モノポリーではサイコロを2つ使います。それぞれの出目を足した分のマスを進めることができるんです。すると、7が多くなって、2や12は少なくなるという偏りが生まれますよね。サイコロを振ったときに、どのくらい進めるかという確率的な予想が立てられるのです。
丸田:一方「いただきストリート」では使うサイコロは1つだけ。こちらは出目に偏りは出ません。進める数はランダムになります。
――そうすると、「モノポリー」は戦略性が高く、「いただきストリート」は運の要素が高いということになりますか?
丸田:サイコロの出目に関してはそうですね。その代わり「いただきストリート」ではプレイヤーが移動する方向を選ぶことができます。これが戦略になっている。細かい違いのようですが、こういうところでプレイの感覚が変わるんです。
――「モノポリー」にない「いただきストリート」の要素として株取引があります。これについてはどうでしょうか。
▲株の取引画面
丸田:株取引も「堀井さんらしいなあ」って思いました。特に、自分のエリアの株を自分で買って、そのエリアに増資できるのがいいですね。現実だとインサイダー取引になってしまいますが、「いただきストリート」ではできる。こういう割り切り方は面白いです。
「交渉」すればするだけ有利になる?
――それではお伺いしたいのですが...「いただきストリート」で勝つにはどんなことに気を配れば良いでしょうか?
丸田:すでに定石として出ていることと思いますが、エリア独占を目標に行動することですね。このゲームでは独占すると圧倒的に有利なはずです。狙っているエリアが買えそうだったら、渋らずに物件を買うのがいい。そうでない場面では、エリア独占のためのお金をキープしておく。
――ただ、独占が難しいときもあります。「いただきストリート」では条件を付けて互いの物件を交換できる「交渉」システムが用意されています。これが成功すれば独占に一歩近づきますが、交渉を有利にするコツはありますでしょうか。
▲「いただきストリート」では相手と物件交換の交渉ができる
丸田:これはボードゲームに限らずなのですが...交渉はお互いが満足するWin-Winで行うのが基本です。でもその中に、ほんのちょっとだけ「自分が交渉相手より有利になるような条件」を入れておくと良いです。相手に気づかれないように。
――なるほど...しかしそうなると、自分が交渉を持ちかけられた場合は「自分が気づいていない不利な条件が入っているかも」と思ってしまいます。相手が交渉してきた場合はできるだけ応じないほうがいいのでしょうか?
丸田:「交渉」はすればするほど有利になるんですよ。例えば、A、B、C、Dの4人でボードゲームをプレイしているとしますよね。交渉は基本的に2人がWin-Winで行います。
まず、AとBが交渉して、それぞれが交渉する前より良い状態になるとする。次にAとCが交渉して、同じように良い状態になるとします。すると、2回交渉したAは他の3人よりもずっと良い状態になっているのが分かりますか? 特に自分のターンでないときに交渉をもちかけられるのは、チャンスが増えるぶんかなりお得です。
――確かにそうですね!
丸田:この前提をみんなが共有していないと、なかなか交渉自体が成り立たない。交渉が行なわれないとプレイヤー全員が少しずつ沈んでいくとも言えます。
――失敗するリスクを怖れて、行動を起こさないことで、全員がずぶずぶと沈んでいく...なんだかうまくいかない組織ってそんな感じなんじゃないか、って思ってしまいました。
丸田:そういうところから学びが始まるのもゲームの面白いところですね(笑)。ところで今までの交渉のコツはボードゲーム一般に通じる話です。そこで「いただきストリート」を見てみると、システム上そこまで複雑な交渉はできないようになっていますね。
――「いただきストリート」では、物件とゴールドが交渉の条件になります。限られた条件ではありますが、丸田さんだったらどんな交渉をしますか?
丸田:僕だったらシステム上の条件に加えて、交渉相手と口約束をするかもしれません。「こんどお前がピンチになったら助けるよ」って。それは守っても良いし、破ってもいい。もちろん相手との関係性を考えつつですが。「この交渉を飲んでくれたら後でジュースおごるよ」なんて言ってみるのもアリです。
――言われたら悩んでしまいそう。一気にゲームの楽しみ方が広がりますね。ゲーム内コミュニケーションに限らず、ゲームが終わった後のコミュニケーションもできるわけですから。対人戦ならではの醍醐味です。
丸田:交渉って面白いんですよ。ボードゲームにも「クオバディス」という相手との交渉のみで展開するゲームがあります。ただ交渉を楽しむのって、ハードルが高いんですよね。「クオバディス」も面白いのですが、一般にはそこまで広がらず、今は絶版になってしまいました。「いただきストリート」はできるだけ多くの人に交渉を楽しんでもらうために、交渉の要素を単純にしているのではないかと思います。
▲問答無用で相手の物件を買い取る5倍買い
――「いただきストリート」ではお店価格の5倍で相手の物件を購入する「5倍買い」という仕組みがあります。相手がエリア独占を果たす邪魔をしたり、自分が有利になる状態を作り出したりする一方、自分が損をする可能性も高い諸刃の剣です。これはどういうタイミングで使うのがいいでしょうか?
丸田:5倍買いは序盤で行う必要はありません。ゲーム後半で、5倍買いを行う相手が圧倒的に有利な状態になっている時に初めて考えることですね。「身を切って暴走を止める」イメージで使うのがいいのではないでしょうか。それでもギャンブルではありますが。
「5倍買い」はモノポリーにはない要素ですね。これは交渉が苦手な人の向けのケアなのかもしれないと思いました。有無を言わせずに相手の物件を手に入れてしまうわけですから。
ゲームを遊ぶときに大切なのは相手の魅力を引き出すこと
――「いただきストリート」をプレイしていると、どうしてもうまくいかないことがあります。特に序盤で失敗すると、ゲーム終盤までずっと気持ちも順位も沈んでしまうことも...こんなときはどうすればいいでしょうか?
丸田:「いただきストリート」はある程度ゲームが展開してプレイヤー同士に差がつき始めたら、そこから逆転するのが難しいゲームだと思います。サイコロの話をしたときに、「いただきストリート」は「モノポリー」より運の要素が強いとは言いましたが、このようなタイプのテレビゲームの中では運の要素が少ないほうです。
▲いいことも悪いことも起こるチャンスカード
――プレイヤーが悪いチャンスカードを引いて資産額を下げて逆転を許す、なんて運要素はゲームの面白い部分ではありますが、基本的には自分がやったことの積み重ねで勝負が決まってしまいますよね。
丸田:そうですね。だから序盤で失敗すると、ずっと沈んでしまうことがあるのは、仕方がないのではないでしょうか。「あのとき、ああすれば良かったんだ!」って自分の失敗として受け入れて、次のゲームに生かすのがいいと思います。
――トップ同士が争って落とし合うなか、諦めず漁夫の利を狙って立ち回るなんてことですかね。しかしそのマインドセットは慣れない人にとっては厳しいようにも思えてしまいます。
丸田:運要素の強いボードゲームだと、どれだけ学んでも、理不尽に負けてしまうということがありますよね。必死にロジックを積み重ねても、相手がたまたまいいカードを引いたら大逆転されてしまうとか。現代ではそうした運要素が強いゲームが親しまれている印象です。
でも「いただきストリート」はそうではない。偶発的な要素はありつつも、自分のやったことがすべて結果につながるからこそ、学んでいけばどんどん勝てるようになる。こういったゲームのほうが、やりがいが感じられませんか。きっとファンの熱量は高いはずです。
――学んだほうが強くなる。すると、初心者が対戦するには尻込みしてしまうかもしれません。初心者と経験者が対戦する場合、経験者はどんなことに気をつけたら良いでしょうか?
丸田:ゲームのルールや要素をきちんと提示する。プレイ中に気づいたことがあったら教えてあげる。そうして、初心者を好敵手にしていければいいと思います。これは「いただきストリート」に限らず、ボードゲームやオンラインゲームすべてに言えることです。
――きちんと初心者に「教える」ことが重要なんですね。
丸田:その一方で経験者は初心者の攻略に口をだしてはいけません。攻略は自分自身で行うことです。例えば、「このまま進むと右と左の選択肢があるよ」っていうのは教えてあげる。だけど「左に行ったほうがいいよ」とは言ってはいけません。
「こうすればいいかもしれない」という攻略は、一人一人が思いつくクリエイティブな「発明」なんです。それを経験者が潰してはいけません。
――単なるゲームの話だけではなく、対人コミュニケーション全般で大切なことですね。丸田さんは人とゲームをするときに重視していることはなんですか?
丸田:一緒にプレイする人の魅力を引き出すことです。勝ち負けはゲーム上の目標ではありますが、楽しむのはそこではないんですね。
「いただきストリート」だったら、自分の勝ちにつながらなくても、相手にわざと嫌がらせをして反応を見たりすると思います。もちろん致命的に悪いことはやらないですよ。されたほうから「なんだよ~!」って、反応が返ってくるくらいのものです。そういうコミュニケーションが面白い。
丸田:例えるならば、プロレスに近い。プロレスって、攻撃を避けないじゃないですか。だから真剣勝負じゃないって批判する人もいるけど、そういうことじゃないんです。あれはお互いの鍛えた肉体や技を受けあって、確かめ合っているんですね。そういった、相手の考え方や勘所を探る、ゲームを通して相手と会話するようなプレイスタイルが好きです。
――では、もしも丸田さんが嫌なタイミングで5倍買いされたら、どんな反応をしますか?
丸田:勝負そっちのけで、 5倍買いをした人の邪魔に走るかもしれない(笑)。そのほうがゲーム全体が面白くなると思うんです。
もちろん、コミュニケーションよりも、勝ち負けを重視する人もいますよね。そうした楽しみ方もあると思います。ただ、そういう人は必ずしも人とプレイする必要はないかもしれません。人との対戦とコンピューターとの対戦、どちらを好むかはそこで分かれそうです。
まとめ
丸田さんに「いただきストリート」の攻略法をメインに伺いましたが、ゲームをするときの心構えや、さらには対人関係のありかたにもつながる、とても深い話を聞くことができました。
「いただきストリート」は戦略性が高く、やりがいのあるボードゲーム。しかし楽しむためには、相手とのコミュニケーションが重要です。友達とプレイすると、今まで知らなかったような一面を見ることができるかもしれません。
「いたスト」シリーズの最新作である『いただきストリート ドラゴンクエスト&ファイナルファンタジー 30th ANNIVERSARY』はPlayStation Storeからダウンロード販売で今すぐ買うことができます!オンライン対戦にも対応しているので、お家にいながら友人や大切な人とも遊べますよ。
初めての人も、以前プレイしたことがある人も、この機会に遊んでみてはいかがでしょうか。
(終)
執筆:斎藤充博 編集:ノオト
撮影:今井ミナ
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