『すばらしきこのせかい』現実の渋谷とすばせかの「シブヤ」はどうリンクしている? 渋谷研究者とゲーム世界探訪

ライターの神田(こうだ)です。今回はスクウェア・エニックスさんのサイトでコラムを書いています。

毎朝テレビで目にする天気予報。東京の風景としていつも映されているのは、あの渋谷スクランブル交差点です。当時地方に住んでいた私は、たくさんの人がすれ違う交差点を都会の象徴としてうらやましく思っていました。

 

その私を熱狂させたのが、2007年にニンテンドーDSソフトとして発売された『すばらしきこのせかい』(以下、すばせか)。シブヤの雑踏で目覚めた主人公・ネクが突如7日間の「死神のゲーム」に巻き込まれ、仲間と協力しながら自身の存在を賭けて戦います。

作中では、現実の渋谷にあるスクランブル交差点やハチ公像、109をモチーフとした建物などが登場し、私は渋谷の街のかっこよさに憧れていました。

 

現在Nintendo Switch版『すばらしきこのせかい -Final Remix-』が販売中の本作。

そんなゲーム内のシブヤはいったいどんな世界で、現実の渋谷とどのようにリンクしているのでしょう。現実の渋谷のことを知れば、よりゲームを楽しむことができるのでは?

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今回ご協力いただいたのは、渋谷の歴史や文化について研究する「渋谷学研究会」を取りまとめ、書籍『渋谷学』を出版されるなど、渋谷への造詣が深い國學院大學教授・石井研士さん。現実の渋谷と『すばせか』のシブヤはどうリンクしているのか、お話しを伺いました。

 

※現実世界は「渋谷」、ゲーム世界は「シブヤ」と表記を分けています

そもそも渋谷はどのような街だった?

『すばせか』は現実の渋谷をモチーフにした「シブヤ」を舞台にキャラクターたちが物語を繰り広げるゲームです。そもそも現実の渋谷は、どのような街なのでしょうか。

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石井:最近は都市開発が進み、人々の動きも変わって昔とは町並みが変化していますが、昔も今も変わらず「若者の街」と言えるでしょう。1990年代中期には、「渋谷系」と呼ばれるファッションや音楽が流行しました。現在でも、その片鱗を残す文化が息づいています。

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▲ゲーム内のショップで服など装備品を購入できる

ゲーム内でも、ファッションや音楽はアイテムとして登場しますね。石井先生は渋谷をどのような点で特徴的な街だと感じられますか?

石井:渋谷は細い道にお店が集積し、駅や地下街が迷路のように入り組んでいますよね。そこにさまざまな職業や人種、年齢の人々が集まって、ときにはぶつかりそうになりながら行き交う、ある意味、混沌とした街だと、私は感じています。

上京した今でも渋谷の人の多さには慣れません。いろんな人が集まるからこそ、渋谷は文化発信の街になり得たのでしょうか。

石井:そうですね。いろんな人が集まって、カリスマが登場して文化が生まれ、そこから淘汰されてしまったものがまた文化として芽吹くこともあり...。文化は対立や混沌から生まれてくるものなので、渋谷はそうした土壌が備わっていた都市だと言うことができます。

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作中でもキャラクターたちが渋谷という街の特殊性に驚く場面がありました。社会的にもその時代に生きる若者たちにとっても、特別な場所であったことは間違いなさそうですね。

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▲主人公・ネクは渋谷生まれ渋谷育ち

スクランブル交差点、ハチ公像、109... 渋谷を特徴づけるスポット

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▲主人公・ネクはスクランブル交差点で目覚める

『すばせか』のシブヤには、スクランブル交差点やハチ公像、実際にある施設をモチーフにした「104」や「モルコ前」といったステージが登場します。主人公・ネクが最初に目覚めるスクランブル交差点は、どのような場所なのでしょう。

石井:スクランブル交差点は、青信号1回分で多いときには約3000人が行き来するなど、日本の都市風景を表す世界有数の巨大交差点です。海外からの観光客も多く見られました。年末には交差点で年越しカウントダウンで騒ぐ人がいたり、ハロウィンでは仮装した人々であふれていたり。

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スクランブル交差点は人々がすれ違うだけでなく、イベントの場所になることも多い印象です。

石井:だから、スクランブル交差点は単なる交差点ではないんですよ。元々知り合いじゃない人がそこで出会うなど、何か既存の価値観を壊すような場所になり得るんです。

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ネクとパートナーが出会う場所もスクランブル交差点でしたね。他人を嫌い、自分の世界に閉じこもっていたネクもいろんな人や価値観に触れて次第に考えを変えていきます。それでは、待ち合わせ場所としても有名なハチ公像についてはどうでしょう。

石井:飼い主の帰りをかいがいしく待ち続けた忠犬ハチ公を象った「ハチ公像」は、今でも多くの人が待ち合わせの目印にしていますよね。実は今あるハチ公像は戦後に再建された二代目で、時代とともに場所を移ったり向きが変わったりしているんです。

それは初めて知りました! 地方にいるときハチ公はテレビで見て知ってはいましたが、ゲームで登場したときに「あのハチ公だ!」とわくわくしました。それにしても、なぜハチ公像がこんなに有名になったんでしょうか。

石井:それは、やはりハチ公が忠犬だったからじゃないでしょうか。ひとつは主人を想う気持ちの強さにみなが共感したというのが大きいでしょう。別の考え方ですが、主君への忠孝を表した出来事として戦時中に教科書などで頻繁に取り上げられていたからというのも理由としてあります。今はそんなこと思う人はいないでしょうが、そういう意味付けをされるものでもあったんです。

ハチ公ひとつとっても、渋谷ではいろんなものが多義性を帯びながら劇的な変遷を遂げてきました。

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▲作中ではキャラクターたちがハチ公について言及するシーンも

時代を経るなかでさまざまな意味付けをされてきたんですね。今でもファッションアイコンとして名前が上がる「109」(ゲーム内では「104」として登場)はどうでしょうか。

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石井:今のように若者のファッションアイコンとなる前は、いたって普通のファッションビルでした。しかし、現在の路線になるきっかけになったのは、1991年のバブル崩壊のときでした。

そのとき、109の象徴的な店として「ミー ジェーン(me Jane)」というブランドがあったんです。バブル崩壊で周りの店が売り上げを落としたのに、その店は売り上げを落とすことなく若者を中心に売れていた。その状況を見た経営層が全館を若者向けテイストにしようと決断をするわけです。そのような経緯があり、若者のアイコン的存在になったようですね。

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▲作中にはトレンドの変化がパラメーターに影響を与えるシステムも

なるほど。当時の若者たちがトレンドを追って買い支えたからこそ、今の109になった、と。

石井:そのように大資本が文化を作ることもあったんですが、若者たちが選んで作ってきた側面がありました。今でこそ109は店舗を全国展開したので、渋谷という特殊性はなくなってしまいましたが。

渋谷という場所はそうしたアイコン的かっこよさがありつつも、地方出身の私としてはどこか怪しげな怖さもありました。

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石井:きらびやかな側面ではなく、そうした怪しさも渋谷は持っていますね。今は開発も進んで渋谷の持つ暗い側面は薄れてきましたが、1990年代のセンター街はちょっと恐ろしくて歩けなかったですね。

今でもセンター街を歩くと身がすくむような気持ちがします...。もうひとつ、ゲームに登場する宇田川町は、主人公・ネクがグラフィティと出会う印象的な場所でもあります。ここもプレイしながら怖そうな場所だなと思いました。

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石井:宇田川町はセンター街やパルコ、東急ハンズのある地域で、路地にはクラブやレコードショップが立ち並び、音楽カルチャーがさかんな場所ですね。目利きの店に音楽マニアが集まり"レコードの聖地"とも称されたこともあります。

そんな側面を持つ宇田川町ですが、実はいわく付きの団体が身をひそめていたりと危ない場所でもあった。だから渋谷にもアンダーグラウンドの側面があり、そのような混沌さがあったからこそいろんな人が集まって、文化が生まれてきたんだと思います。

宇田川町はゲームでも特に印象的な場所として描かれています。『すばせか』のプレイ後に上京して渋谷を訪れたとき、ゲームを思い出して宇田川町を散策しました。得体の知れないものが潜んでいるような怪しげな雰囲気を肌で感じて「ネクもここにいたんだ」とドキドキした記憶があります。

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▲グラフィティに触れるネク

なぜ若者たちは「渋谷」に集まったのか

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いろいろお話しを伺いましたが、なぜ他の街じゃなく渋谷が若者の街として発展したんでしょうか?

石井:一説によると、NHKがあって出版関係の仕事が集まったからだと言われていますが、私は違うと思います。これは、例えば新宿と渋谷を対比してみるとわかりやすくなるかもしれません。

新宿は1960年代に学生を中心に既成の文化や秩序に対抗する「カウンターカルチャー」が盛んな場所でした。新宿駅西口に何千人という若者が集まって反戦のフォークソングを歌うなどして、その時代の価値観に対するプロテストを表明していました。そういう場所が新宿だったんです。

私は当時の社会の雰囲気はわかりませんが、新宿でそういうことがあったとは驚きです。

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石井:新宿に比べると、当時渋谷はそういう政治的なイメージがなくて、パルコや西武といった大資本が文化戦略を打ち出し、1980〜90年代に急速に日本の都市文化の中心を担っていきました。時代の閉塞感を高校生や若者が感じて、その思いが表明されたのが渋谷だったと私は考えています。時代の変化や価値観のせめぎ合いの中で新しい文化が生まれてきたのが渋谷という街なんです。

そういう点で言うと、渋谷はどんどん新陳代謝を経て新しくなっていく街ということですね。最後に、石井先生が思う渋谷の好きなところを教えてください。

石井:場所でいうと、私は渋谷駅がいいですね。途中で迷って外に出られなくなったり、地下3階を歩いていたのにいつの間にか地下2階になっていたり。効率的な動線を求めていったら、入り組んだダンジョンになってしまった。私はもっともっとわかりにくくなってほしいですね。そこにまるでゲームみたいに中ボスやラスボスがいたらもっと渋谷は楽しくなるはずです。

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まとめ

石井先生のお話を伺ったことで、渋谷の町並みや歴史的背景から『すばらしきこのせかい』のシブヤという世界についてより深く知ることができました。

今回のインタビューで印象に残ったのは、スクランブル交差点が「何か既存の価値観を壊すような場所になり得る」ということ。主人公・ネクが最初に目覚めるのも、スクランブル交差点です。そこからネクはパートナーと出会って「死神のゲーム」を攻略しながら、いろんな人や価値観に出会っていきます。

『すばらしきこのせかい』は、混沌渦巻く渋谷の魅力をぐっと詰め込んだゲーム。現実の渋谷を深く知ることで、よりゲームに没入できるはずです。

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また、本シリーズの最新作である『新すばらしきこのせかい』が7月27日に発売されました。さらに進化したシブヤの世界を楽しむことができますよ。無料体験版も配信されているので、気になった方はぜひダウンロードしてみてください(詳細はコラム下の商品情報をご確認ください)。

今回紹介した『すばらしきこのせかい -Final Remix-』は新しいストーリーやアイテムを追加するなど、過去作をプレイした人でも楽しめるようになっています。また未プレイの人はもちろん、既にプレイした人も『すばせか』で渋谷の街を冒険してみてはいかがでしょうか。


(終)

執筆:神田匠 編集:ノオト
撮影:柴原薫

関連タイトル情報

すばらしきこのせかい -Final Remix-

発売日:2018年09月27日(木)

プラットフォーム:Nintendo Switch™

CERO:A 全年齢対象

権利表記:© 2007, 2018 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. CHARACTER DESIGN:TETSUYA NOMURA & GEN KOBAYASHI

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新すばらしきこのせかい

  • 体験版あり

発売日2021年7月27日(火)

プラットフォームPlayStation®4 / Nintendo Switch™

CERO:B 12才以上対象

権利表記:© 2021 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
CHARACTER DESIGN:TETSUYA NOMURA & GEN KOBAYASHI & MIKI YAMASHITA

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