全てのシーンが絵画のように美しい 『オクトパストラベラー』の魅力を様々な切り口で解明!
2022.03.17
Nintendo Switch、Steam、Google Stadia、Xbox Oneで好評発売中の『オクトパストラベラー』は、ドット絵に3DCGの効果を加えたHD-2Dによる表現が注目を集め、ファミ通アワード2018で優秀賞を獲得、現在でも根強いファンが多いRPGタイトルです。本コラムでは、HD-2Dを採用したグラフィックの美しさに着目し、ドット絵の歴史などにも触れながら『オクトパストラベラー』の魅力に迫ります。
ライター:中野
美術ライター。主に美術系Webサイトに寄稿。さまざまな分野の記事を書いています。
グラフィック表現における画期的な新技法「HD-2D」
ゲームとドット絵の歴史と進化とは
2018年に発売された『オクトパストラベラー』は、場所も目的も特技も異なる8人の旅人たちが、舞台となるオルステラ大陸で自由に旅をするRPGです。そんな本作の特徴のひとつとして、ドット絵に3DCGの画面効果を加えた「HD-2D」という技術が駆使された美麗な映像表現が挙げられるでしょう。
HD-2Dは懐かしさを喚起するドット絵と、最新の3Dの効果を併せ持っており、古さと新しさ双方の良い点を生かすことができる画期的な技術と言えます。本作をプレイしてみると、独特の立体感や空気感に驚きと懐かしさを覚え、まさに本作が掲げる「伝統と革新の融合」が実現されていることを感じられるでしょう。
ゲーム機が一般家庭に普及し始めたのは、1970年代の終わりごろでした。当時のコンピューターの性能は今と比較すると低く、解像度や色数にかなりの制限がありました。そうした制約の中で、描きたい絵を表現しようとして生まれたのがドット絵です。当時のコンピューターグラフィックスではそれが唯一の技法だったので、「ドット絵」という言葉も使われていませんでした。
その後、コンピューターの性能は飛躍的に上がり、グラフィックの技術も進歩し、今では現実そのもののような映像表現も可能になりましたが、ドット絵は消えることなく使われています。そのビジュアルはゲーム黎明期の懐かしさを喚起するほか、限られた条件で表現することの魅力と可能性を持っているからかもしれません。実際、美術史においても、現代のイラストやアートにおいてもドット絵的な表現は世界中のクリエイターに活用されています。
一例では、江戸時代に活躍した伊藤若沖が『樹花鳥獣図屏風』『鳥獣花木図屏風』『白象群獣図』といった作品で全体に細かい升目をひいて個々の升を塗り分けることで絵をあらわす「升目描き」という手法を使用しています。
素材感、光の表現、構図...
人を惹き付ける絵作りに見られる歴史的な名画との共通点とは?
美麗なグラフィックで人気を博している本作。そこに着目してみると、歴史的な名画に用いられた技法との共通点が見えてくるような気がします。本作がプレイヤーを惹きつける理由について、具体例を挙げながら考えてみましょう。
雪の輝きや水の彩りに驚嘆
複数の画材や手法が活用されたような質感豊かな世界
『オクトパストラベラー』は、どのシーンを切り取っても息を呑むほど美麗なビジュアルとなりますが、印象的な要素として、宝石のように輝く雪や、滴るような水の表現が挙げられます。とりわけ水の描写は際立っており、まるで透明水彩絵具で描いたように見えます。
透明水彩絵具は、糊の成分が多いために絵具の透過性が高く、背景色を透けさせる効果が特徴的な画材です。そのため、淡い色や明るい色で透明感や清涼感を出しつつ、ぼかしやにじみなどの温かみのある表現も可能としています。本作の水の表現には、まさにそれらの要素が出ており、ゲーム画面が透明水彩絵具を使用した絵画のように見えるのです。
また、建築物や森林などは独特の立体感や重さがあり、それらのジオラマのような雰囲気や重厚感のある肌合いは、雪や水の質感とは異なっています。しかし画面全体を風景として鑑賞すると、見事に調和が取れているのです。絵画においてもしばしば用いられる、様々な画材や手法が混在しているような表現は、このゲームの世界に豊かさと重層的な魅力を与えていると言えるでしょう。
ハッとさせられる絵づくりに見る、名画との共通点とは?
本作のビジュアルを魅力的なものにしている要素として、グラフィックによるリアルな質感に加えて、「構図」もその一つであると考えられます。例えば、室内で左側の窓から光が差している場面。ここでは名画と共通する構図が見られます。
例としては、ネーデルラント連邦共和国(オランダ)の画家、ヨハネス・フェルメールの絵画が挙げられます。フェルメールは以下のような、画面の左から光が差す絵を多く残しています。こうした作品における窓の位置に関しては、フェルメールが北の窓から光が入るアトリエを手本として描くことが多かったからだとも言われています。
出典:ヨハネス・フェルメール『Young Woman with a Lute(リュートを調弦する女)』メトロポリタン美術館蔵
活版印刷技術の発明者であるヨハネス・グーテンベルグの名を冠した『グーテンベルク・ダイヤグラム』によれば、均一に配置された情報を見る時、視線は左上から右下に動くとされますので、この構図は視線誘導に沿っており、自然な形で受け入れられるということもあるでしょう。
一方で、フェルメールの絵がそうであるように、窓からの光は希望を感じさせ、また窓の外の景色が見えないことで室内の情景がより記憶に残るといった要素も効果的に働いていると考えられます。
例に挙げたようなヨーロッパの名画と重なる構図が多数見受けられることもあり、本作の世界観には、中世ヨーロッパとファンタジーが混ざったような印象を受けます。他にもどのような例があるか、各地を探してみるのも面白いかもしれませんよ。
まだまだある「光」の表現!
天使の梯子(レンブラント光線)によるドラマチックな演出
光を効果的に用いた例で言うと、他にも森の中や海の上などの屋外シーンでの空から斜めに差す光が印象的です。この光は、雲の切れ間から光が漏れて、光が放射状に地上へ降り注ぐ、「薄明光線(はくめいこうせん)」と呼ばれる現象の中の光を連想させるように思います。
薄明光線は、「天使の梯子」「天使の階段」「ヤコブの梯子」といった数々の美しい異名を持ちます。この異名は、旧約聖書創世記28章12節における、ヤコブが夢の中で、天まで届く梯子が地上に立ち、神の使いたちが上り降りしている光景を見たという記述に由来するとされます。古より人類は、この美しくて迫力のある光に魅せられてきたのです。
バロック絵画を代表する画家の一人として知られる、ネーデルラント連邦共和国のレンブラント・ハルメンソーン・ファン・レインがしばしばこの技法を用いたため、薄明光線は「レンブラント光線」という別名で呼ばれることもあります。
出典:レンブラント・ファン・レイン『The Presentation in the Temple: Oblong Plate(神殿奉納)』メトロポリタン美術館蔵
「光の画家」「光と影の画家」「光の魔術師」「光と影の魔術師」といった別称を持つレンブラントが好んだ薄明光線は、光と影のコントラストを強化し、景色に壮大さと非日常性を付与します。ゲーム内の光は必ずしも雲の切れ目から出ているわけではありませんが、天空から降り注ぐ神秘的な光芒は、薄明光線と同様に神々しくドラマチックな効果をもたらし、プレイヤーを魅了していると言えるでしょう。
※「レンブラント光線」は、写真撮影のライティング技法である「レンブラントライティング」とは別の言葉です。
『オクトパストラベラー』の美しさと表現の面白さを総括
新技術の明るい未来と進化
ここまで見てきたように、オクトパストラベラーのビジュアルには、名画を思わせる構図や複数の画材を使ったような表現の工夫、神々しさを生む光の表現などの魅力的な要素が多数あり、加えて「懐かしさ」を喚起するドット絵が違和感なく共存しています。
本作のグラフィックは現時点で既に完成されていると感じますが、HD-2D自体が新しい技法ですので、今後も発展の余地はあるのだろうと思います。もしかするとHD-2Dも、ドット絵と同様に、時代の流れと共に進化して再解釈され、新しい技術に組み込まれる可能性もあるように思います。今の時点で既に美しい世界が今後はどう進化していくのか、とても楽しみですね。
『オクトパストラベラー』の魅力を引き継ぐ
「トライアングルストラテジー」
HD-2Dへの更なる期待に応える作品の予感
2022年3月4日(金)に、スクウェア・エニックスよりNintendo Switch版の「トライアングルストラテジー」が発売されました。こちらは『オクトパストラベラー』と同じ制作チームの手によるタクティクスRPGで、最新のHD-2Dを駆使した作品となります。
三つの国が大戦を繰り広げてきた大地「ノゼリア」を巡るRPGである本作は、重厚で作りこまれたストーリーとバトルが魅力で、作曲家の千住明が全楽曲を担当という豪華な内容です。それらに加えHD-2Dも見ごたえ満載と、プレイヤーが惹きこまれる要素がたっぷり詰まっています。こちらもぜひ遊んでみてくださいね。
『オクトパストラベラー』とは
「旅立とう、君だけの物語へ――」
3DCGとドット絵が融合したHD-2Dの表現と、独創的なエフェクトが織りなす幻想的な世界。生まれた場所も、旅の目的も、そして特技も異なる8人の中の1人として、どのような経験をするのだろうか...?
⇒公式サイトはこちら
「トライアングルストラテジー」とは
『オクトパストラベラー』でも採用された映像表現「HD-2D」で描かれる重厚なストーリーと、奥深いバトルが展開。プレイヤーは、戦乱の大地・ノゼリアで困難な選択を迫られる。
それぞれの正義はどこへ向かうのか...?
⇒公式サイトはこちら
関連タイトル情報
今注目の記事
-
2025.01.06
アルカディア・ベイへの招待状?! ブラックウェル高校 学校案内【Life is Strange Remastered Collection】
-
2024.11.27
PlayStation®5・PlayStation®4・Nintendo Switch™で遊べる「ドラゴンクエスト」シリーズを一挙ご紹介!
-
2024.11.15
今、ミッドガルで高圧洗浄が求められているーー清掃のアルバイトでミッドガルに潜入!
-
2024.10.16
初代『ドラゴンクエスト』に登場するお馴染みの町を復興&激写! スクエニ絶景写真部『ドラゴンクエストビルダーズ アレフガルドを復活せよ』編
-
2024.10.09
2024年秋の新作タイトルをご紹介!
検索
タグ
- FANTASIAN
- FOAMSTARS
- FORSPOKEN
- HD-2D
- JUST CAUSE
- OUTRIDERS
- いただきストリート
- お宅訪問
- すばせか
- みんスぺ
- アニマルウォッチング
- インタビュー
- オクトパストラベラー
- キャラ紹介
- キングダム ハーツ
- ゲーム案内所
- コラボ
- サガ
- シリーズ紹介
- スターオーシャン
- ダンジョンエンカウンターズ
- チョコボの不思議なダンジョン
- ドラゴンクエスト
- ドラゴンクエストヒーローズ
- ドラゴンクエストビルダーズ
- ニーア
- ハーヴェステラ
- バランワンダーワールド
- パラノマサイト
- パワーウォッシュシミュレーター
- ファイナルファンタジー
- ライフ イズ ストレンジ
- ライブアライブ
- ヴォイスオブカード
- 企画
- 地獄の軍団
- 新作紹介
- 旅行
- 春ゆきてレトロチカ
- 短編
- 結合男子
- 聖剣伝説
- 電車でGO!
- 鬼ノ哭ク邦